高卒というコンプレックス、サックスを続けたいというこだわり、子どもが保育園に入りづらいハンデ――佐久間恵子さん(40)が抱えていた課題は、ワーク・ライフ・バランスを語る上で“先進的”と言えるものだったのかもしれない。ゆったりと話す声には熱さを感じさせないものの、その内にはふつふつとした情熱と、芯の通った思いがある。

音大へ行けなかった思い。突き動かされるように上京

長野県出身の佐久間さんは、10歳の時にサックスと出会い、以降ずっと演奏を続けてきた。ところが高校時代、仲間が音大へ進路を決める中、佐久間さんは家庭の事情で大学へ行けなかったのだ。

「地元で一度就職したのですが、そのままではサックスを続けられません。アマチュアでもいいから『活動するなら東京』と20歳のときに上京しました。同時に東京で就職先を探しましたが、書類選考や面接などで学歴を重視され、なかなか見つかりません。そこで、学歴が関係なく自分の経験やスキルを重視してくれる“派遣”での働き方を選んだのです」

その後も、派遣スタッフや契約社員として、さまざまな仕事を経験する。それぞれの勤務先では、新しい仕事に取り組むチャンスも多く、多様なスキルを身につけてきた。もともと入力が得意だったが、パソコンソフトの習得も早く、画像編集やホームページの改修など、さまざまなことにチャンレジしてきた。

結婚・出産。認可保育園に入れず、しばらくは無認可へ

働き続けながらも、結婚、出産を経験。2人の子どもに恵まれたが、なかなか認可保育園に入れなかったという。

「しばらくは無認可の保育所に預けていました。認可より保育料がずっと高いので、何のために働いてるのかなって思うことも……。その後、やっと認可保育園に入れたと思ったら、2人の子どもが別々の園になってしまったのです。お迎えの帰り道、疲労や苦労が重なり、自転車を漕ぎながら涙があふれてきたこともありました」

派遣スタッフとして働いていても育休は取れるが、一定の条件を満たしている必要がある。佐久間さんは一度退職し、産後新たに派遣先を探すことになった。「正直、正社員の人は戻る席があって羨ましいと思いました」と言う。産後の働き口が決まっていないと、認可保育園には入りづらいのだ。

苦労話に表情が沈む佐久間さんに、「これから子どもを産みたいと思っている人には、正社員をおすすめしますか?」と質問してみる。すると、迷いのないまっすぐな表情になった。

「いえ、派遣スタッフをおすすめします。やはり正社員の方は、早く帰りづらいと聞いています。6時になっても帰れず、延長保育をしてもギリギリの時間になり、ダッシュでお迎えに行くとか……。派遣スタッフは時間を自分で決められるので、4時に帰ることもできる。子どもが小さい頃は特に、とてもありがたかったです」

早く帰れるから、手作りの夕食を用意し、子どもと遊ぶ時間も取れる。今は、中学生になった長女の宿題を毎日のように横に座って見てあげているという。

サックスは土日に練習。子どもも演奏会に来てくれる

上京の目的だったサックス。当初は吹奏楽団に入ったが、子どもが生まれたので少しペースを緩め、少人数のアンサンブルで活動している。

「土日に練習し、年に数回の演奏会に出ます。子どもがどう思っているかというと、うーん、呆れているんじゃないでしょうか。でも、いつも演奏会に来てくれます」

佐久間さんはそう言うが、きっと心の中では応援してくれているのだろう。

昨年までは自費で先生に付き、まるで音大生のようにサックスと向かい合っていた。一定のところまでやりきったと感じられ、今は少し練習量を減らしているのだとか。

もうひとつの趣味は登山。同じく登山好きの次女といろいろな山へ行く。もともとは、故郷の山が恋しくなったことから5年ほど前に友人とスタートした。自然の空気や草木の香りに加え、地質を見たり感じたりするのも好きだという。

取材が終わり、帰り支度の最中に「実は負けず嫌いですか?」と聞くと、恥ずかしそうに「そうだと思います」と即答。ただそれは、誰かではなく「自分に負けたくない」という思いなのだそう。そんな佐久間さんだからこそ、好きなことを精一杯やりながら、スキルを磨き、力を発揮していくに違いない。

小さめサイズが嬉しいスケジュールノート

現在は事務職として就業中の佐久間さんだが、前職は社長秘書。当時は、社長のスケジュールを書き込むのに大きなスケジュールノートが必要だった。今はその必要がないので、小さめなノートを使えるのが嬉しいのだという。4色のボールペンで、用途ごとに書き込む。

ペンケースは、前職の先輩秘書からいただいたもの。秘書時代は先輩に何から何まで教わった。また、映画「プラダを着た悪魔」を観て、上司のさまざまな要求を片付けていく主人公に強く共感したという。

朝に淹れたコーヒーを、登山家御用達のポット「Nalgene」に入れてくる。リラックスタイムに少しずつ飲むのだとか。

ライター:栃尾 江美(とちお えみ)
カメラマン:刑部 友康(おさかべ ともやす)

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