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シンプルな引き算で「良い加減」を探すことが、自然で自分らしい演技を生み出す

2月13日より全国配信されたリクルートスタッフィングのCMを、ご覧いただけただろうか。見入ってしまうのは、松山ケンイチさんとモデルのHesuiさんから受ける印象が大きいはずだ。今回、特別インタビューを企画。出演いただいたお二人にそれぞれご自身の「らしさ」について伺った。

第二弾は、俳優の松山ケンイチさん。どんな役にもなりきる彼が、最近心がけていることから話はスタートした。

役にこだわるから、「見ないほうが楽になれる」

「憑依型俳優」「カメレオン俳優」——松山ケンイチといえば、どんな役でも違和感なくなりきってしまうことから、こんな異名を聞いたことがあるかもしれない。役作りの中で意識していることはなにかと聞いたところ、最近、自分自身が出演した作品を「あえて見ない」というのだ。周りからは、なぜ?と訊かれることも多いという。

「ドラマなどの連続ものは、第一話が放送されるときには、すでに数話先の撮影をしているケースがほとんどです。そんな中で、オンエアを見てしまうと、どうしてもストーリーより自分の演技を見てしまって、もっと別の見せ方はないのか、とにかく、演技を自分自身でいじりたくなってしまうのです」

役にこだわるからこそ、撮影中は、一緒に作品を作る役者や演出家と同じ目線で、仕事にのめり込む。だからこそ、主観的になりすぎないためにも、見ないほうがいい。数年前にそう気づいてからは、見ないことを続けているという。

表現の幅がある。だから俳優はおもしろい

そんな松山さんは、俳優という仕事を「自分にしかできない仕事」と話す。厳密には、俳優はたくさんいるので、彼だけではない。ただ、彼自身が役について考え、松山ケンイチとして表現することでなにかが生まれるのは、とても気持ちがよいものだとも考えている。

「仕事にどこまで遊びをもたせるか」は、松山さんが常に考えるテーマだとも話す。

「俳優として本格的に仕事をする前は、いろんな仕事をしてきました。多くの仕事は、決められたことを、確実にこなさないといけない。例えば、照り焼きバーガーに照り焼きソースが入ってなかったら、それはやっぱり怒られる。でも、俳優は、自分で考えて演じることで『表現できる幅』が大きい仕事、だと思っています。表現することに、余裕、つまり車のハンドルでいう、遊びのようなものですね。それがあるのが、この仕事の醍醐味です」

役によって、ときには体型を変えることも、表現するための手段だ。大幅な体重の増減などは、自分自身がやりたいと思えなければ、とてもできないはずだ。松山さんにとって、そういう過酷なことも、俳優としての挑戦であって、自分にとっても必要なものだという。様々な役を、自分の感性を研ぎ澄ましながら表現することが、俳優という仕事だと考えている。

働くだけじゃない、様々な要素が松山ケンイチをつくる

俳優として、明確な軸がある松山さんにとって「働く」ことについて訊くと、「生きる」ためにすることだという。自身のすべてを仕事に費やさないと、あれほどの演技はできないと思っていたので、少し意外な答えが返ってきた。

「仕事だけをすることによって、自分自身に蓋をしてしまうのはよくないと思っています。でも、そういった考えは、一度仕事と真剣に向き合う経験をしないと生まれないかも。バリバリと働き、どこかでふと立ち止まったときに、『仕事が人生の大半ではない』と気づく、そんなものではないでしょうか」

そうして、自分を俯瞰して見ることができると、働くことを楽に捉えられるし、人の目を気にすることなく、次のステップに向けて進むことができる。一生懸命働くのも、家でゴロゴロするのも正解——松山さんが、そう柔軟に考えるようになったのは、家族を持ってからだという。

俳優という仕事だけではなく、夫として、父としての役割が増えた。子どもと一緒にゲームをして遊ぶときは、松山さん自身のほうが熱中してしまって、子どもが父親の相手をしなきゃと思うくらい、楽しむ。家族で子どもの進路を考えるときは、それぞれに情報を集め、異なる意見を交わして、一緒に悩む。

そんな、家族との時間を大切にするからこそ、自由に仕事ができている。自分にあった仕事を上手くやれている実感がある、と話す。

自分らしくあるために。引き算をして、シンプルに

「働き方は、自分が決める。」CMで話したフレーズは、松山さんのなかでしっくりきているというが、自分らしくあるためには、「適当であるように、良い加減を探す」ことを心がけているという。

力み過ぎず、いい塩梅であること。それは、自分を客観視しながら、共演者がどんな反応をするのか、出方を探りつづけることや、みんなが見て、自然な演技になるように探すために必要なことだ。

「演技をするために、以前は、演じるための材料をたくさん集めて役作りに臨んでいました。でも今は、逆に材料をなくして、素に近い状態で演技をしています。足し算をすると、演技の面白さは出てくるけど、引き算をして、自分自身がでしゃばらないほうが、見ている人の中に、ストーリーが入ってきやすいと思っています」

愛用品について松山さんに尋ねたところ、あまり物を持たない主義なので、という答えだった。私生活でも、同様に引き算を続けているという。なにごとも過ぎないで、良い加減。自分自身にとって、ちょうど良いところを探す。そうしてシンプルであり続けるのが、どんな役にもなれる松山ケンイチの「らしさ」だろう。

インタビュー:サカタ カツミ
ライター:伊集院 妃芳(いじゅういん ひめか)
カメラマン:上澤 友香(うえさわ ゆか)