中学生のころから原因不明の体の痛みに悩まされ、病名がわかったのが28歳だったという門馬美輝さん(37)。一時期は薬の副作用がひどく大変な時期もあったが、現在は、Accessを独学で学んだり、NPO法人を立ち上げ運営したりと、病気を感じさせないほどアクティブに活動している。
*今回はオンラインで取材を行いました
*掲載しているお写真は、ご本人より提供いただきました
診断がつかなかったため、「嘘をついている」と言われていた
門馬さんの病気は「線維筋痛症」という病名で、世界的な歌手であるレディー・ガガが患っているものと同じ。痛みを感じる脳神経の信号が乱れてしまい、人よりも痛みを何十倍にも感じる。
中学3年生の時に痛みが出始めたものの、病気が認知されていないためしばらく診断がつかず、周りの人につらさをわかってもらえなかった。
「痛み出した頃は、親に話しても『嘘をついて』と言われるだけでした。28歳に初めて病名がわかった時には、親を『許せない』と感じたことも。でも、病気のことを話すと、泣きながら謝ってくれました」
十数年も誰にもわかってもらえない痛みを抱えていたからなのか、自然と人の気持ちを汲み取れるようになっていた。相手のことをわかろうとする姿勢は、さまざまな仕事で活きることになる。
物流会社の社員として本社に勤務していた頃、海外から日本へ留学中のインターン生と一緒に働いており、社員で手分けして指導をしていたという。
「日本語が流暢ではないので、社員の人と意思疎通がままならない留学生が多かったようです。『言い方が失礼だ』とか『何度も同じことを聞かれる』といった理由で指導を受けられない人が出てしまって……。私は、普段の仕事ぶりから真面目で誠実な人たちだと思っていたので、彼らを信じてできるだけ丁寧に指導していました」
門馬さんに指導されていた留学生が「私の先輩はちゃんと教えてくれる」と伝えたことで、ほかの留学生までが門馬さんのもとへ仕事を教えてもらいに来ていたという。
「病気のことを誰もわかってくれない痛みを知っているから、相手をわかろうとする気持ちが強いのだと思います」
上司の営業スタイルを見よう見まねでノルマの4倍に!
その後、物流会社からハウスメーカーへ転職した門馬さん。ちょうどその頃に病気の診断がついた。病名がわかりほっとした気持ちもあったが、薬による副作用に苦しんだ。
めまいと吐き気、強い眠気が同時に起こるため、転職したばかりなのに仕事どころではなかったという。
「当時の上司は、『つらい時は休んでいい』と理解ある人だったんです。その方は健康すぎるくらいだったのに、病気の人の気持ちを思いやってくれるなんて……と感激しました。いつも売り上げ成績がトップの方だったので、人間性が素晴らしい方は仕事もできるんだ、と感じたのを覚えています」
門馬さんは、上司を見ながら営業の仕方を学んだ。まずは身だしなみ。自分に合ったシワのないスーツを着て、靴はいつも磨いてきれいにしておく。顧客に貸すボールペンなども、ハイブランドのものを使う。そういった基本的なことは、できている人が意外と少ないのだ。
もちろん、営業トークも参考にした。展示場の内覧に来た顧客と上司の話を聞いて学んでいったのだ。
その後、門馬さんは保険会社に営業として勤め始め、前職の上司のスタイルを真似た。さらに、担当したエリア内で、飛び込み営業もした。
「個人より企業のほうが飛び込みしやすかったので、何度も足を運びました。『もう来ないで』とは言われず、通っていると話を聞いてくれるようになるんです。土地勘のある場所が担当だったので、雑談も楽しく、それもよかったと思います」
なんと、3ヶ月目にノルマの4倍を達成し、先輩たちに驚かれた。前職の上司に付いて学んでいたのはもちろん、相手の気持ちを思いやる門馬さんの人柄が奏功したのだろう。
ファイナンシャルの知識を活かして独立したい
さまざまな仕事に挑戦するのが好きだったが、病気のこともあり事務職に就こうと考え、Accessを独学で勉強し始める。現在は、派遣スタッフとしてAccessを扱う仕事に就き、職場でさらにスキルを高めている。
「この後は、独立したいと考えています。保険の営業をしていた頃、保険診断のご相談が得意で、今も知り合いから相談を受けることが多いんです。保険販売が目的ではなく、あくまで相談料をいただいて、中立的にアドバイスしたい。そのために、ファイナンシャルプランナーの資格を取りたいと考えています」
次々と、バイタリティ高く挑んでいく門馬さんは、子どものころからこだわりが強かったのだそう。
「七五三の着物を母と見に行って、着たい着物があったのに、予算オーバーで着られなかったんです。子どもながらに『人に養われていると欲しいものが手に入らない』と思い知りました。その時に、自分で稼げるようになったら、ずっと着物を着て生活しようと決めたんです。だから、私にとって働くことは、欲しかった生活を手に入れることにつながっています」
プライベートの服装が着物というだけで個性的だが、さらに5年前に障害福祉をメインとしたNPO法人を作って活動しているというから驚きだ。バリアフリーを知ってもらう活動をしたり、子どもの臓器移植に関するセミナーをしたりと、主に情報を人に届けるための活動をしている。
相手の気持ちの裏側まで感じ取れる門馬さんだからこそ、保険に悩んでいる人や障害のある人に寄り添いながら活動を広めていけるに違いない。
身の回りのアイテムは色がポイント
七五三の苦い思い出から、着物好きになった門馬さん。欲しかった着物がきれいな緑色だったことから、緑に思い入れが深い。緑の袴がお気に入りで、着物と袴を合わせて着ることが多い。(1枚目の写真)
ラッキーカラーがゴールド&赤という門馬さんは、ゴールドの電卓やマウス、文字盤の赤いアニエスベーの腕時計を愛用。また、大好きな鎌倉散策で出会った天然石のブレスレットをいつも左手につけている。
また、病気のせいで光に弱く、まぶしいものが苦手なため、目に優しいグリーンノートを使っている。白いものだとまぶしくて目が痛くなるからだとか。
ライター:栃尾 江美(とちお えみ)