なんとなく感じている老後の不安は、誰にでも覚えがあるはず。ところが、具体的な事実を知っていたり、調べたりしたことのある人はどれくらいいるだろうか。自分だけでなく親も含め、いずれは来るとわかっているのにどこか他人事になっている老後のこと。データを見つめて、しっかりと向き合っていきたい。『「幸せな老後」を自分でデザインするためのデータブック』の著者である大石佳能子さんに、書籍でも紹介しているリアルな現状を教えていただいた。

講師:大石 佳能子さん

株式会社メディヴァ代表取締役社長。起業家、コンサルタント。大阪出身。幼少期を海外で過ごす。大阪大学法学部卒、ハーバード大学経営学修士、 マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナーを経て、(株)メディヴァ、(医)プラタナスを設立。メディヴァは“Medical Innovation and Value-added”を意味し、「患者視点の医療改革」「無人島に街を作る」をテーマに、新たな事業・サービス開発とコンサルティングに従事。資生堂、参天製薬、江崎グリコ等の非常勤取締役。厚生労働省、経済産業省等の審議会委員を歴任。大阪大学経営協議会委員。ハーバード・ビジネススクール(アジア)アドバイザー。著書に、『診療所経営の教科書』『病院経営の教科書』、『「幸せな老後」を自分でデザインするためのデータブック』等がある。一児の母。趣味は、料理と酒。

日本における高齢化社会の問題は、スピードが速いこと

大石さんは、まず超高齢化社会の実情について紹介した。「日本が高齢化しているのはご存知だとは思いますが」と前置きをしてから、ほとんどの先進国が高齢化に進んでいることを説明。ところが、日本特有の大きな問題があるという。

「日本は高齢化のスピードが圧倒的に速いのです。例えば、老齢人口が7%から14%になるまで、スウェーデンやフランスでは100年ほどかかっているところを、日本はたった24年で到達しています。とても短い期間で、高齢化社会に適した社会制度を整備しなくてはならないということです」

団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)になる2025年には、高齢者(65歳以上)が3766万人になると推定されている。これは、カナダの「人口」と同等だそう。それほどの規模の高齢者がいるということだ。

次に、女性にはショックなデータが見せられた。平均寿命と健康寿命の年齢差のグラフだ。

「健康寿命とは、要介護や認知症にならずに健康に過ごせる寿命のことで、男性は寿命81歳、健康寿命72歳でその差は9年です。ところが、女性はそれぞれが87歳と75歳で、差が12年もある。最後の12年ほどは、元気でぴんぴんしているわけではないのです。また、男性の1割ほどは亡くなる直前まで元気ですが、女性にはそういう方がとても少ないのです」

また、疾患にも男女差があり、男性は脳卒中などになる方が多い一方、女性は認知症になる方が多い。理由はまだはっきりはしていないが、食べ物が貧弱になる、社会と接触しない、感情を出さずにストレスがたまる、といったことが原因と言われている。

根治できないとも言われている認知症とどう付き合うか

女性に多い認知症の中でも、最も多いのはアルツハイマー病。治療薬の開発が進められているものの、今のところ成果は出ていないそう。ただし、認知症の中でもアルツハイマー病以外なら治るケースもあるので、まずはしっかりと検査することが大切だ。

「ただし、アルツハイマー病になっても『人生おしまい』ではありません。実は、『Purpose of Life(=生きがい)』のある人は、脳の状態が悪化しても症状が出ていないということがあるのです。つまり、進行しても生活にあまり影響の出ない方法があるようなのです」

生きがいに加えて、社会との接点も大事だという。社会参加(地域組織への参加)のある人とない人では、認知症の発症率が男性で2.19倍、女性は1.74倍となっている。社会参加しなくなると、話さなくなり口の機能が衰え、食べるのがままならなくなり栄養状態が悪くなる。また、精神や心理状態、身体活動も衰えるという悪循環に陥るからだと考えられている。

社会との接点を考えると「孤食」もキーワードに。興味深いのは、誰かと同居していても、一人で食事をとっていると死亡リスクが上がること。なんと、一人暮らしで孤食をしているひとよりも高いことがわかっている。

認知症は、周囲のケアによって症状を緩和できることも紹介された。これは、親が認知症になったときのために覚えておきたい。

ユマニチュード(フランス語で、人間らしさ)という理論で、『見つめること』『話しかけること』『触れること』『立たせること』を心がけるといいという。このようなコミュニケーションをとることで、自分が尊重されていると感じることができ、「不安・抑うつ」「物盗られ妄想」「介護拒否」といった、周辺症状と呼ばれる症状が発生しにくい。

その他、暮らしの中でできる工夫や、目や耳が衰えても暮らしやすい自宅のデザイン、生活リズムの大切さなど、認知症との具体的な付き合い方が数多く紹介された。

これからの高齢者はどうなるか?

現代の高齢者の体力は、同じ年齢でも昔より5~10年ほど若返っているという。つまり、同じ65歳でも、昔の65歳よりも体力・運動能力が上がっているのだ。また、PCやスマートフォンも使えるようになるので、貯金や年金は減るものの、衰えたものをITで補えるのではないかという展望もある。

「幸せな老後をデザインするためには、リタイアする前の準備が大事です」と大石さんは言う。

「男性は特に、仕事がなくなると、圧倒的にテレビの時間が長くなります。これでは、体力がなくなって認知症にもなりやすい。リタイアする前に、リタイア後のことを考えましょう。また、仕事をしているほうが生きがいを感じやすいというデータもあります。認知症の方を含む高齢者の方が働ける環境も増えてきています」

最後に、これからの長い老後のために、まずやるべき5つのことが紹介された。

1 自分で決める
2 知識を持ち、実践する
3 社会との接点を持ち、積極的に生きる
4 家族以外のつながりやリソースを持つ
5 準備はリタイア前から!

今回の講演の内容は、大石さんの著書『「幸せな老後」を自分でデザインするためのデータブック』にも詳しく書かれている。これらを、両親をはじめとする家族に伝えたり、自分自身でも気を付けたりして、老後を幸せに暮らしたいものだ。

ライター:栃尾 江美(とちお えみ)
カメラマン:坂脇 卓也(さかわき たくや)

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