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サクッとわかるITトレンド5月号:DXへのITエンジニアの現実的な取り組み方とは

エンジニアとして、どのようにDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいけば良いのでしょうか。多くの企業がさまざまな取り組みを進めていますが、革新的な試みは難しいもの。だからこそ、今知っておきたい・備えておきたいことをご解説いただきます。

【解説】増井 敏克さん
増井技術士事務所代表。技術士(情報工学部門)。情報処理技術者試験にも多数合格。ビジネス数学検定1級。「ビジネス」×「数学」×「IT」を組み合わせ、コンピューターを「正しく」「効率よく」使うためのスキルアップ支援や、各種ソフトウェアの開発、データ分析などを行う。著書に『エンジニアが生き残るためのテクノロジーの授業 ~変化に強い人材になれる技術と考え方~』『IT用語図鑑[エンジニア編]』(以上、翔泳社)『基礎からのプログラミングリテラシー コンピュータのしくみから技術書の選び方まで厳選キーワードをくらべて学ぶ!』(技術評論社)などがある。

企業のDXへの取り組みとは

経済産業省による「デジタルガバナンス・コード2.0」では、DXを次のように定義しています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

(出典)https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc2.pdf

この定義にあるように、DXでは「変革」という言葉がキーワードになります。そして、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)による「DX白書2023」では、「DXを推進するためには、経営トップが自ら変革を主導し全社横断で組織的に取組むことが必要」だと書かれており、DXの推進にあたっては次のことが重要だとされています。

「顧客や社会の問題の発見と解決による新たな価値の創出」と「組織内の業務生産性向上や働き方の変革」という二つのアプローチを同時並行に進めること

(出典)https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/dx-2023.html

このように、DXと一言で言っても、社会など組織外に向けて価値を創出する取り組みと、組織内での取り組みの両面が考えられます。そして、DXを実現するには、下図のように3つの段階があるとされています。

(出典)https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004-2.pdf

自身のキャリアと併せて考える際に知っておくべき/備えておくべきこと

上記のようにDXへの取り組みは組織の中と外のどちらに向けているのか、そしてそのデジタル技術の使用範囲などについてさまざまな領域が考えられます。そんなDXに対するITエンジニアとしての関わり方を考えると、大きく分けて「支援する立場」と「主導する立場」が挙げられます。

■支援する立場

企業がDXに取り組むとき、ITに疎い経営者であれば、何をどのように進めればよいのかわからないこともあるでしょう。そんなときに経営者が頼る相手として、ITに詳しいエンジニアが想定されます。つまり、経営者のようなDXを主導する人を「支援する立場」からの参加です。

DXの実現には、新しい技術の習得や導入が欠かせません。エンジニアが「ITの専門家」という立場で参加している場合、最新の技術トレンドを追うだけでなく、組織全体を幅広い視野で見渡して課題を発見することが求められます。実際の課題に対して、どのような技術が使えるのか、世の中でどのような取り組みが進められているのかを知っておくと、その組織のDXに貢献できる可能性があります。

特に、「組織内の業務生産性向上や働き方の変革」といった取り組みでは、既存のシステムの改善や最適化を実現するために、エンジニアが持つ知識が有効です。

またDXにおいては、データの分析と活用が重要で、ビジネスに関するデータの収集や分析、可視化などにより、その結果を意思決定に活用するスキルが求められます。

■主導する立場

組織としてDXに取り組むことを考えると、エンジニアが持つ技術を活かしてDXを「主導する立場」になることもあります。データの扱いやデジタル技術に慣れたエンジニアは、どういった技術を使うとどのような分野に適用できるのかを知っています。

このため、手を動かして行動できることが求められます。DXには、さまざまなデジタルツールが使用されますが、具体的なツールを習得し、それを活用するスキルが求められます。たとえば、ビジネスアプリケーションの導入やクラウドサービスの利用、ビッグデータ分析ツールの活用などが挙げられます。

世の中の取り組み事例を参考にする

上記で紹介した立場において、実際にどのような取り組みが考えられるのかを見てみましょう。「DX白書2023」では、変革の規模に応じて、「デジタルオプティマイゼーション」と「デジタルトランスフォーメーション」に分けられています。

(出典)独立行政法人情報処理推進機構(2023)『DX白書2023』p.51より抜粋して作成

それぞれに対して数多くの事例が挙げられていますが、ここでは生産性の向上や品質管理の改善といった「デジタルプティマイゼーション」よりも、ビジネスの拡大につながるような「デジタルトランスフォーメーション」の範囲で下記にまとめました。

(3)顧客体験の変革:AIを用いた自動判別や自動発注、自動審査など
→これまでは人が判断していたものでも、AIが実用的なレベルで使えるようになってきたことで、処理速度が上がったり精度が高まったりしていることがわかる

(4)市場での競争力の変革:IoTやセンサー、ウェアラブル端末などを使用した見守りサービスや遠隔でのサービス提供
→大量のデータから分析した結果を使ったアプリやサービスもある

(5)市場での立ち位置の変革:マッチングサービスや物流プラットフォームなどの提供など
→他社から提供されたサービスを使うのではなく、自社でサービスを開発し、それを提供することで市場での立ち位置が変わってきている

(6)社会の変革:メタバースやデジタル銀行などの取り組み
→これまでなかったビジネスが生まれるだけでなく、社会に影響を与えられる例が挙げられている

これらは全て、DXの定義通り、データとデジタル技術を活用して、業務やサービスを変革しているといえるでしょう。それぞれのレベルで自身が貢献するならどのような形があるか、考えてみてください。

現実的なDXへの取り組みとは

メタバースなどで「仕事×新たな価値を創出する」ことは難しいものです。しかし、AIやIoTといった技術は普及期に入っており、ちょっとした技術を組み合わせるだけでも、現実的な範囲でDXに取り組むことができます。

最初から理想的なDXの姿を目指すというよりは、デジタイゼーションやデジタライゼーシヨンといったステップを踏んで、着実に続けていくことが大切なのです。

まずはその入り口として、DXに関する世の中の動きに目を向けることからはじめてみましょう。