
仕事と家庭、そして育児を両立させること。それは多くの人の頭を悩ませている課題なのではないだろうか。そのバランスをうまくとりながら、自分自身が納得できる働き方を実現しているのが、石鉢美智子さん(34)。彼女はなぜ、今の働き方を選んだのか。またどのように、生活のペースを作っているのだろうか。
育児を夫婦で分担しつつ、短時間勤務でバランスを取る
今、3歳になる女の子を育てながら、派遣スタッフとして働いている石鉢さん。2014年の春に出産し、およそ2年の育児期間を経て仕事に復帰した。
「性格的に、外に出ていきたいタイプなんです。子育てだけをしながら家に閉じこもっていると、社会から一歩身を引いているように思えてしまって……」
子どもとの時間も、家庭のことも大切にしたい。でも、自分もできれば働きたい。そう思うようになったという。
現在、石鉢さんが働いているのは、さまざまなWebサービスやWebメディアを運営している会社だ。彼女の仕事は、とあるアプリのユーザーサポート業務。そこで週に5日、9時半から16時半までの短時間勤務をしている。
「子どもが生まれてからは、とにかく“時間の使い方”が最優先事項になりましたね。生活の中でも、仕事でも、時間配分をきっちり考えるようになりました。うちの場合、夫の仕事が販売業なので、平日に2日間お休みがあるんです。土日休みの私とうまくスイッチするように、家事・育児を分担しています」
忙しい毎日を送りながらも、石鉢さんは、今の生活におおむね満足しているという。限られた時間を、仕事と家事と子育てにバランスよく振りわけている。1日を終えるとき、「今日もがんばった、お疲れさま!」と実感できるのがいいそうだ。
しかし彼女はなぜ、復帰するにあたり、派遣スタッフとして働くことを選んだのだろうか。そこには、2つの理由があった。
仕事だけに忙殺される毎日から抜け出したかった
1つ目の理由は、まさに、時間をある程度コントロールできること。
出産前、さまざまな業種の仕事を経験してきた石鉢さんは、あまりにも忙しく、毎日終電で帰らざるを得ないような職場で働いていたこともあったという。
「このまま、この働き方を続けていていいのかな、と。体調に不安を感じたこともありましたし、自分の時間もほとんどもてませんでした。だからできれば、時間に余裕が生まれるような働き方をしたかったんです」
当時、 “自分の時間”を使ってやりたいと思っていたのは、趣味の彫金やアクセサリーづくり。もともとものづくりが好きだったという石鉢さんにとって、集中して手作業する時間は、自分自身と向き合える大事なひとときだった。
そこで彼女が選んだのが、派遣スタッフとして働くことだった。かつて人材系の仕事をしていたことがあったため、派遣の仕事のスタイルはよく知っていたという。
そのときの経験から、産休明けに再び仕事をしようと考えたときも、迷わず派遣スタッフとして働くことを選んだ。まずは自分のペースで仕事ができること、希望する時間帯で働けることを条件に、就業先を選んでいった。
「少しずつ身体を慣らしてペースをつかみながら、毎日の生活のリズムを作っていこうと思っていました。家庭と仕事のバランスをうまく取れるように」
さまざまな職場を経験できることのメリット
そしてもう1つの理由は、石鉢さんがこれまでに歩んできた経歴にもよく現れていることだった。さまざまな業界・業種に、多様な職種。彼女の勤務経験は、実にバリエーション豊富である。
育児と仕事を両立することを考えたら、できれば一つの職場に長く務めて安定を得たい――と考えてしまいそうなところ。しかし彼女が自分の気持ちに正直に働こうとしたとき、必ずしもそれがプラスに働くとはいえなかった。
「基本的に、すごく飽きっぽい性格なんですよね(笑)
そのとき自分が興味のあるものに、ついつい飛びついてしまうというか。自分の知らない世界を見ることが好きなんです」
これまでの派遣先で、「社員にならないか」と誘いを受けたことも何度かあったそうだ。でも石鉢さんは、あえてその道を選択しなかった。
「派遣先の職場によって、仕事に対する姿勢や、対応の仕方が違うので、いろいろな視点を得ることができています。時間をコントロールできることだけではなくて、その点も私にとっては良いところですね」
子どもの成長とともに、働き方も柔軟に変えていく
お子さんが生まれてからは、自分自身の好奇心を満たす以外にも、もう1つ、派遣スタッフとして働くメリットが見つかったという。
「これから先、娘がどんどん成長していくに従って、生活のリズムもペースも変わっていきますよね。そのときどきの自分たち家族の状態に合わせて、働き方も柔軟に変えていきたいと思っているんです」
今はちょうど育児に手がかかる時期で、自分の時間がなかなか取れていないという石鉢さん。お子さんがもう少し成長したら、もっと趣味の時間も増やしていきたいそう。
「やっぱり1人で黙々と何かを作っている時間が、一番の発散になるんですよね。そういう自分の時間をもちながら、ところどころはうまく手を抜きながら(笑) 仕事と家庭とのバランスを維持していければいいな、と」
仕事と家庭、育児――きっと石鉢さんはこれからも、自分の気持ちの変化も大切にしながら、うまくバランスを取りつつ、進む道を決めていくのだろう。
仕事で使うメモに必須の4色ペンで、業界用語を勉強
毎日欠かせないのがハンドクリーム。お子さんのオムツ替えが必要で手が荒れがちだった時期に、いろいろと試す中で出会ったメーカーのものを今も愛用している。
可愛らしい飾りのついたピルケースは、石鉢さんご自身が手作りしたもの。パーツを好きなデザインに並べて、樹脂コーティングをほどこしている。こうした細々とした手作業が好きなのだそう。
「とはいっても、お裁縫は苦手なんですよ(笑) 彫金、アクセサリーづくり、冬は編み物をすることもあります」
4色のボールペンは、仕事で愛用している。スケジュール帳に予定を書き込む他、業界特有の用語などを忘れないようにメモしているそうだ。
「サポート業務をする上で、やはりどうしても専門用語がたくさん出てくるんです。だから暗記ノートをつくるようなイメージで、大事なことはペンの色を変えて、わかりやすくメモしています」
ライター:大島 悠(おおしま ゆう)
カメラマン:刑部 友康(おさかべ ともやす)