前回は、話題の生成AIにできること、そして注意すべき生成AIの性質について解説しました。まだ読んでいない方はこちらからご覧ください。
今回は生成AIの問題点を踏まえたうえで役立てるコツと、エンジニアにおすすめの具体的な活用アイデアを3つご紹介します。
活用のコツ。質問ではなく指示を出す
前回、説明したように、生成AIには「いつも同じ回答とは限らない」「嘘をつくことがある」という大きな問題が2つあります。
この2つの問題を考えると「○○について教えてください」とか「○○はどういう意味ですか?」などと生成AIに聞くのは愚策であることがわかります。嘘をつくことがあり、もし自分の知らない分野であればその嘘を判別できないからです。
ではどのように活用すればいいのでしょうか。コツは2つです。
■質問ではなく、作業の指示を出す
生成AIの良き使い方は作業をさせることです。「○○してください」のように、部下に対して指示を出すのと同じように作業をさせます。
部下に指示する作業は、自分がやるべきことを代行させているのですから、どんな結果になるのが正しいかを知っているはずです。ですからもし、生成AIが間違った回答をしてきても、それに気づくはずです。つまり、「嘘をつくことがある」という問題は、人間がチェックすることで回避できます。
■繰り返し指示を出し、精度を上げる
もうひとつ、「いつも同じ回答とは限らない」という問題については、繰り返し指示を与えることで、だんだんと精度を上げるように工夫できます。
そもそも、いつも同じ回答とは限らないので、要求に対して一発でOKのものが戻ってくることを期待するのは得策ではありません。「ちょっと違う」「ここはこうしてほしい」などあれば、さらに追加の指示を出して調整していくようにします。
前回、ChatGPTはチャットシステムだと説明しましたが、チャットで会話しながら作業を進められる利点を活かし、繰り返し、指示していけばよいのです。
真似したくなる活用アイデア3つ
では、どんな場面で生成AIが使えるのか、3つのアイデアを見ていきましょう。
1:データの整形や加工、生成
どのような職種かにもよりますが、エンジニアであればデータの整形や加工に生成AIを使うのは良いアイデアです。とくに、不定型のデータを整形するような場合です。
たとえば、見出しが付いているテキストを一覧表にまとめるような場面です。多少、表記の違いがあってもまとめられます。
インターネットの検索結果と組み合わせられる生成AI(たとえばChatGPTの有償版であるGPT4)では、ネットで検索して不足する値を補完する使い方もできます。たとえば、あなたが調べ物をしていて、いくつかの建物の住所および緯度経度を調べたいような場合、それを検索して一覧として出力できます
。もしあなたが開発者なら、テスト用のデータを生成するのにも重宝します。ダミーの顧客データや商品データなどを簡単に作成できます。簡易なツールで完全ランダムに作るのと違って、「男女半々」とか「郵便番号と住所、電話番号を連動させる」ようなリアルに近いものも作れます。
2:要約や書き換え
ドキュメントの要約や書き換えにも生成AIを使えます。分量にもよりますが、ソースファイル一式をアップロードして、全体で何をしているかを要約すると、他人が作ったコードの概要を掴むことができます。
また日常の業務では、要件を丁寧な言い回しの文章にするのも時短に貢献します。たとえば、メールに返信する文面を、箇条書きから作れます。
3:プログラムの生成
もちろん、プログラムの作成にも生成AIを使うことができます。
たとえばインフラエンジニアなら、ファイルをバックアップするスクリプトを作ることもあるでしょう。そんなときは、次のように指示を入力するだけで作れます。
バックアップのプログラムなど小さなものだけでなく、もちろん業務システムで実際に使うプログラムのコードも生成できます。ただし、現在の生成AIは、丸投げできるほど賢くはありません。関数(メソッド)ごとに指示を出して、それをつなぎ合わせて作るのがよいと思います。
そしてプログラム開発ではテストが欠かせませんが、そうしたテスト用のコードを生成AIに作らせるのも良いアイデアです。プログラムを構成するクラスを読み込ませて、それに対応する単体テストを生成してもらうと、時短につながることでしょう。
また、自分がよく知らない分野で何かコードを書かなければならないときは、そのひな形だけを作ってもらって、そこに自分で追記して処理していくやり方もおすすめです。
たとえば、あなたがPDFを出力する何らかのコードを書かなければならない場合、次のように聞きます。すると、だいたいのひな形が回答として戻されるので、これを改良する、もしくはさらに質問して仕上げていきます。
もちろんこうして生成したコードは嘘であることもあります。
しかし、もし嘘があれば実行したときにエラーになるなど、おかしな結果となるので気づきます。ですから、生成AIにおける「嘘をつく」という問題はプログラムを作らせるという使い方では、その影響をある程度抑えられます
。人より速い生成AI
本稿を読んだ人は、ともかく生成AIを使ってみてください。OpenAI社のChatGPTでもMicrosoft社のCopilotでも、それ以外でもかまいません。実際に使ってみて、是非その応答の速さを体感してください。
とくにプログラミングのコードを作らせる場面では、人間は太刀打ちできないことに気づくはずです。
人間は考えながらコードを書き、バグがあればそれを直すというように、試行錯誤して作り上げるので、どんなに熟練者でもある程度の機能を持つ処理のコードを作るには短くても5分、10分はかかるはずです。
生成AIを使えばそれが一瞬です。ですからエンジニアが作業の補助として生成AIを使うことは、とても大きな効果があります。
そのまえに。生成AIを使ってよいかを確認しよう
さて、このように便利な生成AIですが、業務に使って良いかどうかは職場によって異なります。使うときは、利用してよいかの確認を怠らないようにしましょう。
生成AIの利用を禁止するのは、主に次の2つの理由によります。
【1】生成AIのサービスに業務データが漏れる
もっとも大きな理由として、生成AIのサービスとやりとりしたデータが漏れることが挙げられます。たとえば、個人情報などを含むファイルを生成AIに渡して処理すると、個人情報の流出につながるかも知れません。
またいくつかの生成AIサービスは、生成AIのサービスとやりとりしたデータを学習に使うことを明記しているところもあります。そうしたサービスでは、個人情報や固有名などが学習されて取り込まれてしまう恐れもあります
。【2】正当性が担保されない
もうひとつの理由は、生成AIから返された結果の正当性が担保されないという点です。
たとえば、顧客からの質問を生成AIに丸投げして、その回答をそのまま顧客に返すと、その間違った回答で混乱を来すことが予想できます。
【2】については運用の問題なので、回答を人間が確認すれば避けられます。しかし、【1】については生成AIそのものの問題なので回避できません。
この問題を回避するため、生成AIサービスを使うのではなく、生成AI自体を自社で用意しようという動きもあります。
これは「ローカルLLM」と呼ばれ、自社のサーバーに構築した生成AIです。自社で運用するので、情報漏洩の危険もなく、また自社に関わるデータをあらかじめ学習させることで、カスタムできます。
とくに近年、国内企業がローカルLLMの開発を推し進めており、社員がローカルLLMを使って仕事をするという時代は、そう遠くないかも知れません。
・・・
いかがでしたか。引き続き注目を集める生成AIですが、弱点や注意点もあることがわかります。それらも理解したうえで、生成AIとの賢い付き合い方を探っていけると良さそうですね。