
何にこだわって仕事を選んでいくかは、人それぞれだ。でもやはり、「自分の好きなもの」に触れているとき、人は一番イキイキと輝けるのかもしれない。菅谷麻理さん(39)は、長年にわたって化粧品業界で働いてきた。「化粧品にたずさわる仕事が好き」――そんな彼女は、これまでどのようなキャリアを重ねてきたのだろう。
15年以上にわたって、化粧品業界の仕事をし続けてきた
「このミストは、春に出たばかりのKANEBO(カネボウ)の新商品なんです。ミストがすごく細かいので、ふわっと包み込まれるように肌がうるおって、メイクの上からでも使えるんですよ。こちらは国内だけでなく海外でも展開しているブランドで……」
自分でも愛用しているアイテムを、一つひとつ手に取って丁寧に説明してくれた菅谷さん。そのまなざしや言葉からは、自社商品への誇りはもちろん、「化粧品」そのものに対する愛情が伝わってくる。
彼女は2016年9月から、株式会社カネボウ化粧品の派遣スタッフとして、商品のパッケージ(容器、箱)や、箱の中に入っている使用書などをつくる仕事にたずさわっており、翻訳会社・デザイン会社・包材メーカーとのやりとりや進行管理、表示内容の校正業務等を担当している。
派遣スタッフとして働きはじめてから、いつも優先して選んできたのは「化粧品業界の仕事」。15年以上この業界にこだわって、キャリアを重ねてきた。
一度はあきらめた仕事に、再び挑戦するチャンスを得る
実は菅谷さん、大学時代は理工学部に所属しており、2001年に一度、新卒で化粧品メーカーに入社している。職種は研究職で、スキンケア商品の処方開発だ。
当時は「就職氷河期」真っ只中。特にメーカーの研究職は男性の採用が中心で、女性に対する門戸は本当に狭いものだった。そんな中、菅谷さんは「化粧品の世界」に活路を見出した。
「女性であることを何か強みにできないか……と考えたときに、化粧品を使っている経験は、絶対にどの男性より私の方が長いし、このジャンルなら負けない、と思って。それで、化粧品メーカーを目指すことにしました」
なんと、そのとき彼女が入社したのが、他でもないカネボウ化粧品。“縁”というのは、どこでどのようにつながるかわからないものである。
しかし念願かなって研究の仕事をはじめたものの、事情によりやむを得ず1年で退職することに……。すぐにフルタイムで働くことが難しかったため、週2〜3日くらいのペースで働ける仕事を探しはじめる。
はじめはアルバイトやパートで働くしかない、と思っていた菅谷さん。しかし幸いなことに、理系分野の専門職に特化した、派遣会社に出会う。そこで、とある化粧品メーカーの商品開発部門の仕事を紹介された。
「その会社では、任せていただける仕事の範囲も広く、すごく充実した働き方ができたんです。だからそのときはじめて、自分のやりたい仕事ができるのであれば、正社員であろうと派遣スタッフであろうと関係ないんだな、と実感したんですよね」
派遣スタッフだからこそ、重ねられた“強み”
国内の大手メーカー、外資系のラグジュアリーブランド――派遣スタッフとして働くようになった菅谷さんは、化粧品業界のあらゆる現場をわたり歩いてきた。
しかも、担当してきた業務も実に多種多様。商品開発からマーケティング、販促品の企画開発、薬事申請、営業事務、広報・PR……。「職種」から仕事を選ぶ派遣スタッフが多い中、菅谷さんが一貫してこだわり続けているのはとにかくずっと、「業界」一本だ。
しかし経験のない職種にチャレンジするのは、なかなか勇気がいるのではないだろうか……?
「正社員で一つの会社に勤めていると、なかなか他の部署の仕事を経験する機会はありませんよね。でもどの仕事も、決してその部署だけで成立しているわけではなく、お互いに深く関わり合っていて。点と点がどんどんつながることで、いろいろな気づきを得られるんです」
例えばマーケティングと開発、両方の部署で働いた経験があるからこそ、双方の事情がよくわかり、求められる役割への理解も深くなる。そうして、視野がどんどんクリアになっていくことが楽しいのだという。
「会社やブランドによって同じ仕事でもプロセスは全く違うので、自分の中の引き出しが次々に増えていく感覚があります。そうしたノウハウを、ずっとアップデートし続けて使っているというか」
派遣スタッフとして経験してきた一つひとつの仕事は、いつしか、この業界で仕事をしていく上での大きな“強み”になっていた。
これからも、自分自身をアップデートし続ける
「本当に、流されるままやってきただけなんですけどね」――そう言って笑う菅谷さん。かつて念願だった研究職をあきらめるしかなかったことも、今では後悔していないそうだ。
「今見えている景色も、なかなか悪くないなと思っているんです。やりたい仕事、働いてみたい会社、好きなブランド……一つひとつ自分で選び、チャレンジしてきた結果が今につながっているので」
化粧品業界の中で重ねてきたバリエーション豊かな経験を活かして、働く先で役に立てたらいい。これからも派遣スタッフとして、自分自身をアップデートしながら働き続けたい。そう考えているという。
「化粧品って、女性にとって“魔法のアイテム”じゃないですか。お肌の調子がいいだけで自分に自信が出てきたり、アイカラーやリップ、まとう香りなどをちょっと変えるだけで、気分が変わったり。女性をより自分らしく、魅力的に輝かせる……この業界で働くことで、それを応援したいと思っているんです」
素敵な女性が多く、たくさんの刺激を受ける毎日
写真の左側2つの愛用品は、菅谷さん自身が仕事でたずさわっているブランドの商品たち。カネボウ化粧品が海外限定で展開しているスーパープレステージブランド「SENSAI(センサイ)」の香水は、大人っぽく上品な香りがお気に入り。こうした担当ブランドの様々な商品に仕事で触れられるのも、メーカーで働く楽しみの一つだという。普段自分では選ばないようなアイテムも、使ってみると実はとても良かった…なんていう新たな出会いもあって、歴代の担当ブランドごとにお気に入りの化粧品がどんどん増えていくのだそう。
また蝶々型のふせんなど、普段使っているステーショナリーもおしゃれだ。
「この業界で働く女性たちは、メイクやファッションなどはもちろん、ライフスタイルや普段の心づかいなどまで本当に素敵な人が多いんです。私もみなさんからいろいろな刺激をもらっているので、日ごろから小さなことにも気を配るようにしています」
ライター:大島 悠(おおしま ゆう)
カメラマン:刑部 友康(おさかべ ともやす)