
現代のような変化の激しい中で働いていると、誰しも「いつまで働けるのか」「キャリアやスキルに自信がない」「不安はあるのに何をしていいかわからない」と感じることがあるのではないでしょうか。そこで今回は、ライフシフト・ジャパン株式会社 取締役CRO/ライフシフト研究所・所長の豊田義博さんをお招きし、今の時代に意識したい考え方や取り組み、変化し続ける必要性について講演していただきました。そのイベントの様子をレポートします。

ライフシフト・ジャパン株式会社 取締役CRO/ライフシフト研究所 所長。リクルートワークス研究所 特任研究員。東京大学卒業後、リクルートに入社。『就職ジャーナル』『リクルートブック』『Works』の編集長を経て、現在は研究員として、20代の就業実態・キャリア観・仕事観、新卒採用・就活、大学時代の経験・学習などの調査研究に携わる。著書に『若手社員が育たない。』『就活エリートの迷走』(以上ちくま新書)、『実践! 50歳からのライフシフト術―葛藤・挫折・不安を乗り越えた22人』(共著 NHK出版)などがある。
「人生100年時代」のトレンドは、3ステージモデルからマルチステージモデルへ
豊田さんがイベントの冒頭に紹介したのは、リンダ・グラットンとアンドリュー・スコット著の『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』という書籍。サブタイトルは「100年時代の人生戦略」です。この本の中では、2007年生まれの子どもの半数が107歳まで生きるだろうというデータが掲載されています。
人生が100年以上あるとしたら、これまでとは生き方が変わってくるだろうと想定されるのではないでしょうか。豊田さんは、書籍の内容を次のように説明します。
「これまで、人生にはステージが3つあると言われていました。20歳前後までは『教育』のステージ。そのあとに『仕事』のステージがはじまり、60歳まで続きます。そのあとに『引退』のステージになります。女性の場合は結婚や出産などで別の時間があるかもしれませんが、男性としては中心的なモデルではないでしょうか。ところが今後は『マルチ・ステージ』モデルの人生に変わっていくと考えられます」
スライドの下にあるように、最近よく聞かれる学び直しというキーワードや、起業、フリーランスといった言葉が入ってきます。
つまり「生涯のライフテーマを発見し、深めていく。」という人生から「生涯にわたって学び続ける。変わり続ける。」という人生へとパラダイムシフトが起こるのです。
そこで大切になるのが、書籍『LIFE SHIFT』にある3つの無形資産「生産性資産」「活力資産」「変身資産」です。
「稼ぐ力である『生産性資産』と、心身の健康である『活力資産』に対し、やや聞き慣れないのが『変身資産』ではないでしょうか。変身資産とは、長い人生の中で経験する変化に対応する力、変身のために必要となる要素のことです。書籍ではあまり具体的に書かれていませんが、変身資産で特に注目すべきなのは『自分についての知識』の部分です」
自分が今いるステージを確認してみよう
ライフシフト・ジャパンでは、人生100年時代のロールモデルとなるたくさんの人たちへのインタビューから得られた知見を活かして、「ライフシフトの法則」を体系化しました。ひとつ目の法則は「5つのステージを通る」です。
1から5までのステージをぐるりと回るサイクル。らせんのようにサイクルを回り、人生が進んでいきます。
ここで、豊田さんのサイクルを図式化したライフラインチャートを紹介し、次に、参加者の方それぞれに、40の質問からなるアセスメントを試していただきました。5つのうち、自分が今どのステージにいるか、という結果が出ます。
5つのステージは、それぞれ以下のような状態です。
1.「心が騒ぐ」ステージ
今のままでいいのだろうかと心が騒ぐ状態です。ほとんどの人は人生のどこかで心が騒ぐステージに直面しているはずです。ただ、そのこととどう向き合うかは人それぞれ。心に蓋をする人もいれば、行動を起こす人もいます。
2.「旅に出る」ステージ
「心が騒ぐ」状態に対し、出口が見えるわけでなくとも、何か新しいことを始める状態です。劇的なことである必要はなく、今までと違う人と会ったり新しいコミュニティに入ったりすることで見える景色が変わってきます。
3.「自分と出会う」ステージ
旅に出ていろいろな人やできごとと出会って、自分が本当に大切にしたかったことやありたい姿に出会う状態です。確固たる意志ということでなくても、こうありたいという方向性で充分です。
4.「学び尽くす」ステージ
こうありたいという自分と出会うと、多くの人が精力的に学び始めます。大学院に行ったり、いろんな人に話を聞いたり、何かを試しにやってみたりします。その中でさまざまなことに気づいていきます。
5.「主人公になる」ステージ
やりたいことが見つかり、自分がまさに主人公になっていきます。少しずつ思い描いた自分になっていくのです。ただ、「主人公になったら上がり」ではありません。学び続ける人生では、このあとに新たな「心が騒ぐ」ステージへと向かいます。
旅の仲間を見つけ、自分の内面を知っていく
法則のふたつ目は「旅の仲間と交わる」。先ほど説明した5つのステージで、「心が騒ぎ」、「旅に出る」と、仲間に出会います。この「旅」というのは、仕事に関係なくても良いです。
目指すべき目的地への気づきを与えてくれる「使者」や、ものの考え方や、あるべき姿を説いてくれる「師」など、ご自身でイメージしてみるとよいでしょう。旅の仲間を通して、新しい考えや居場所、機会と出会い、ものの見方が変わっていくことがあります。
つぎの法則は、「自分の価値軸に気づく」です。価値軸は「社会価値」「個性価値」「生活価値」の大きく3つに分類されます。
「ワークショップなどで『これまで大切にしていたもの』と『これから大切にしたいもの』をそれぞれ4~6個ほど選んでもらうと、変化していることに驚かれる方が多いのです。皆さんも、自分が今どういうことを大切にしたいのか選んでみてください。自分の価値軸が変わっていくことに対応して、生き方や働き方を変えていくのがライフシフトだと考えています」
自分を進める「心のアクセル」と、ストップさせる「心のブレーキ」を知る
法則のさいごは、「変身資産を活かす」です。
「さまざまな方にお話をうかがう中で、変身資産の中でも『変化を進めていく、心のアクセル』そして『変化を止める、心のブレーキ』があるとわかりました」
心のアクセルには違和感センサーや自己との対話など、心のブレーキには年齢バイアスや集団への同調などがあります。そこで自分が持つ特性を知ることが大切です。
「行動を止めるブレーキは邪魔なように思いがちかもしれませんが、自分が大切にしているものの裏返しでもあります。ブレーキをゼロにしなくてはいけないわけではなく自分の個性と捉えてもよいでしょう。手放す努力をしてもいいし、手放す必要はないと考えてもいいと思います」
自分にとって何がアクセルになるのか、ブレーキになるのか、考えてみるとよいでしょう。
要所要所で豊田さんのアセスメントやチャートなどを交えながら、具体的に説明していた今回のイベント。最後に質問の時間が設けられ、幕を閉じました。
これら「ライフシフトの法則」を自分に当てはめてみて、それを活かすことにより、「生涯にわたって学び続ける。変わり続ける」人生の波を楽しんでいけるよう、心がけたいですね。
ライター:栃尾 江美(とちお えみ)
カメラマン:坂脇 卓也(さかわき たくや)