「数年前までこれといったキャリアがなく、自信が持てなかった」と話す高橋亜紀子さん。これまで、派遣スタッフや直接雇用として働いてきたが、社員の人に引け目を感じたり、自分の職業を堂々と人に言えない気持ちを抱えてきたのだとか。ところが数年前に、「翻訳者」という目標を見つけ、ポジティブな気持ちで働けるようになってきた。

「若いうちしかできない」と、ワーキングホリデーへ

短大を卒業した後、正社員として日本企業で働き始めた高橋さん。ところが、ニューヨークで留学している友だちに刺激を受け、自分も海外へ行ってみようと思い立つ。

「会社を3年半で辞め、カナダのワーキングホリデーへ行きました。『今しかできない』という思いに突き動かされたんでしょうね」

1年半を経て、ワーキングホリデーから帰国。当時、日本で派遣という働き方が注目を集めていた頃だった。高橋さんも派遣スタッフとして、IT企業で働き始める。

派遣先は、飛ぶ鳥を落とす勢いだったITやインターネット業界。その中で働くことは、とても刺激的だった。

派遣先では刺激を受けると同時に、劣等感も……

派遣先として2社目となった大手の外資系IT企業では、法人向けの営業部やマーケティング部でアシスタントとして働いた。英語ができるのが当たり前で、日常的に知らない業界用語が飛び交う。学ぶことは多かったものの、劣等感も感じていたという。

「社員の方はみんなモチベーションが高く、仕事に対する意識も高いんです。自分が補助的な仕事しかできていないことに、悔しい思いをしたこともありました。『庶務さん』と言われるのも複雑で……。もっと任される仕事がしたいと感じていました」

アシスタントの仕事で身に着けたことは今でも自分の仕事の基礎となっているそうだが、当時は、つい専門性の高い業務を行う人たちと、自分とを比較してしまう日々が続いた。

自分の来た道を振り返り、翻訳の勉強を

継続してIT系の職場で働いてきたものの、高橋さん自身には「何も極められていない」という焦りがあった。2008年のリーマンショックで、それまで契約社員として5年間働いていた会社を退職。再び派遣スタッフとして働くことに。

「その時、何かを身につけたい、と考えたんです。『これまで、一番継続してやってきたことは英語かもしれない』と振り返り、それなら、いっそ英語のプロの翻訳者になれないかとひらめきました。まずは勉強からと、週一で翻訳学校に通いました」

仕事の傍ら学校に通い、授業がない日も課題を仕上げるために毎日勉強した。学びながらわかったのは、翻訳は非常に繊細な作業だということ。通っていた学校の先生に「嫌になる人と、ハマる人がいる」と言われていたが、高橋さんは後者だった。それがわかったとき、今後の目標が定まった。

派遣スタッフなら、経験が浅くてもチャレンジできる

翻訳業務のある派遣先を探し、現在の就業先であるHOYA株式会社では業務の3割ほどが翻訳の仕事だという。

「翻訳をもっと極めたいという目標ができて、道が見えてきた気がします。以前は、正社員になりたいという思いが強くありましたが、今はそうでもないんです。むしろ派遣だからこそ、実務の経験が浅くてもチャンスをもらえる。今は『経験を積みたいから派遣という働き方を選んでいる』と考えられるようになりました」

将来を考えたときの安定や、ボーナス、福利厚生など、正社員への願望がなくなったわけではない。だからこそ、もっと翻訳の仕事を増やしていきたいと考えている。

「依頼された翻訳の仕事に対して、スピーディに質の高い翻訳ができるようになりたいです。現在は医療機器メーカーで働いているので、その経験を活かして医療分野の翻訳スキルを強化していきたいと思っています」

現在はその基礎を固めるべく、メディカル翻訳の通信講座を受講している。「学校に通っていた頃ほど勉強しているわけではないですが……」と苦笑するが、ずっと勉強し続けるのは、なかなかできることではない。

翻訳の勉強と同時に始めたのが、毎週土曜日の合気道。目標の黒帯にはまだ届かないが、人間の体の奥深さを知ったり、動きの美しさを感じたりする。

翻訳の道と、武術の道。高橋さんはこれからも現状に満足せず、向上心を持って自分の道を進んでいく。

「実用翻訳者必須」の言葉に惹かれ、奮発して買った電子辞書

仕事の相棒は、電子辞書。ビジネスで使う“産業翻訳”の用例などが調べられる辞書が搭載されている。

「実用翻訳者必須、と書かれていたので、奮発して買いました。普通の辞書にはない“かっこいい”訳が載っているんです」

言葉を「かっこいい」と形容するあたり、高橋さんの翻訳に対する愛情が感じられる。他に、紙の辞書も活用しているそう。

パソコン仕事で目が疲れるため、仕事中はブルーライトをカットするメガネを付ける。マグカップに入れるのはコーヒー。濃く淹れて、熱いうちに飲むのが好きなので、冷めないカップを使っている。1日に3回ほど飲むのだそう。

ライター:栃尾 江美(とちお えみ)
カメラマン:刑部 友康(おさかべ ともやす)

SPECIAL SITE
ABOUT

あなた「らしさ」を応援したいWorkstyle Makerリクルートスタッフィングが運営する
オンラインマガジンです。

JOB PICKUPお仕事ピックアップ

リクルートスタッフィングでは高時給・時短・紹介予定派遣など様々なスタイルの派遣求人をあつかっています

Workstyle Maker

『「らしさ」の数だけ、働き方がある社会』をつくるため、「Workstyle Maker」として働き方そのものを生み出せる企業になることを目指しています。