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病気を患ったからこそ知る、「日常は当たり前ではない」ということ

「相手の帰りがどんなに遅くても必ず夕飯は一緒に食べる」ほどご主人と仲の良い坂(ばん)朱里さん(36)。2012年に腎臓系の難病、IgA腎症を発症して以来、派遣スタッフという働き方を選び、治療しながら働いている。持病を抱えているからこそ日常の大切さを感じている坂さん。仕事や日々の暮らしに対する思いをうかがった。

条件さえ合えばなんでもします!

坂さんは持病が発覚したとき、働き方を社員から派遣スタッフに変えた。正直、何かあったら仕事を休まざるを得ない坂さんにとって、仕事への責任が重い社員という働き方は不安が大き過ぎたのだ。

「主人がもともと派遣会社に勤めていた人で。派遣スタッフなら、正社員より給与は安くなるかもしれないけど、仕事内容や勤務地、残業の有無などの条件で仕事を選べると教えてくれました。私の場合は月1の通院日に休ませてくれるのが絶対条件です」

正直、それを理由に就業先がなかなか決まらないことは少なくない。だからこそ、就業先が決まったら、坂さんはそこでベストを尽くす。一つずつできることを増やしていき、手が空けば率先して社員を手伝う。そうして、自分がそこで働く意義を積み重ねているのだ。

ちなみに、「いまの就業先を決めた理由は?」と聞くと、「正直、条件面が自分の希望と合致したからってだけ」と明るく笑う坂さん。とても持病を抱えているとは思えないほど明るい笑顔だ。

少しの工夫で、何気ない1年を楽しい1年に

「毎年、何か一つ新しいことを必ずやるっていうのを目標にしているんです。シルバーアクセサリーの資格を取ってみた年もあったっけ。今年は初めてふるさと納税に挑戦してみました」

何もしないと1年はあっという間に終わってしまうから、何かに挑戦したり自分でイベントを企画するようにしているそう。と言ってもそんな大げさなものではなく、例えば、「今年はクリスマスケーキを予約してみよう」などといったささやかなものばかり。

「もし1年の半分、体調があまり良くなかったとしても、その年の終わりにアレ楽しかったね、このイベントは成功したよねって振り返られれば、今年も楽しかったねって笑えると思うんです」

5年目、10年目の結婚記念日にご主人とお揃いで購入した「ブルガリのリング」を見つめながら、そう話す。

大切なのは、先の未来より“いま”。日常のありがたみを誰よりも知っている坂さんは、何気ない日々を楽しむ達人だ。

苦手なことにだって挑戦したい

もともと、仕事には積極的に関わりたいタイプ。そのため、派遣スタッフという働き方は、たまに物足りなく感じるそう。その一方で、体調が悪いときは派遣スタッフで良かったと実感するとのこと。

「体調が悪くて、なかなか作業が進まない日もあるし、早く帰りたい日もあります。そういうときは、余裕を持ったスケジュールのおかげで、作業が多少遅れても、早く帰ってもフォローしてもらえるいまの環境にありがたみを感じます」

とはいえ、最近は苦戦中。いまの就業先は英語をはじめとする外国語が飛び交う職場なのだが、坂さんは英語がまったくできないそう。「挨拶が精一杯」というレベルだ。就業し始めたばかりのころは英語をほぼ使用していなかったが、最近は少しずつ英語に触れる機会が増えてきた。

「なので、もう来年は英会話に挑戦しようかなと。ただ、現状の英語レベルがあまりに低いので、どういう英会話教室にしようかは悩みどころです」

挑戦することをやめたら、人は成長を止めてしまう。坂さんは、常に成長し続けていたいという思いで、自分にできる範囲で目一杯挑戦し続けているのだ。

自分にできることを全力でやればいい

坂さんの持病が発覚したとき、数値的にグレーゾーンだったこと、経済面に懸念があったこと、何よりも治療に対する覚悟が決まらなかったことを理由に、しばらくは様子を見ることにした。

けれど2017年、数値が悪化し、入院して本格的な治療をすることになった。幸い、その治療の効果が顕著に出て、現在は病状が大幅に改善し、完治はしないけれど緩解といえるレベルになっている。

「でも、普通の人が当たり前にできるようなことができないんです。例えば、1泊2日の旅行に出かけたら、翌日は寝込んじゃう。体力が持たないんですね。働き方も、接客業みたいな立ち仕事はダメで、事務のようなデスクワークじゃないと」

普通の人よりは制限があるのは事実だ。でも、それならば可能な範囲で自分ができることを探せばいい。新しいことにだってどんどん挑戦できるし、日々の暮らしはちょっとの工夫でどんどん楽しくなる。坂さんは、日々それを体現しているのだ。

周囲から、いただいたものに囲まれて

「定期入れも化粧ポーチもコーチですが、わたしが選んだってわけではなく(笑)。どっちも、わたしが持っていないことに見かねた主人が買ってきてくれました」。音楽プレイヤーもご主人からもらったもので、いつかのクリスマスプレゼント。ボールペンは「何かいいのない?」とご主人に相談したら自分で使っているものを貸してくれたそう。

定規は最初に勤めていた機械系の職場で支給されたもの。曲がってしまったが、愛着があっていまも使っている。

手鏡は友人がくじ引きでダブったからともらった。それまで手鏡を持ち歩いていなかったそうだが、「あると結構使う、便利」とのこと。

難病の自己負担上限額管理票は、通院の必携品で何かあったときのために手放せない。

「こう見ると、全部もらいものですね」と、坂さんはさも可笑しそうに笑っていた。

ライター:小山 典子(こやま のりこ)
カメラマン:福永 仲秋(ふくなが なかあき)