
何のために働き、お金を得るのか。そこは一人ひとり違っているもの。西川さん(39)にとっては「生活を大事にする」が最も重要で、そのために必要なお金を稼ぐのが働く目的だ。「自分が何に喜びを感じるのか」を見つめるための余裕ある生き方からは、時として見失いがちな「生きる原点」を感じさせられる。
*オンラインで取材を行いました
*掲載している写真は、ご本人からご提供いただいたものです

「自分の時間」を確保することで生活が安定
自分にとってどんな状態が「充実している」「幸せ」だと感じられるのか。誰より身近な存在である「自分」のことではあるものの、「これこそが自分の幸せ」だと即答できる人は意外と多くないのかもしれない。西川さんがジョブチェンジをするきっかけは「自分にとってどんな生き方が幸せなのか」という問いからだった。
「学生時代から出世欲やお金をたくさん稼ぎたいという欲はそんなになくて、生活に困らないだけの収入を得て、あとは本を読んだり、料理をしたり、自分のやりたいことに時間を使いたいと考えるほうでした。以前はなかなかハードな職場で働いていましたが、納得のいく生活を送れることを重視して、時間に余裕があり、それなりの収入が得られ、自分が興味の持てる職種を考えた結果、派遣での社内ITシステム運用監視の仕事を選びました」
以前は飲食業に従事していた西川さん。仕事内容は大幅に変わったが、ITに関するスキルは独学で身につけたという。
「最初に運用監視で入ったのは未経験でも可という就業先でした。もともとパソコンは趣味で触っていたので、ある程度の知識はありましたが、業務で使うスキルは周囲の人に教わったり、自分で動画を観たりして学んでいきました。体系的に学んだわけではないので、抜けている部分もあるかもしれませんが、日常業務は問題なくこなせています。もちろん必要に応じて常に知識を補完しています」
自給自足を目指して、山の近くに転居
いくつか就業先を移りながら運用監視の仕事を継続。現在の就業先では月の半分を在宅でのテレワークで行っている。
「運用監視の仕事を始めてから、自給自足の生活をしたいと思い、山が近く自然の多いエリアに住まいを移しました。通勤に時間がかかるようになったのでテレワークができるのはありがたいですね。いずれは自分が食べる量の野菜くらいは畑で作れるようになりたいのですが、現状はベランダ菜園で葉物などを育てて日々の料理に使っています」

育てるだけでなく、収穫した野菜は自身で料理もする。調理師専門学校に通っていただけに料理の腕はプロ並みのレベル。
「生活費を抑える意味もありますが、基本的に自炊しています。自分にとって“自炊ができている”のは自分のペースを保って生活していることのひとつの指標ですね。仕事が忙しいとペースが乱れて自炊が疎かになってしまいます。休日などに凝った料理をじっくりと作っている時間はとても充実しています。今は料理のレシピも簡単にネット検索で調べられるので、作ってみたいと思ったらレシピ動画を参考に挑戦する日々です」

「日常生活そのもの」を大事にしたい西川さんだけに、料理だけでなく掃除や洗濯といった家事全般を疎かにしないことを心がけている。
「身のまわりがきちんと整っている状態が僕にとっては心地いいので、特に掃除はこまめにやりますね。やっぱり家が片付いていると気持ちがほっとするじゃないですか?心の平穏を保つという意味では、今住んでいる場所の環境も大きいですね。休日は近くの山に歩きに行っています。夏場なら勤務終了後もまだ明るいので、仕事が終わってから散歩に出ることも。写真を撮るのが趣味で、出会った植物や昆虫を撮影しています。面白い植物や昆虫と出会えるのは、自然豊かな環境ならではですね。自然の中にいるとストレスも軽減されます」

運用監視と自然の中での暮らしには意外な共通点が!?
話していると安定感のある西川さんの雰囲気にこちらもほっとさせられる。IT系の仕事と自然に囲まれた生活は、一見相反する環境に感じるが、西川さんが従事している運用監視の仕事とは意外な共通点もあり、西川さんの泰然自若とした人柄が活かされている。
「システムの増設や設定の変更、新たに職場に入る方のメールアドレスやネット環境の設定などあらかじめわかっている業務もありますが、“メールが送れない”“連絡アプリが使えない”などシステムに関するサポート依頼は、そのときにならないとどんな問い合わせがどのくらい来るかわかりません。社内全体でシステム障害が発生して慌ただしい日もあれば、ちょっとした問い合わせだけで終わる日も。先の予想がつかず、起きたことに対して臨機応変に対応するのは、ある意味自然とつきあっていくのと似た部分があるかもしれないですね」

▲自然を愛する西川さん。自然が生み出した美しい「鉱物」や「琥珀」の収集も趣味のひとつ。
野菜を育てるにしても、この先の天候がどのようになり、作物がどう育っていくか、予想と異なる場合もある。そのような予測不能な事態に対してどっしりと構えていられるのは、西川さんのように基盤となる日々の生活を安定させ、普段から自分の心身を健やかに保っているからだろう。
「自分としては、“こういう状態は嫌だな”“こういうものは好きではないな”と自分が嫌なもの、苦手なものを遠ざけていった結果、今のような生活にたどりついたように思います。ただ、消去法的に今の仕事を選んだかと言えばそうではなくて、やりがいも感じられ、自分には合っている職務だと感じています。すでにあるものを運用していく今の仕事も好きなのですが、そこから一歩進んで、システムの設計などもう少し複雑な業務も挑戦してみたい気持ちはあります。そのためにも引き続き新たなスキルはつけていきたいですし、契約満了のタイミングで技能訓練を受けるなど学びの機会も確保したいですね」
加速度的に発展していくITビジネスの世界だからこそ、そこに振り回されない芯のある西川さんのような人が必要なのかもしれない。安定感の根源が、人間本来の「生活」を大切にすることや、自然と触れ合うことにあるのがとても興味深く感じられた。
体調維持に欠かせない足もみグッズ

デスクワークが中心の働き方になってから、背中や首の痛みなど体の不調を感じることが増えたそう。自宅にエアロバイクを置き、時間を見つけては近くの山に歩きに行くなど運動不足解消も心がけているが、西川さんが効果を感じられたのが足もみ健康法だった。「自分でできる解決法をいろいろと試していて出会ったのが台湾発祥の『官足法』です。もみほぐしに使う棒やマットを買いそろえてセルフケアしています。足もみをするようになってから“なんとなく疲れが取れない”という感覚が軽減されました」
ライター:古川 はる香(ふるかわ はるか)







