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出産で立ち止まった経験があったから、好きなことにも、当たり前の大切さにも気づけた

どんなときも、私らしく。そうありたいと思っていても、実際はなかなか難しい。その葛藤を描いた動画は、リアルで、切なくて、でも、また頑張ろうと元気がもらえる。
「この動画の主人公は割と自分に近く、時には選択に迷い葛藤することもあります。共感をもって演じたことで、撮影時だけではなく仕上がりを観てまた泣きました」——動画を見て、そう語ったのは、主人公を演じた、女優の菊池亜希子さん。出産後に復職し、順調そうに見える彼女にも、主人公のような葛藤や迷いがあったという。その、リアルな想いをうかがった。

仕事がしたい、外に出たい——離れたからこそ気づいたこと

インタビューをした場所は、菊池さんの学生時代からの馴染みの喫茶店。現場には、お子さんも一緒にやって来た。インタビューが始まる前、マネージャーに抱っこを依頼。その際、子どもと目が合うと、母親の顔で、にっこりほほえみかけていた姿が印象的だった。

菊池さんが、出産して一番の変化は「改めて、仕事を意識するようになった」ことだ。

「今まで、仕事をするぞ、と意識して仕事をしていたわけではなくて。けれど、出産で、嫌でも休まないといけなくなったとき、これまでの外に出る、つまり、仕事をするということが、当たり前でないことに気付きました。そうすると、仕事をしたい、働きたいと思うようになりました」

こういうときだし、ちゃんと休んだら?と言われることもあった。もちろん、子どもは可愛い。それでも、休むよりも外に出て仕事をするほうが自分らしい、と思い、夫や事務所、マネージャーにも相談した。「あっこが仕事したいならすればいいよ」——周囲から後押しをしてもらえただけでなく、相談できること自体、ありがたいことなのだと気づいた。

仕事復帰するもしないも、様々な選択肢があると菊池さんはいう。かつては、出産後はゆっくりしようと思っていたそうだ。それでも、今は、復帰するという自分の選択を信じるしかない。そんな考えかたの変化も、やはり出産を経て、仕事から離れる期間があったからだと振り返る。

家事もクリエイティブに、できるようになった

仕事を含め、今の一番のモチベーションは「クリエイティブなことがしたい」という気持ちだ。クリエイティブと聞くと、執筆などの仕事のことと思いきや、菊池さんが例に挙げたのは、掃除や料理などの家事。家事もクリエイティビティを持つと成果が出て、達成感がある。そう意識できるようなったのは、結婚、そして出産してからだという。

自分だけの時間でないからこそ、クリエイティブに。限られた時間のなかで成果を出せたときや、ペースよくできたときの気持ち良さは格別だと、菊池さんは話す。それでも、いつも上手くできるわけではない。特に出産当初は、それまでの自分のペースでは上手くいかず、打ちのめされたこともあったという。

「結婚した頃、友人から『あっこはマイペースだから、出産したら結構打ちのめされると思うよ』と言われていました。当時はどういう意味かピンとこず、冗談半分に聞いていましたが、こういうことか!と思い知りました。これまで、自分のペースでやれない環境に身を置いたことがなかったので、出産後はかなりまいりましたね。もう、できない、できないって、そんな風に思ってばかりいました」

立ち直るきっかけとなったのは、夫がインフルエンザになったこと。自分でどうにかするしかない状況に追い込まれて、はじめて「大変だけど、やれる」と思えたという。それからは、時間の使い方を考え、自分の時間も確保できるようになった。

子どもをあやしながら、お味噌汁作って、原稿もチェックできる。全部できたら、どんどん自信が湧いてきて、再びいろいろなことが、クリエイティブに考えられるようになったのだという。

