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ハーネスエンジニアリングからループエンジニアリングへ

生成AIの活用で最初に注目されたのは、よい答えを引き出すためのプロンプトを設計する「プロンプトエンジニアリング」という言葉でした。そこから、モデルに与える文脈を設計する「コンテキストエンジニアリング」が重視されるようになり、さらにAIエージェントを安全かつ実用的に動かす「ハーネスエンジニアリング」へと関心は移り変わってきました。

そして2026年、開発者の間で急速に広がっているのが「ループエンジニアリング」という言葉です。これら生成AIを取り巻くキーワードの変遷から、今求められているAIスキルを整理します。

プロンプト、コンテキスト、ハーネスの違い

まず、これまでの3つの「○○エンジニアリング」という言葉を整理することから始めます。

■プロンプトエンジニアリング

プロンプトエンジニアリングは、生成AIに「どう聞くと良い答えが得られるか」を工夫する手法でした。

AIに役割を与える、出力形式を指定する、手順を分解する、例を示すなど、1回のやり取りで応答品質を高める工夫が挙げられます。

要約や翻訳、アイデア出しといった用途では現在も有効ではあるものの、複雑な業務を安定して任せるには限界があります。

■コンテキストエンジニアリング

そこで登場したのがコンテキストエンジニアリングです。これは、AIに「どう聞くか」から「何を材料として渡すか」へ変わってきました。

AIが人間の求めることを正しく理解するには、その背景や関連文書、過去の会話、ツールの出力、制約条件、判断基準などが必要です。

これがコンテキスト、つまり「文脈」であり、これを整理して渡すことが求められました。

■ハーネスエンジニアリング

ここまでは、人間と生成AIが会話をすることが前提です。しかし、「AIエージェント」が登場します。

対話型のチャットのように何度もやり取りするのではなく、AIエージェントに仕事を任せる時代になると、MCPなどによるツールとの連携、権限管理、エラー処理、リトライの制御、出力の検証、安全性を高めるガードレールなどが必要になります。

つまり、生成AIを馬に例えると、普段は自由に走らせていても、その手綱を握って制御することが必要です。これがハーネスエンジニアリングの「ハーネス」です。AIエージェントがシステムを操作するときのルールを整える技術だと言えるでしょう。

ループエンジニアリングは何を加えるのか

AIに毎回人間がプロンプトを入力するのではなく、AIエージェントを継続的に動かし、結果を検証しながら次の行動を決め、必要であれば再実行する仕組みそのものを設計する考え方が「ループエンジニアリング」です

人間はチャット欄で次の指示を考える、といった役割ではなく、指示や実行、検証、記憶などを繰り返すシステムを設計する立場に移っているのです。

つまり、ループエンジニアリングには、ハーネスに加えて、「時間」と「反復」の考え方が加わっています。ハーネスによってAIエージェントの作業環境を整え、ループによってその環境をいつ起動し、状況を把握し、どの条件で続け、どこで止めるかを決めます。

たとえば、目標(ゴール)を受け取ると、把握した状況をもとに行動を生成し、ツールを実行し、結果を検証し、記録して次の行動を決めます。この循環が、完了条件を満たすまで続きます。

このループは、単なる自動実行ではありません。これまでもバッチ処理やcronによって自動実行はできましたが、これらは人間が事前に作成しておいた処理を、決められたタイミングで実行するものでした。

しかし、AIエージェントにおけるループは、現在の状態を読み取り、次に何をすべきかをモデルが判断し、その結果をまた観察します。固定された手順ではなく、状況に応じた「判断を含んだ自動化」なのです。

プロンプトやコンテキストが不要になるわけではなく、よいプロンプトやよいコンテキスト、よいハーネスがあり、AIが試行錯誤する中で、完了をどう判断するかを設計することが中心です。

求められるのは「AIに聞く力」ではなく「AIを回す力」

ループを設計するには、次のような情報が必要です。

起動する条件:時間やイベント、利用者による操作など
判断に使う情報源:ドキュメントやログ、ソースコードなど
権限と範囲:ファイルの変更やAPIの呼び出し、プログラムの実行、通知など
結果の検証:テストが通ったか、仕様を満たしたか、安全ルールに反していないかなど
完了条件:成功時の終了、失敗時の打ち切り、予算、承認待ちなど

これらが適切に設定されていないと、ループが暴走したり、異常終了したりします。長時間実行するためには、AIエージェントが人間の手を離れて継続的に処理できるようにしなければなりません。

■設計をする難しさも

しかし、継続的に実行することは便利である一方でリスクもあります。適切に検証していなければ、誤った成果物を、AIが自信を持って出力してしまいますし、停止条件が曖昧であれば、同じ失敗を繰り返してコストばかりかかってしまいます。古い情報が与えられると、誤った判断をすることもあります。

これまでのプロンプトエンジニアリングからループエンジニアリングまでの流れを考えると、AIを活用するときの考え方が「AIとの対話」から「AIエージェントを含む業務システムの設計」へ移っていることがわかります。

きれいなプロンプトを書くのではなく、業務の目的を分解し、必要な情報を選び、実行環境を整え、検証可能なループとして組み立てることが求められるのです。

さいごに

ループを導入すると人間が何もしなくていいと考えるかもしれませんが、どの仕事を任せて、どうやって確認し、何をもって成功とするかを定義しなければなりません。これは、非常に高度な作業で、難易度が高いことでしょう。

プロンプトはあくまでも入口で、判断材料としてのコンテキスト、ルールとしてのハーネスを用意し、それらを時間の中で動かし続けるループの設計が求められているのです。

【筆者】増井 敏克さん
増井技術士事務所代表。技術士(情報工学部門)。情報処理技術者試験にも多数合格。ビジネス数学検定1級。「ビジネス」×「数学」×「IT」を組み合わせ、コンピューターを「正しく」「効率よく」使うためのスキルアップ支援や、各種ソフトウェアの開発、データ分析などを行う。著書に『Pythonではじめるアルゴリズム入門』『図解まるわかり プログラミングのしくみ』『「技術書」の読書術 達人が教える選び方・読み方・情報発信&共有のコツとテクニック』、最新刊の『AI用語図鑑』(翔泳社)がある。

※本記事に記載されている会社名、製品名はそれぞれ各社の商標および登録商標です。
※本稿の内容は2026年7月時点の情報に基づいています。