
近年、Webサイトや業務システムを作成するとき、スマートフォンでの利用を前提とした設計が当たり前になりました。それだけでなく、高齢者や障がいのある人などを含む、すべての利用者が利用できるように、アクセシビリティを考慮した設計が求められています。
ウェブアクセシビリティについての日本産業規格であるJIS X 8341-3は、現時点では2016年版に発行されたものが最新ですが、2026年に改正される可能性が高まっています。具体的にどのような対応が必要なのかを考えます。
改正の背景にある国際標準と社会制度の変化
2024年に施行された「改正障害者差別解消法」によって、民間企業にも合理的配慮の提供が義務化されました。これにより、ウェブアクセシビリティは「努力目標」ではなく、多くの企業が優先して取り組むべきテーマになっています。JIS準拠の重要性が、以前よりも格段に高まっているのです。
そんな中、2025年9月に、ウェブコンテンツのアクセシビリティに関する推奨事項をまとめた国際的な規格である「ISO/IEC 40500」が更新されました。これは、2023年10月にW3C*が勧告したWCAG 2.2*を採用し、達成基準が増加したものをもとにしたものです。
*W3C:World Wide Web Consortium(ワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアム)の略。World Wide Webで使用される各種技術の標準化を推進するために設立された標準化団体、非営利団体のこと。
*WCAG:Web Content Accessibility Guidelinesのこと。
日本産業規格であるJIS X 8341-3も、ISO/IEC 40500と整合しているため、国際標準が更新されれば、合わせて見直されるのが自然な流れです。改正原案作成委員会が2025年11月に発足し、2026年度中に新しいJIS規格が発行される見込みです。
この改正では、民間企業や行政機関の実務に即した内容にすることが重視されており、単に達成基準を増やすだけではなく、試験方法や運用面の考え方まで含めて整理される見込みです。
改正で何が変わるのか
現行のJIS X 8341-3:2016は、WCAG 2.0をベースにしています。このため、改正後は、2018年に公開されたWCAG 2.1、2023年に公開されたWCAG 2.2で追加された達成基準が取り込まれる見込みです。
WCAGでは、達成基準を「A」「AA」「AAA」の3レベルに分けており、レベルAは最低限の基本要件、レベルAAは一般的に目標とされる要件で、公的機関などで多く求められる水準です。
WCAG 2.0では61個の達成基準がありましたが、WCAG 2.1では、スマートフォンなどのモバイル端末でのアクセシビリティ、視覚障害がある人や、認知・学習障害を持つ人に対応するために、17個の新しい達成基準が追加されました。
さらに、WCAG 2.2では、より幅広い利用者がアクセスしやすくなることを目標として、新たに9つの達成基準が加えられています。単純に増えたというより、現代の利用環境に合わせて必要な観点が広がったと考えると分かりやすいでしょう。
今回の改正では、特にレベルAやAAの項目が増えることが注目されています。たとえば、スマートフォンを使っている人や、細かい操作が難しい人にとって、ボタンが小さすぎると押し間違いが起こりやすくなりますし、フォーム入力が複雑だと途中で離脱してしまう原因になります。これらを解消する方向で進められています。
デジタル庁ガイドブックで基礎をつかむ
現時点ではまだ改正が決まったわけではありません。しかし、すでに公開されているものとして、デジタル庁による「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」があります。この資料は、2025年にデジタル社会推進標準ガイドラインとして編入されており、行政機関や事業者がゼロから学べるように作られた初心者向けの内容で、図解も多く、理解しやすい構成です。
このガイドブックは、単に規格を説明するだけでなく、現場でどう運用するかまで踏み込んで解説されています。スマートフォンへの対応もカバーしており、JIS X 8341-3:2016の早見表も付属しています。動画の資料も公開されており、公的な機関が公開している資料の中でもわかりやすく構成されています。
基礎知識だけでなく達成目標、実践的なプロセス、FAQといった流れで構成されており、過剰な対応に陥らないための考え方も学べます。開発者だけでなく、発注者としてベンダーとの認識を合わせる人にも役立つはずです。
企業や機関が今からできること
JISの改正に対して重要なのは、発行されるのを待ってから動くのではなく、今のうちから準備を進めることです。まずは現行のJISでの対応状況を把握し、そのうえでWCAG 2.2で強化される項目を先取りして確認するのが現実的です。
あわせて、計画を策定し、対応のための予算を確保しておくことも重要です。アクセシビリティ対応は一度で終わる作業ではなく、継続的な点検と改善が必要です。デジタル庁のガイドブックなどを活用しながら、制作から運用までの流れを整理しておくと、改正後の対応もスムーズになります。
まとめ
JIS X 8341-3の改正は、WCAG 2.2への対応を軸に進み、ウェブアクセシビリティの実務を変える可能性があります。背景には国際標準の更新だけでなく、改正障害者差別解消法による社会的要請の高まりがあります。
企業や機関にとっては、単なる法令対応ではなく、利用者にとって本当に使いやすいウェブを実現するためのチャンスでもあります。今のうちから基礎を固め、改正の方向性を踏まえて準備を進めておきましょう。
増井技術士事務所代表。技術士(情報工学部門)。情報処理技術者試験にも多数合格。ビジネス数学検定1級。「ビジネス」×「数学」×「IT」を組み合わせ、コンピューターを「正しく」「効率よく」使うためのスキルアップ支援や、各種ソフトウェアの開発、データ分析などを行う。著書に『Pythonではじめるアルゴリズム入門』『図解まるわかり プログラミングのしくみ』『「技術書」の読書術 達人が教える選び方・読み方・情報発信&共有のコツとテクニック』、最新刊の『AI用語図鑑』(翔泳社)がある。
※本記事に記載されている会社名、製品名はそれぞれ各社の商標および登録商標です。
※本稿の内容は2026年3月時点の情報に基づいています。

