株式会社リクルートスタッフィング(以下ITSTAFFING)は11月11日(金)に「技術書ナイト エンジニアと本とワタシ、その複雑な関係。」というイベントを開催しました。技術書の編集に携わる傳氏が技術書編集者の視点から情報収集の方法や新しい技術のキャッチアップ方法について語った、イベントの様子をお伝えします。
■今回のイベントで語られた内容は…
・技術書の編集者が実践する情報収集は「新しい技術をいち早く知ること」と「その技術はブレイクする技術なのかを見極めること」がポイント。
・技術を学ぶためには 1.基礎を学ぶ → 2.興味のあるテーマを学ぶ → 3.深める → 4.アウトプット の4つのステップで学ぶのがおすすめ。
・書籍の選び方を書店に行った場合、行けない場合に分けて注意ポイントを伝授。書籍を手に取ったらまず確認する場所がわかります。
最後にITSTAFFINGが、他にどんな支援を行っているかご紹介しています。ぜひご覧ください。
▼セミナー講師:傳智之(でん・ともゆき)さん
2002年4月、株式会社技術評論社に入社。書籍編集部にて数百円台のムック・読み物から五千円台の専門書まで、さまざまな書籍の編集に携わる。主な担当作は『たった1日で即戦力になるExcelの教科書』『JavaScript本格入門」『10倍ラクするIllustrator仕事術』『なぜ、仕事が予定どおりに終わらないのか?』『夢をかなえるツイッター』など。
エンジニア向けの書籍を作っている編集者の情報収集方法って?
IT技術は専門が細分化されている一方で、技術書の編集者は専門分野を作らずに幅広く技術をキャッチアップして企画・編集していることをご存知でしょうか? 技術書籍の編集において最も重要なのは「どんなテーマで、誰に書いてもらうのか」を決める企画作業です。特に、どのテーマで書籍を出版すべきかを決めるためには
1. 新しい技術をいち早く知ること
2. その技術はブレイクする技術なのかを見極めること
に注目し、そのために傅さんは普段から複数の情報源から情報を手に入れています。新しい技術を知るにはニュース記事やブログ、新しい技術がブレイクするかを見極めるためにはSNSや勉強会、飲み会を活用されるそうです。
重要な技術を見極めるポイントは、まず幅広く最新の技術を知ること、次に技術を詳しく知る人の本音を複数聞き出し、裏を取ることです。複数の情報収集の方法を使い分けることができれば、より効果的に技術情報をキャッチアップできるようになります。
その上で大事なコツは「扱う技術がどんな問題を、どう解決するのか」を押さえることだと傅さんは言います。これまでどのくらい大変だったことがこの技術を用いるとどの程度まで簡単になるのか、または、これまで出来なかったことがどうやって出来るようになったのかを言葉にすることで、「技術のスゴさ」をきちんと理解できるようになります。
特定の専門領域を深く学んで実践するエンジニアの方と、広く学んで新技術を世に広めていく編集者の情報収集の方法は異なる部分もありますが、これは両者に当てはまる重要なポイントです。
技術を学ぶための4つのステップ
エンジニアとして働く上で、一つの技術をゼロから学習してそれを業務で活用できるまでには長い時間がかかります。その前提の上で、エンジニアとして新たなキャリアを描いていくために、以下のステップを踏んで学習することが重要だと傳さんは続けます。
1. 基礎を学ぶ
新しい技術をしっかり理解するためにも、まず基本を押さえて新技術に対応できるようなベースの知識を身につけるべきです。技術のトレンドは移り変わりが激しいように見える一方、TCP/IPのように基本的な技術はほとんど変わらない面もあります。基本的な箇所を学習しておけば、新技術もその基本と比較することで理解しやすくなります。
また、どのような技術が栄枯盛衰しているのかを学びましょう。例えばクラウド技術の基礎となる並列・分散技術は、1980年代にはすでに研究・開発されています。大きなトレンドを理解すると、その技術がどのように普及するか予測する判断材料になります。
2. 興味のあるテーマを学ぶ
エンジニアとしてのスキルアップには自律して勉強する時間を持つことが重要です。まずは面白いと思ったものを追求する時間をとりましょう。これまでの業務に紐付かないけれど、面白いと思うような技術のテーマを持ち、自分で学習してみることで関連する技術を学ぶきっかけにすることができます。
興味のあるテーマが決まれば、体系的に知識がまとめられた書籍を使って技術を学びましょう。書籍は出版されるまでタイムラグがありますが、基本を押さえることができれば、最新情報はインターネットでカバーすることが出来ます。
ただし、テーマを決める上でも技術の見極めが必要です。「この技術はすごい!」という話を鵜呑みにせず、その技術のデメリットを踏まえて本当に普及するのかを考えることが大切です。
3. 興味のあるテーマを深める
一つのテーマを一通り学んだら、さらにその興味を掘り下げていきましょう。一つのことを学ぼうとするとそれに関連することも次々に学ぶことになりますが、これがエンジニアとしての幅を持つコツです。
