自分で決めた目標に向かってひたむきに努力を続けるのは、誰でもできることではない素晴らしいことだ。でも、頑張りが限度を超えて体を壊してしまっては元も子もない。病気をきっかけに、すべてをリセットしたかわいちゃんさん(55)は、これまでの働き方、生き方を見直したことで、新しい人生の扉が開いた。

*オンラインで取材を行いました
*掲載している写真は、ご本人からご提供いただいたものです

あこがれの仕事に就けた矢先に病気が発覚。心も体も限界に

中学生の頃からプログラマーにあこがれていたかわいちゃんさん。念願かなってシステム・インテグレーターとして働き始めるも、職場環境が合わず退職。その後はITとは別の業種に就いたが、独学でプログラミングを学ぶことは続けていて、社内で使用するシステム構築やツール開発などで実績も積んできた。

「出産後、一時子育てに専念していましたが、シングルマザーになったのを機に本格的に仕事を再開しました。さまざまな企業の事務職に就き、業務に必要なシステムやツール開発を過去の経験や独学で行って、できる限りのスキルアップをしてきました。息子が高校生になって子育てもひと段落したので、そろそろ自分の好きな仕事をしようと思い、50代を前にIT業界に再挑戦したんです。若い世代に負けないように、エンジニアとして認めてもらえるようにと、休日も通勤電車の中でも、ひたすら勉強しました」

Javaプログラミングの基礎的な知識・技能習得を証明する「Java Silver」も取得。そのかいあって報酬もぐっとアップした。ところが、そんな矢先に乳がんが発覚する。

「病気がわかったときは、“私の人生、どうしてこうなんだろう……”とがっくり落ち込みました。でも、まだ息子を養っていく必要もあり、手術のため1週間ほど入院し、退院した翌日から出勤して抗がん剤治療を受けながら息子の世話も続けていました。ところがある日、動かなきゃと思っても体がついてこなくなってしまったんです。ついに心も体も限界が来たんだと理解して、一度仕事を退職して、治療に専念することにしました」

ずっとあこがれていたIT業界に飛び込み、実績も出始めていたところでその職を手放すのは、どれほど無念だっただろう。でも、治療を受けていく中で、看護師からかけられたひとことが、大きな転機をもたらすことに。

「ふとした会話の流れで、看護師さんから“頑張らなくていいのよ!”と言われて、目からうろこが落ちました。それまでは“頑張らなければ私には生きる値打ちがない”とまで思っていたんです。頑張り続けてしんどくなると、“自分には向いてないことなんだ” “自分にはできないんだ”と言い訳が頭に浮かぶこともありましたが、IT業界への挑戦を決めたあたりからは“言い訳するクセをやめる!”と決意しました。結果が出なくても、とにかく頑張ってやるしかないと走り続けてきたところで、限界が来てしまったのだと思います」

頑張りすぎをやめたら、いい出会い、働き方が巡ってきた

働くことをやめた結果、無理をしてまで頑張りすぎていた自分をじっくりと振り返る時間を作ることができた。

「どうしてこんなに頑張らないといけないと思っているのかを考えてみました。たどりついた答えは“自分を守るため”。自分を守るために、気が強く、人に対して攻撃的なところもありました。半年くらいかけて考えた末に、しんどくなるまで頑張らなくていい。頑張らなくても私は私だからと思えるようになり、“もう頑張らなくていいよ”と自分に言ってあげられたんです」

息子さんからも「今まで頑張ってきたんだから、もういいよ」と言ってもらったことで肩の力が抜けてラクに。治療がひと段落してから、新たな気持ちで仕事探しをスタートした。

「仕事は頑張らないといけないものだと思っていましたが、今の自分にとって負担の少ない働き方をしてもいいのかもと、リクルートスタッフィングで余裕を持ってできそうな仕事を探してみたんです。そこで出会ったのがテレワークでシステムのテストを行う仕事でした。“この日までに必ずこれをしないといけない”という締め切りや重い責任はないものの、やりがいを感じられる仕事でした。何よりも一緒に働く職場の人がいい方ばかりで、とても働きやすかったです」

▼テレワークをしていた当時はコロナ禍。自宅で大好きなタイ料理を作っていた

仕事への考え方を変えたからこそ出会えた職場だったが、仕事内容としては、これまで積み重ねてきたスキルやキャリアがあったからこそできたものだった。

「今まで頑張ってきたことも全部無駄じゃなかったと思えました。それに、職場の人もそうですけど、病気がわかってから出会った人が本当にいい方たちばかりで。親切にしてもらったり、やさしくしてもらったりすることがすごく増えたんです。人生捨てたものじゃないと思えました」

人間関係がよくなったのは単なる偶然ではない。きっとかわいちゃんさんの前向きな変化が影響しているはずだ。

「以前から生きづらさを感じていて。頑張るのをやめようと思ったのを機に、自分の生きづらさがどこから来るのかも深堀りして考えてみたんです。そんな中で、性格診断をしてみたら、自分がすごく自己中心的で自分勝手だったのに気づきました。友達と息子に“私って自己中心的で自分勝手かなあ?”と聞いてみたら、あっさり“そうだよ!”と言われて(笑)。自分のことがわかっていなかったんだなあと反省しました。それ以来、息子やまわりの人への接し方も変えるのを意識するようになりました」

自分のよくないところを認めるだけでも苦しいことなのに、さらにそこを改善しようとする努力は並大抵のことではない。もともと頑張り屋だからこそ、頑張る方向を変えた結果起きた変化なのかもしれない。そんな経験をしたかわいちゃんさんから自分と同じように「頑張りすぎてしまう人」に向けて、伝えたい思いが。

「きっと病気せずに突っ走っていたら、職場でしんどいことがあっても我慢して、その結果まわりの人にあたってしまうような嫌な人になっていたと思うんです。そんな毎日を繰り返して年をとっていたら、いくらやりたい仕事ができていても幸せじゃなかった。それを手放せたのは本当によかったです。一生懸命やることと無茶をすることは違いますよね。今“しんどいな”と思いながらも頑張ることをやめられず、無茶をしている人には、頑張りすぎない生き方をしてもいいんだということに気づいてほしいです」

現在は副作用もあり、治療に専念。この期間にもやりたいことがたくさんある。

「闘病体験をブログで発信しているのですが、それをきっかけに出会った仲間との集まりに出かけたり、湯治のために温泉旅行に出かけたりしています。温泉旅行の様子は動画で配信しようとも思って動画編集に挑戦しています。あとは趣味仲間と出かけたり、大学の社会人講座を調べてみたり、やりたいことがたくさんあります。息子も自立する年齢になったので“もう働かなくていいんじゃない?”とも言われますが、治療と両立しながら迷惑をかけず、これまで身につけてきたことでお役に立てる職場と出会えたらうれしいですね」

おおらかな生き方を教えてくれたタイに思いを馳せる


50代の前にタイ・チェンマイへのひとり旅を決行。以来タイは何度も旅をした。「おおらかで、予想外のことが起きてものんびりと構えているタイの人たちがとても魅力的で。私ももっと適当に生きてもいいんだなと思えたんです」。マグカップは息子さんとバンコクに行ったときのお土産。「タイらしい色づかいと柄がかわいいですよね。お茶が好きなので、このカップで毎日日本茶やウーロン茶を飲んでいます」

ライター:古川 はる香(ふるかわ はるか)

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