「今年、還暦なんですよ」という斉藤りかさん(59)。宇宙関連のスタートアップで働き、副業も始めたというから、その年齢を感じさせないバイタリティだ。しかし、離婚と失業、両親の死、うつ病などと、5年前には今のキャリアが想像できないほどのどん底にいたという。これまでの経歴やチャレンジ精神、今の心持ちなどを聞いた。
*オンラインで取材を行いました
*掲載しているお写真は、ご本人よりご提供いただきました
スタートアップで働きながら、副業としてライターを
2021年12月より、スタートアップ企業で正社員として勤め始めたという斉藤さん。会社がメインとする事業はAIやデータ分析だが、斉藤さんが担当するのは宇宙関連事業。まだ商用化できていないため、内閣府の実証実験に応募した。
「宇宙関連は、商用化するにも膨大なお金がかかります。準天頂衛星システム『みちびき』を利用した実証実験の公募がありますが、これに応募して予算を得るのが私の大きな仕事のひとつ。1年目は落選しましたが、今年は採択されたんです」
▲海外にも出張する。上の写真は、アンゴラ共和国
2年足らずにして大きな成果を出した。さらには、週末などを利用した副業として、ライティングの仕事に取り組んでいる。
「父が新聞記者で、私も学生のころはジャーナリストになりたいと思っていました。でも、勉強もたいしてしておらず、どの出版社を受けても落ちてしまい……。その後もマーケティングでプレスリリースなどを書く機会はありましたが、『書くことを仕事にはできない』と諦めていました。でも、この歳になると失うものもなし、クラウドソーシングというプラットフォームもある。せっかく気軽に始められる時代だからと、チャレンジすることにしたんです」
現在は定期の仕事として月に数本ほど執筆している。本人は「副業といえるほどの収入ではない」というものの、「自分で書いたものでお金が振り込まれる嬉しさは格別」だという。
20代後半に留学してMBA取得。大使館勤務へ
新卒で出版社に落ちたとはいえ、その後のキャリアは輝かしい。
「新卒で入社したのはIT系の会社。男性ばかりの職場で出世できないだろうと、27歳で留学してMBAを取得しました。そのときに英語も話せるようになり、日本国内のとある大使館で働くことになったのです。長く働いていたのですが、ストレスが重なったのか、うつ病になり退社することとなりました」
当時は50代半ば。病気と失業に加えて、離婚。さらには、両親の死も重なった。
「結婚するまで実家に住んでおり、ひとり暮らしをしたこともありません。離婚してひとりになって、部屋の探し方も知らない。貯金もなく、どうにもならない状況でした」
どんな仕事でもいいから働きたい、とハローワークに通うも、全く仕事が見つからない。
「仕事を探しながらも入退院を繰り返したり、文通をしてくれる僧侶の方に助けられたりしながら、1〜2年ほどかけて少しずつ回復していきました」
その後、契約社員としての仕事が見つかったが、コロナ禍で契約がストップ。焦って目につく派遣会社にはすべて登録した。
「何百件も申し込んだあと、英語とシステムが両方わかる人を探している案件があり、ようやく仕事が見つかりました。そのあとは宇宙関連の広報宣伝担当などの仕事をして、今の仕事につながったんです」
経験を活かした仕事が見つかり、これまでのキャリアがつながったかたちとなった。
仕事のほか、プライベートも心機一転
プライベートでは、三味線を習っていた斉藤さん。たくさんの友人もでき、大事な居場所となっていた。
「三味線は、弾くだけでなく歌もあり、歌詞に心が揺さぶられます。師匠は家族のように優しくしてくださるし、仕事の悩みを話すこともあった。お教室のみんなが顔見知りで、居場所のひとつになっていました」
ただ、人間関係はしがらみもある。また、着物や三味線の修理など、とにかくお金がかかるのだ。「辞めようか」と考えてから1年ほど決断できなかったが、続けるのは難しいと、辞めることにした。
「辞めてスッキリしました。執着があったんだと思います。居場所をひとつ失いましたが、今は何人かの友人とそれぞれ連絡を取り合って、助けてもらっています」
今の仕事はあと5年ほどで定年となる。今後はどのような生活を考えているのだろうか。
「私の場合、会社勤めより、個人事業主の方がずっと自分らしくいられると感じています。スタートアップは比較的、自由や裁量が多いものの、結局会社の決定に従わなくてはなりませんし、失敗したら自分の責任。副業なら、うまくいってもいかなくても自分のせいなので、納得感があります。これからは、3つくらいの仕事を掛け持ちして、それぞれで300万くらい稼ぎたい、と思っています」
個人事業主や社長として、自由に仕事をする。斉藤さんにはそんな働き方が似合っていそうだ。
仕事場には必ず持っていくボールペン
いただき物のボールペンを仕事場には絶対に持っていく。インクの出も良く、重さもちょうどいい。「もともと“書く”ことが好きで、日記もこれで書いています。ほかのボールペンは使えないぐらい、とても気に入っています」
まだ人と会うと負担が大きいため、サングラスや色の付いた眼鏡も愛用している。これらを付けると、弱い自分を隠して自信を持てるようになるという。
ライター:栃尾 江美(とちお えみ)