まずは面白いと思う技術が見つかった段階で、その技術で先端を走る方を見つけてブログやTwitterをフォローするのがおすすめです。特にTwitterはその方がどのような問題意識で何をしているのかがわかり、その人の興味が自分の次の興味につながることがあります。
人から直接話を聞くことも有効な情報収集手段です。ブログや書籍になる情報は比較的古い情報になる上、本人が抱えている課題はそれぞれ違うので、人と話をすることでより核心を突いた情報を得られることもあります。そのために勉強会に参加、または社内で同じ技術について関心がある人と定期的に技術について話し合うことがおすすめです。
さらに、最新の技術情報は英語で情報交換が行われています。海外サイトの技術記事や、オープンソースコミュニティのメーリングリストやGitHubをチェックするのもいいでしょう。
4. 学んだことをアウトプットする
理解していることと、それを実際に使えることの間には大きな差があります。アウトプットを通じて技術の理解を深め、またそれを発信することはキャリアを構築する上でも有利になります。
一番簡単なのは図に書いてみることです。技術書を読みながら理解したことを概念的に図にすることで、本当に理解できているかどうかを確認できます。
ステップアップすると、学んだ技術を活かして実際にサービスを作ることで学習内容の定着を行いつつ、自分の実力を証明することができます。派遣エンジニアの場合は特に、成果物があるからこそ案内される仕事もあるため、アウトプットは重要です。
エンジニア向けの書籍の内容の見分け方は?
情報収集の最初のステップであるインプットでは、知識が体系的にまとまった書籍を利用されることも多いかと思います。安心して技術書を買うためには、どのような所を確認するべきか教えていただきました。
書籍を見分けるポイントは大別して実際に見て判断するものと、事前に調べることで判断できるものの2種類があります。正確に判断するためには実際に書店に行き、手元で書籍の内容を確認されることをおすすめしています。
1. 書店に行った際の注意ポイント
まずは「はじめに」と目次をきちんと読みましょう。編集者としては、「はじめに」はその書籍のスタンスを明確に語るべき場所です。目次は、そこから独自の表現が見てとれれば、著者独自の視点をもとに、わかりやすく書かれている可能性が高いと言えるはずです。
次に索引の充実度を見ます。編集者にとって索引を作るのは大変な作業なので、索引が充実していれば気合を入れて作られた書籍であることがわかります。
また、技術書の中には終始仕様を解説しているものがあります。しかし、技術について業務経験のある著者であれば、たとえば「複数オプションがある中で、このような状況ではこうするべき」という具体的なケースを挙げつつ善し悪しを示してあるはずです。そうした情報は実用性が高く、良書と判断できるでしょう。
2. 書店に行けない場合の注意ポイント
では、もし時間がないなど書店に行けない場合にはどうすればよいでしょうか。
実際に現場の経験が書かれている本は、実践に裏打ちされた話が書かれている可能性が高いといえます。また、一概にはいえませんが、著者の方がTwitterなどで読者のサポートをしているような熱意を感じられる場合は、それだけ読者を意識されていることの証拠でもあり、本も読者目線を意識した良い内容になっている可能性が高いです。
また、売れている書籍には売れるだけの理由があるはずです。売り上げランキングやレビューの評価が高いものは参考にしましょう。ただしサイト上のレビューは過信しすぎないでください。「売れている書籍を知る」という話と矛盾しますが、「本当は良い書籍なのに評価が低い」または「悪い書籍なのに評価が高い」ということがあるためです。
情報収集する際に「この人がおすすめする書籍はハズレがない」という人とつながることができれば、どの書籍を買うべきかの指標になります。多少の偏見はあっても、身近な方であれば、その人の評価のクセを踏まえてどんな書籍かを判断できます。
また、本イベントの最後にITSTAFFINGから来場いただいた方に傅さんおすすめの書籍のプレゼントがありました。ぜひ参考にしながら書籍を選んで、エンジニアとしてのスキルを磨いてくださいね。
《イベントの参加者の声》
57人の参加者のうち、46人がとても面白かったor面白かったと回答されています!
・技術書を買っても読み込まないことが多かったので、セミナーで本の見極めポイントを学べて良かったです。
・持ち帰れる情報がいくつもあり、行動の選択肢が増えました。
・興味を抱いていることを、掛け合い的に進めていく、新しい刺激の多さがとても面白かったです。
今後もITSTAFFINGでは
1. 学べる環境や機会の提供
2. 情報の発信
3. 自己のスキルの可視化
といった、派遣エンジニアの皆さんの今後のキャリアや就業につながる支援を行って参ります。 エンジニアスタイルやメルマガでの情報発信、上司やチームメンバーとのコミュニケーションの方法やエンジニアとして生きのこるための情報収集の仕方を学ぶイベントなどを定期的に開催していますので、ぜひ活用してくださいね。