第6回 「結局、何が言いたいの?」と言われてしまう3つの理由
今回は、人材教育コンサルタント/産業カウンセラー/キャリアコンサルタント田中淳子さんの「対人力養成講座」第6回です。「今すぐできるけど、一生役立つ力」がつくための講義をお届けしますのでどうぞお見逃しなく。
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【講 師】
人材教育コンサルタント/産業カウンセラー/国家資格キャリアコンサルタント 田中淳子
コンピュータメーカー勤務を経て、1996年よりグローバルナレッジネットワークで、ITエンジニア向けヒューマンスキル研修プログラムを開発、実施。著書に『ITエンジニアとして生き残るための「対人力」の高め方』『現場で実践!若手を育てる47のテクニック』など多数。
「結局、何が言いたいの?」と言われてしまう人には、このようなパターンがある。
・主語や目的語がはっきりしない
・状況から話し、結論がなかなか出てこない
・何を求められているかが分からない
すべての要素が当てはまる人もいれば、一部が当てはまるという人もいる。 1つずつ、例を交えて解説しよう。
1.主語や目的語がはっきりしない
「主語」や「目的語」がないと、聴き手は「何の話をしているのだろう?」と戸惑ってしまう。たとえば、顧客との打ち合わせから帰社して、後輩がこう報告してきたとしよう。
後輩「今日、行って来たんですよ。それで、やっぱり、難しいかな、って感じがしました」
先輩「え?何の話?どこに行って来たの?誰と話してきたの?」
後輩「あ、スミマセン。ABC社さんに行って、X部長にヒアリングしてきました」
先輩「なるほど。ABCさんでヒアリングね。で?」
後輩「色々話してはみたんですけど、難しいかなって感じでした」
先輩「何が難しいの?」
後輩「例の提案です。ソフトの改修だけじゃなくて、ハードウェアのリプレースも提案してみたのですが、今期の予算では難しいかなと」
先輩「ああ、その件か。難しいって部長がおっしゃっていたの?」
後輩「そうです。今期の予算はもうFIXしているので、今から追加でハードのリプレースの予算は取れないと」
先輩「そうやって整理してから話してよ…」
なぜ、この後輩は「今日、行ってきたんですけど、難しいみたいです」という報告になってしまったのか。
話す側(報告する側)は、会話が始まる以前から、先輩にどう報告しようかと頭の中でずっと考えている。自分にとって「行ってきた」のは、自分が今日外出していたただ1件しかなく、「難しい」のは、以前から先輩とも相談していた「ハードウェアのリプレース」のことただ1件しかない。
一方、聴く側(報告を受ける側)の先輩は、一人の後輩のことだけを見ているわけではない。この例のように、唐突に話が始まっても、後輩の会話と「文脈を共有」できていないため、「誰が」「何を」を省略せずに丁寧に話してくれなければ理解できないのだ。
一般に、自分にとって自明過ぎることは、説明の中から省きやすい。しかし、それが相手にとっては、最後まで聴いても「何を言っているんだかわからない」ということにつながる。
話がわかりづらい人は、相手と自分の文脈が共有されていないことを無視して、自分都合で話してしまう。よって、話がわかりづらくなるわけだ。
2.状況を話して、結論がなかなか出てこない
わかりづらい話し方の一つに、「結論」がはっきりしないというのもある。何かの報告をする際、プロセスを延々と話してしまい、いつまでも結論が出てこないといった例がそれにあたる。
後輩「議事録、今日夕方までに出すって言っていたんですけど、午前中発生したトラブル対応をしていて、それはすぐ片付いたものの、それで時間がかかってしまい、で、昼飯もそこそこで取り掛かろうとしたら、今度は、午後イチにお客様から電話かかってきて、至急の調べものを頼まれ、そっちの対応をしているうちに夕方になって、結局、今日は仕上がらないような気がしています。」
先輩「で、何が言いたいの?」
後輩「なので、今日は出せません」
最初から「締切に間に合わないので、1日延長してください。明日17時までには必ず出します」と結論を言えばよいだけの話だ。その際、相手から「なんで遅くなるの?何かあった?」と訊かれたら、トラブル対応や顧客対応が割り込んで来たためだと言えばよいだろう。
3.何を求められているかがわからない
あるとき、こんな場面に出くわした。
プロジェクトメンバーがPMのところにやってきて、何やら話し始める。プロジェクトで困っていることを話しているらしい。しばらく聴いているのだが、何をしたいのかよくわからない。
ずっと我慢して聴いていると、最後に「これ、どうしたらいいと思いますか?」と言う。アドバイスを求めていたとは思っておらず、困惑する。
それなら最初に、「困っていることがあるので、2つの方法のうち、どちらがよいかアドバイスが欲しいのですが、状況と私が考えた2つの方法を話してもよいですか?」などと用件を先に言ってくれれば、そのつもりで聴いただろう。そうでないので、結局、「悪いね、アドバイスすると思っていなかったから、最初からもう一度説明してもらえる?」とPMが尋ね直す羽目になる。
かといって、一生懸命話を聴いていたら、最後の最後に、「聴いてもらってありがとうございました。ただの愚痴なんで、聞き流してください。すっきりしたので、仕事に戻ります」などとさわやかに言われて、「何か解決しなければいけないのか、アドバイスすべきなのかと思って聴いてしまったよ」と思うこともある。
こういうときも、「ちょっと愚痴を聴いてもらっていいですか?誰かに話せば、少しすっきりすると思うので」と最初にどうしてほしいかを伝えてくれれば、アドバイスするためのポイントを探ろうと物凄く集中して話を聴かなくても済んだかも知れない。 何でもメールで済ますのは、人間関係を円滑にするためにあまりお奨めしない。しかし誰もがとても忙しい現代の職場において、話を聴いてもらうには、相手の時間も費やしているということに少しは意識を働かせたほうがよい。
何でもメールで済ますのは、人間関係を円滑にするためにあまりお奨めしない。しかし誰もがとても忙しい現代の職場において、話を聴いてもらうには、相手の時間も費やしているということに少しは意識を働かせたほうがよい。
主語や目的語を伝える。状況ではなく、結論から言う。何を求めているかを先に述べる。ちょっとしたことを心掛けるだけでも、「何がいいたいの?」と言われる回数も減るだろう。
(編集後記)
相手に要件を伝えるため、一生懸命考えて準備をしても、いざとなると全然伝わらない…という経験は私もよくあります。聴く側はどんな状況か、何を求めているのかを毎度考えるのは難しいことですが、今回の3つのポイントなら簡潔で憶えていられそうですね。
次回は「聴く」ことを同様に掘り下げていきます。どうぞお楽しみに。