
これまで、企業のデータはファイルサーバーに保存しておくことが一般的でした。しかし、クラウドやSaaSの導入が進み、部門やシステムごとにデータが分散するケースが増えています。結果として、必要な情報を探すだけでも時間がかかります。
そんな中で注目されているのが「データファブリック」です。データファブリックは、分散したデータを単に集めるのではなく、収集から蓄積、分析、可視化、管理までを横断的につなぐ考え方です。
従来のデータ統合との違い
これまでも、データがさまざまなシステムに散らばっていることがあり、「データウェアハウス」や「データレイク」という考え方がありました。これは、基幹システムや業務システムからデータを抽出し、1ヶ所に集約して分析する方式です。
また、「BI(ビジネスインテリジェンス)」という考え方もありました。集約されたデータを分析し、ダッシュボードやレポートとして可視化する考え方です。このようなデータウェアハウスやBIといった手法は現在でも多く使われています。
しかし、このような方法はデータ分析には向いているものの、「そのデータはどこから来たのか」「最新なのか」「誰が使ってよいのか」「定義は部門間でそろっているのか」といった質問に答えてくれることはなく、利用者が意識して使わなければなりませんでした。
そこで登場したのが「データファブリック」という考え方です。この「ファブリック」は布や織物を意味し、企業の内外に点在するデータを、糸を編み込むようにつなぎ合わせ、必要な人やシステムが常に安全に利用できる状態を作ることを指します。
つまり、オンプレミスやクラウドやエッジ、外部サービスなどに分散したデータを、リアルタイムに統合、管理、利用できるように設計したものです。これにより、データの保存場所は一元化する必要がなくなり、「どのようにデータを見つけて、どのタイミングで収集し、どのように使えるようにするか」を意識することに集中できます。
データは異なるシステムに存在しても、それがどこにあるのかを把握さえしておけば、権限やログなどもこれまで通り管理できます。そして、分析や可視化など、データの発生から収集、利用、廃棄までのデータライフサイクル全体として、データ活用を全社レベルに広げられます。
バッチ処理からリアルタイム処理へ
これまでのデータウェアハウスとの大きな違いは、データウェアハウスが主に「分析用に整理されたデータの格納先」であるのに対し、データファブリックはより広い概念であることです。さまざまな場所に保存されているデータを、その境界をまたいで管理する設計思想だと捉えるとわかりやすいでしょう。
つまり、データファブリックができても、既存のデータウェアハウスが不要になるわけではありません。既存のデータウェアハウスやデータレイクはこれまで通り活かしながら、その他に分散したデータソースとも連携し、企業全体のデータ活用を滑らかにできます。
特に、従来のデータ活用では、夜間バッチでデータを集め、翌朝にレポートを見るといった運用が一般的でした。これは、月次集計や定型レポートには適していますが、顧客の行動や在庫の把握、設備の稼働状況、セキュリティログなど、状況が刻々と変化する分野では、数時間から1日単位で遅れると意思決定が遅れる場合があります。
そこで、データファブリックでは、ストリーミング処理や変更データキャプチャなどの手法を組み合わせることで、よりリアルタイムに近いデータ収集を実現します。これにより、異常検知や需要予測、パーソナライズ、現場オペレーションの最適化など、迅速な意思決定が必要な場面で有効です。
つまり、「単なる集計」から「リアルタイム活用」へ市場が移っているのです。
データ活用を「点」から「面」へ広げる
ここで大事なのは、誰がこのデータファブリックを設計し、誰が活用するのか、という視点です。単に製品を導入するだけで、データファブリックが完成するわけではないため、どのような業務課題を解決したいのかを明確にしなければなりません。
たとえば、顧客データを横断的に見たいのか、製造現場のデータをリアルタイムに監視したいのか、生成AIで社内データを安全に活用したいのかによって、必要な設計は変わります。
また、データの定義や品質、責任者が曖昧なままでは、どれだけ高度なツールを導入しても良い結果が得られません。このため、データの意味や所在、更新日時、利用履歴などを把握し、探しやすく理解しやすい状態にしなければなりません。そして、誰がデータを管理するのか、共通指標の整備、運用ルール、利用者教育まで含めて運用負荷を軽減することが求められます。
つまり、分散したデータをそれぞれ点ではなく、全体として1つの面として扱い、企業全体で活用しやすくすることが必要です。
まとめ
データが増え続け、保管場所も多様化する時代において、重要なのはデータをただ集めることではありません。信頼できるデータを、必要な人が、必要なタイミングで、安全に使える状態をつくることです。データファブリックは、分散したデータを企業全体で使いやすくするための考え方として注目されているのです。
増井技術士事務所代表。技術士(情報工学部門)。情報処理技術者試験にも多数合格。ビジネス数学検定1級。「ビジネス」×「数学」×「IT」を組み合わせ、コンピューターを「正しく」「効率よく」使うためのスキルアップ支援や、各種ソフトウェアの開発、データ分析などを行う。著書に『Pythonではじめるアルゴリズム入門』『図解まるわかり プログラミングのしくみ』『「技術書」の読書術 達人が教える選び方・読み方・情報発信&共有のコツとテクニック』、最新刊の『AI用語図鑑』(翔泳社)がある。
※本記事に記載されている会社名、製品名はそれぞれ各社の商標および登録商標です。
※本稿の内容は2026年7月時点の情報に基づいています。

