少し照れたような柔和な笑顔が印象的な倉内宗太郎さん(34)。半年間の紹介予定派遣を経て、今年2月から、ITサービスを提供する企業の経理部門で正社員として働く。喫茶店を営む実家のこと、「経験やスキルが足りない」と悩んだ日々のこと、モノ選びの考え方……語られる言葉の端々から誠実な人柄が伝わってきて、インタビューの場が温かな空気で包まれた。

「スーツを着て通勤する生活」を選んだ理由

生まれは下北沢。両親は、地元で30年以上、喫茶店と美容室を営んでいた。

「父も母も、いわゆる“おもてなし精神”の塊みたいな人たち。コーヒー1杯頼んだら、そのうち、かつ丼とお味噌汁も出てくる、最後はお土産に駄菓子をもたせる、みたいな(笑)。経営的にはどうなのって感じですが、二人とも、やりたいことにとことん振っていましたね」

そんな環境だったから、「サラリーマン」というのはあまり身近な存在ではなかった。「昔は、自分がこうしてスーツを着て、毎日通勤しているなんて想像もできませんでした」と苦笑い。それでも、いざ社会に出る段になって、企業へ就職することを選んだのは、「安定」の二文字に憧れたからだ。

「両親を見ていて、自営業のむずかしさは痛感していました。極端な話、お客さんが来なければ収入はゼロ。常にお金のことを心配していなきゃいけない。僕にとっては、それが反面教師になりました」

面接で経験不足を指摘され、凹んだことも

新卒で通信会社に入社し、携帯電話の販売職に就いた倉内さん。だが次第に、将来的に長く働き続けるためには、どこの会社でも通用するような普遍的なスキルを身に着けることが必要だと考えるようになった。

頭に浮かんだのは、両親の姿。「僕がお金まわりの知識を身につければ、店の力にもなれるかもしれない」と、目指す方向を「経理」と定め、退職してハローワークの職業訓練で簿記の資格を取得した。

そこから、企業の経理部門で実務を積み上げていくというキャリアプランを描いたのだが…。現実は思うようにはいかず、入社した会社が解散(倒産?)してしまったり、経理で採用されたのに他の部署に異動になったり。

望む方向に軌道修正しようと転職を繰り返した倉内さん。その間には、悔しい思いも味わった。

「僕のやってきたことは浅く広くという感じで、柱になるものがないしマネジメント経験もない。面接で、自分のやりたいことや希望する収入額を話しても『あなたには全然経験が足りないですよ』とけんもほろろでした。納得しながらも、僕の市場価値は低いのかぁなんて、凹んでしまったこともあります」

“下北沢の母の息子”として身についたコミュ力

腰を落ち着け、経理マンとしてのスキルと知識を深めたい。そうした倉内さんの気持ちにぴったり合っていたのが、「紹介予定派遣」という制度。そして巡り合ったのが、現在の就業先だ。

「僕のコンプレックスをリクルートスタッフィングのお仕事紹介担当の方に話したら、浅く広くも決して悪いことではない、いろいろな経験を積んでいるということは倉内さんの強みじゃないですか、と励ましてくださった。それで、『できるかもしれない』とチャレンジする力が湧いてきたんです」

もう一つ、担当者に言われてうれしかったのは、「コミュニケーション力が高いですね」という言葉だ。

「これについては、育った環境のおかげですね。喫茶店を手伝っていた時期もあったのですが、カウンターだけの狭い店なので、お客さんとの距離が近くて。恋愛問題から携帯電話の使い方までいろんな悩みを相談されていました。母は“下北沢の母”のような存在でしたが、僕はさしずめ“下北沢の母の息子”。だから、人と話すのは全然苦にならないんです」

週末の自宅は、まるで「食堂」のよう

いまは、正社員として、経理業務に携わる毎日。「会社のために思いきり働きたいし、覚悟もある」と表情を引き締める。

「経理って、数字ばかりを見ている機械的なイメージがあったのですが、やってみると全然そうではない。むしろ、いろいろな部署や人との関わりが多い仕事なんだとわかりました。経理財務のプロフェッショナルは他にいるだろうけど、ちょっと特殊な環境で育ち、しかもいろいろな職種を経験した僕だからこそできる提案があるはず。そのためにもまず実務の力を高めたい。いまも勉強の毎日です」

最後にプライベートについて少し聞いた。4年前、両親は店を畳んで島根に移住。一人暮らしを始めてからは、週末になると友人知人が集まってきて、自宅はさながら「食堂のよう」なのだそうだ。

「料理が好きなのですが、一人で食べるのは寂しいので友人に声をかけているうちにこうなりました。僕自身はあまりお酒が強くないのですが、先日ビールサーバーも導入しました(笑)」

悩みや困り事も相談しやすくて、数字にも強い「おもてなし精神あふれる経理マン」――回り道しながら見つけた、倉内さんが目指すサラリーマン像だ。こんなタイプの経理マンが職場にいたら、なんだか仕事がうまく回りそうな気がする。

簿記検定で、自分にはっぱをかけるため高級電卓を購入

簿記2級の検定で苦戦したとき購入したのが、3万円の高級電卓。「こんないい電卓を買ったのだから、もう後戻りできない。がんばるしかないと、自分にプレッシャーをかけるためだったのですが、じっくり吟味したので満足度も高く、勉強するのが楽しくなるという効果もありました」

大きめのディスプレイで数字が見やすく、スピーディなタッチに対応してくれる優れた操作性が気に入っている。
「このおかげで検定もクリアできたし、仕事中もずっと使い続けている。もう十分元は取れているはずです(笑)」

細身で携帯できるコーヒーミルは、以前の職場で上司から「実家が喫茶店ならおいしいコーヒーを淹れて」とリクエストされたときに用意したもの。ずっと身近にあったコーヒーだが、そのとき初めて興味が湧き、豆の種類や道具にもこだわるようになったそうだ。

財布とキーケースは、恋人からのプレゼント。「デザインに遊び心があって、主張しすぎないナチュラルな感じが気に入って」購入。時間の経過とともに色つやや味わいが深まるヌメ革に惹かれ、Apple Watchのベルトもヌメ革で揃えている。

ライター:高山 ゆみこ(たかやま ゆみこ)
カメラマン:刑部 友康(おさかべ ともやす)
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