立ち止まって葛藤する、その時間がいい今後につながる

今回の動画で演じた主人公への印象を「割と自分に近い」と話す菊池さん。自分のなかに、主人公のような葛藤や迷いはよくあるという。

「第一印象で、よくふんわりとしていそう、と言われますが、考え方は理数系。ひとつの物事に対して、常に相当数のパターンを考えます。頭の中でぐるぐると一気に考えすぎて思考が飛躍しがちで、人に話しても『先の先の話過ぎて、よくわからない』って言われることもあります」

よく考えることの例を聞くと、将来、いつか開きたいと思っている喫茶店について話してくれた。菊池さんの喫茶店好きは、「続・好きよ、喫茶店」(マガジンハウス)が2018年6月15日に発売されたことからもよくわかる。お気に入りの喫茶店で一息つきながら、内装やメニューに想いを馳せる。喫茶店を開店することは、ひとまず今は、夢として持っておきたいのだとか。それは遠い先の話にしても、今後は、受け身ではなく、いろんなことに積極的になりたいという。

20~30代頭にかけて、仕事を中心にいろんな人に出会ってきたが、出会いっぱなしだったこと、それを「受け身」と感じているようだ。出産を経て、一度立ち止まったから、自分の感覚がクリアになり、好きなことがわかってきた。これからは、その出会いを深く掘り、出会ってきたものを、自分から積極的に、菊池さんの表現を借りれば「こねくり回し」て、別の形で、世の中に還元したいと考えているそうだ。そのために、働き方は、もっといろんなパターンがあってもいいと菊池さんは言う。

確かに、仕事と生活との比重を加味して、働き方は自分で選ぶのが理想的なのかもしれない。今後、どんな道に進むのか考えるために、一度立ち止まったり、ペースを緩めたりすることもあるだろう。そのときに、ひとつの選択肢になるかもしれない——派遣という働き方についてどんな感想をお持ちですか、という質問に対して、菊池さんはそう答えた。

「立ち止まる、というのは、怖いと思います。私も出産で半ば強制的に立ち止まる経験をしました。でも、今はそれも、その先の自分の歩き方にいい影響があると考えています。出産前は日課のようだった喫茶店通いも、出産してしばらくできなかった。ようやく近所の喫茶店に行き、しみるような時間を過ごした帰り道は、スキップをするくらい、気持ちが軽かったのを覚えています」

日々の忙しさに悩殺されて忘れかけていた、“自分の好きなこと”。一度立ち止まり、改めてこころが高まることに気付いたら、普段の景色が違って見えたという。そんな菊池さんの話を聞いて、自分らしい時間を持つことの大切さを、改めて実感した。まずは立ち止まって、ほんの少し、先のことを考えてみることから始めると、いいのかもしれない。

アナログで。自分の手で落とし込むように

いつも持ち歩くカメラはCONTAXのT3。ポケットに入れても軽くてお気に入り。仕事をする上ではデジカメのほうが便利だが、あえてフィルムを愛用するのは、「シャッターを切れる回数が決まっているから」。シャッターを切るものを吟味して、慎重に撮る。シーンごとに1枚しか撮らないこともある。

A5のノートには、日々の記録を絵日記に残している。嬉しかったことや悲しかったこと、自分の気持ちを正直に描く。文字よりも絵のほうが、表情など細部まで表現できるという。

ノートに描くときのペンは製図ペン。学生時代に建築の勉強をしていたときから、書くときは製図ペンがお決まり。擦れたりにじんだりしにくいので使いやすく、様々な太さを揃えている。ペンによって文字の印象は変わるが、一番フラットに書けるという。

「写真もメモも、デジタルにすると、情報を整理しきれないんです。アナログで自分の手で落とし込むほうが、自分の身体にも記憶される気がします」

デジタルでのメモは、あとから見返したときに思い出せないことが多いという。取材するときは手書きのメモで、大事なところは囲む、そして、自分の言葉やイラストを添えるのが習慣。

インタビュー:サカタ カツミ
ライター:伊集院 妃芳(いじゅういん ひめか)
カメラマン:上澤 友香(うえさわ ゆか)