趣味は組み紐や手毬づくり、機織りなどの手芸。「色と色の組み合わせを考えるのが楽しい」と話す平田彩さん(45)。多種多様なキャリアを重ねてきたが、一時は「ひとつの企業や職種を長く続ける」という経験がない自分を不安に思ったことも。しかし、バラバラに見えるこれまでの経験は唯一無二のカラフルな人生に織り上がっている。
*オンラインで取材を行いました
*掲載しているお写真は、ご本人よりご提供いただきました
祖母から教わったことが海外へのあこがれに
現在は業務委託として海外に拠点を持つ企業で完全リモートのソーシングサービスの仕事をメインに、派遣でアパレルメーカーの人事業務、オンライン英語学習サービスでのコーチ業務、小中学生の英作文の添削と、多様な働き方、業種をパラレルにこなす平田さん。メインの仕事ではオランダ在住の上司やシンガポール在住の同僚とともに働く。
「パソコンとインターネットさえあればどこでも仕事ができるのがメリットですが、顔を合わせないだけに普段からの関係性は重要です。たまに同僚に“今、少し時間ある?”と連絡をしてオンラインで雑談をすることも。それを繰り返すことで、声を聞くだけで相手の調子がわかるようになるので、雑談って大切だなと感じます」
当然ながら上司や同僚とのやりとりは英語で。英会話を身につけたのは、大学時代の交換留学経験から。
「子どものころに、祖母がアルファベットで名前の書き方を教えてくれたんです。子ども心にこれはカッコいい文字だ!と思って、それから海外にあこがれるようになりました。はじめての海外は大学2年でヨーロッパ旅行をしたこと。そこで味をしめて(笑)、交換留学で1年間アメリカに行きました」
留学をきっかけに海外で働きたい気持ちが芽生え、大学卒業後に国内で飲食業の経験を積み、調理師免許を取ったあと、ドイツに渡ってレストランで働き始める。
「当時はいつか飲食店を持ちたいと思って調理の仕事を続けていたのですが、ドイツのあとにイタリアのレストランに移ってから、立ち仕事がキツいと感じるようになり……。帰国して、座ってできる仕事をしようと派遣で事務の仕事を始めました。ひとつの会社で一生働き続ける意識もなかったので、まずは登録してみたんです」
長く続いたキャリアがない自分に不安を覚えたことも
派遣で最初に就いた営業事務は、接客が好きな平田さんにぴったりな職種だった。海外での経験から次第に貿易事務にも興味が広がり、やがて貿易事務に就業先を変更。
「興味があることはチャレンジしないと気がすまない性質なんです。ひとつの道を極めていくよりも、いろいろなことを経験して使えるスキルをためておきたいという気持ちもあります。知っていることを組み合わせて解決できることもありますし」
平田さんのチャレンジ精神と新しい分野に向かっていくバイタリティは尊敬するばかり。しかし、積み重ねてきた自分のキャリアに不安を覚えたこともあったという。
「長く同じ仕事を続けて地位を得ている同世代を見て、私にはそういうものがないと感じて悩んだこともありました。それが最近になって、バラバラに思えるこれまでの経験すべてに意味があったと思えるようになったんです」
そのきっかけは、平田さんが住む市と芸術系の大学が連携するプロジェクトに参加したこと。地元市とアルゼンチンを「食」でつなぐというもので、食に関する仕事の経験があり、英語が話せ、アートにも興味を持つ平田さんには適任すぎるプロジェクトだ。
「英語も食もアートも、それぞれに勉強したいと思って身につけてきたことでしたが、それがひとつに結びついた。特に調理師の経験は、今後何かにつながることはないかと思っていたのに、ここでつながるんだ!と驚きました」
平田さんの中ではすでに「食」の経験を含めて、いずれは自分が興味を持って積み重ねてきたことの集大成となるような夢が膨らんでいる。
「夫とアーティストインレジデンスのようなものをできないかと考えていたんです。キッチンがあって、コミュニティスペースがあって、アーティストに滞在してもらいながら地域の人と交流できる場所が運営してみたくて。料理好きな夫に調理を担当してもらい、陶芸家である義父の焼いた器を使えたらいいなと妄想が広がります。もともと人に会うのが好きなので、家にいるだけで日々いろいろな人たちが会いに来てくれるなんて愉快じゃないですか」
最後までやりたいことをやる。そんな人生にしたい
パラレルワーカーとして多忙に働きながらも、「家にこもって仕事をする日は花を飾ったり、気分転換に窓の外を眺めたりする」など自分のための時間や空間づくりも大切に。そんな中、先に触れた市と大学のプロジェクト参加がきっかけとなり、学びたい意識がさらに高まり、新たな「肩書き」も加わった。
「市と大学のプロジェクトでアルゼンチンにある薬物中毒の方の更生施設を訪問したんです。それで今こそもっと福祉について知らなきゃいけないと感じて。アートと福祉について大学で社会人が履修できるコースを締切2週間前に発見し、大急ぎで応募書類を整えて提出しました」
何かゴールを決めているわけでも、使命感を持って進んでいるわけでもない。とにかく「自分が楽しいと思えること」に舵を切り続ける。それが平田さんの一貫したポリシーだ。
「やりたいことをやる、食べたいものを食べる。そのために自分は生きていると思うので。そのために心がけているのは健康であること。最後まで食べたいものを食べるため、自分の体のケアは大切にしていきたいです」
アウトプットに役立つスケジュール帳とメモ帳
スケジュール帳は「その日やることを書き出して終わったことから消していきます。ずっと消さずに残るタスクは本当にやる必要があるか検討も」。同じタイプのメモ帳には思いついたこと、やりたいことなどを書き出す。タブレットは外国語学習用に。グラスやカップは在宅ワークのおともに。ネコ型の花瓶はひと目惚れして、益子の陶器市で購入。
ライター:古川 はる香(ふるかわ はるか)