
スウェーデン人と国際結婚してスウェーデンに移住したあと、夫の学業と研究の都合で日本に戻ってきたというMayumi Peydaさん(49)。大学院生で研究者を目指す夫のサポートをしながら、化粧品メーカーで働いた経験を活かし、現在は派遣スタッフとして化粧品売り場で働いている。海外に視野を広げながら、目の前のことに一生懸命取り組むMayumiさんの生き方をうかがった。
*オンラインで取材を行いました
*掲載している写真は、ご本人からご提供いただいたものです

実家から出たくて国際空港で働き、視野が開けた
山口県出身のMayumiさんが高校卒業後、初めて働いたのは大阪国際空港(伊丹空港)だった。ただ、海外に興味があって選んだわけではないという。
「とにかく親元から離れたくて、開港することが話題になっていたこともあり、何も知らずに空港の仕事を選びました。空港では検査などをはじめ、日々違う仕事をしていました。空港でいろいろな国の方たちと接するうち、海外に目が向くようになったんです」
ところがその後、阪神淡路大震災が起こり、山口へ戻ることになった。山口で働いていたころ、高校時代の親友が海外に移り住んだと聞いた。
「それまで海外旅行などしたこともなかったのですが、親友のもとへよく遊びに行くようになり、そこでまた視野が広がりました」
何度も遊びに行くうちに知り合いも増えていく。その中の一人が、夫のPeydaさんだった。
「30代半ばに、主人と知り合いました。もともと、日本以外に住むことにも魅力を感じていたので、国際結婚も抵抗はありませんでした。結婚当時は主人が医学生だったので、数年間は日本とスウェーデンでそれぞれ生活をしていました」
スウェーデンと日本という遠く離れた地で、お互いの信頼を深めていった。
「主人は日本語も話せるので、遠距離でも困りませんでした。泣こうがわめこうが、離れていては何もできません。私たちにできるのは、互いを信じること。信頼関係を築きながら数年間を乗り越えました」
各地を転々としていた前々職。ハードな毎日だったが、強いやりがいも
結婚した当時、Mayumiさんは化粧品メーカーの正社員。仕事内容は、売上の芳しくない実店舗に入り込み、業績を上げることだった。
「スウェーデンへ行く長期休暇をもらうために、ハードな仕事を買って出ていました。ホテル住まいで地方の店舗に入り、半年間から1年ほどの期間で、顧客作り、従業員の教育、売上アップなどに取り組みます」
店を立て直すため、まずは現状を把握して、計画を策定し、実行していく。期間が決まっている仕事だが、そこで長く働いている店舗スタッフの協力は不可欠だ。仕事内容が難しいのはもちろん、残業も多かった。
「やめる直前に1年間携わった店舗は、前年比で146%の売り上げを出せました。やりがいもあったし、自分の誇りにもつながっています。大切にしたのは、とにかく人を大事にすること。お客様だけでなく、従業員にも感謝を忘れないという基本的なことです」
素晴らしい成果の裏側には、大変な苦労があった。
「特に難しかったのは、やる気を感じない従業員がいたことです。コミュニケーションをとろうとしても、何してもダメで、うまくいかずに泣いたこともあります。でも、その人のことを理解していくと『本当は言いたいけど言えなかった』という本音が聞けるようになってきたんです。半年ほどで頑なな態度がほどけてきて、10ヶ月後くらいに成果アップの望みが見え、最後の最後でようやく実績が出せるようになりました。本当に、『やってよかった』と心から思いました」
Mayumiさんはこれまでの経験から、「嫌な気持ちになったときこそ、学びが多い」と振り返る。
スウェーデンへ移住したものの、その後は京都へ
Mayumiさんの夫が大学を卒業し、医者として働き始めるタイミングで、Mayumiさんはスウェーデンへ移住した。
「長期休暇をとって遊びに行っていたので、移住の不安は大きくありませんでした。言葉に関しても、住みはじめれば何とかなるだろうと思っていたんです。でも、実際はまったくわからないので、どうにもならない。言いたいことも言えず、何度も悔しい思いをしました」
コロナ禍ということもあり、アジア人としてひどく差別的な言葉をかけられたこともある。だが、「きっと心に余裕がないんだ」と深く落ち込まないように心がけた。
「家の中には主人という心強いパートナーがいますが、外では自分のことは自分しか守れません。できることは自分でしなくてはならないと、スウェーデン語を真剣に学ぶため、語学学校に通うことにしました」
語学学校で知り合った友達もでき、想像していたほど寂しさを感じなかった。ところが、突然日本に帰国することになる。夫が学業と研究のため、京都の大学へ通うことになったのだ。
「日本にいる間は働こうと、派遣スタッフの仕事を探しました。現在は、化粧品売り場で販売の仕事をしています。思っていた何倍も忙しく大変ですが、訪日客のいろいろな人種の方と触れ合えるのが楽しい。英語も少しできるので、相手に合わせて使うことも。あいさつ程度でも、『思いもかけないところで母国語が聞けた』と喜んでくださいます」
遅くとも2027年までには、今のくらしを終えてスウェーデンに戻る予定だ。スウェーデン語の勉強も中途半端になっているため、「早く戻りたい」という思いでいっぱいだそう。
「今は自分のことより、休みがないほどに学業と研究に没頭している主人をサポートしたい。スウェーデンに戻ったら、語学を学びなおし、人と触れ合える仕事をしたいです。また、楽しみなのは普通の生活。夏に湖で泳いだり、秋にベリー摘みをしたり、冬にはクリスマスマーケットに行ったり……。現地にいる、主人の家族や友達にも早く会いたいです」
ふと気が向いたときに付けるさくらの香り
Mayumiさんの愛用品は、スウェーデンを離れるときに、友人が贈ってくれたパフューム。
「おそらく日本では買えない『SAKURA』という名前の香り。主にプライベートで付けています。日本でいう『さくら』の香りではありませんが、好きな香りです。香りは記憶にダイレクトに響くので、贈ってくれた友人のことも思い出します」
ライター:栃尾 江美(とちお えみ)