立ち姿が美しい。スッと伸びた背中、ポーズの一つひとつに優雅さを感じ、どの角度から見ても姿勢が整う。この姿勢の原点はどこにあるのだろう。「日本舞踊の影響でしょうか。気持ちがシャンとしていると、自然と姿勢にも表れるような気がします」——そう笑顔で語る山内加奈子(38)さんは、日本舞踊の師匠でもある義母と、清元の三味線演奏家の夫、2歳半で舞台デビューした現在8歳の娘、そして自らも日本舞踊の師範という古典芸能一家の中に身をおいている。元々は銀行員で、結婚を機に一時は日本舞踊の仕事に専念した山内さんだが、今年の5月から派遣スタッフとして東邦大学でも働いている。自宅に教室があるのになぜだろうか。

踊ることって楽しい!

日本舞踊をはじめたのは小学2年生のとき。「女の子が生まれたら古典芸能の習い事をさせたい」と祖母からの勧めだった。「教室に通ってみると、表現することの楽しさにどんどん熱中して、一時は宝塚を目指すところまで考えました。身長が150㎝と小柄だったこともあり、結局受験は断念しましたが」と語る。

その後中学2年生まで稽古は続けたが、子どもの頃に教わっていた師匠が闘病中だったこともあり、一旦日本舞踊を離れた。しかし踊ることへの情熱が薄れることはなく、社交ダンスやクラッシックバレエなど“踊る”ことはずっと続けてきた。

22歳のときに日本舞踊への思いが再燃し、古典芸能の世界に戻ることに。

「これからの未来の子どもたちに日本舞踊を伝えていきたい、そのためにまずは師範を取得しなければと思ったのがきっかけです」

古典芸能家庭で私はやっていけるのだろうか

日本舞踊の復活は結婚にも繋がった。師匠の息子さんと発表会などで顔を合わせているうちに縁があり結婚へ。古典芸能の家に嫁ぐこととなる。

「はじめは正直不安もありましたね。私自身一般のサラリーマン家庭で育っていますし、日本舞踊をやっていたとはいえ、趣味の習い事でやっていた程度です。私がここでやっていけるのだろうかと。
また、師匠は手取り足取り教えるタイプではなく、背中で伝える方です。ただ、“アンテナを立てなさい”とアドバイスを受け、今自分が何をすべきか見よう見まねで覚えようと必死でした。師匠が書き残している資料を見てヒントを得たり、先回りして動いてみたり。そもそも、今でこそ着物の着付け時間は10分程度ですが、当時は1時間くらい掛かる状態でスタートしたんです」

山内さんが行う日本舞踊の仕事は多岐にわたる。「踊りを教室で教えることはもちろん、舞台があれば200以上のお弁当やお茶の手配、プログラムや演目説明の作成、演者さんとの説明や伝達事項などがあります。礼状を書くことも多いですが、当初は筆ペンに慣れず、一生懸命練習しました(笑)」

忙しく聞こえるが、話す姿はとても楽しそう。そんな山内さんにとって、日本舞踊の魅力はなんだろう。

「演目ごとに決められた役柄になりきれるのが魅力ですね。踊りはじめると“無”の世界に入るんです。舞台に出ているときは自分の時間を頂いていると思っていますし、最後に緞帳が下がりきった瞬間は安堵感と共に、ものすごく達成感があります」

視野を広げるために敢えて外で働くことに

現在は日本舞踊の仕事と両立しながら、東邦大学で秘書アシスタントとして働いている。

「娘が小学2年生になり、少し手が掛からなくなってきたことと、家の中でのお稽古だけでは世の中の流れに疎くなりそうな気がしたんです。外に出て色々な人の話を聞くことによって、自分の考えに固執せず視野を広げたいとも思いました。色々な経験を身につけて、最終的には師匠や稽古場にも貢献できるようにしたいですね」

やはりベースには日本舞踊があるようだ。約10年ぶりに会社で働くことも、学びが多く充実しているという。

「職場の方々も優しくしていただいてありがたいです。外での刺激を受け、新鮮な気持ちを家庭や日本舞踊にも取り入れられていますね」

未来の子どもたちに日本舞踊を伝えていきたい

山内さんにとって自分らしさとはなんだろう。

「子どもたちに踊りを教えているときや、自分自身が踊っている瞬間でしょうか。自分の子ども時代と重ね合わせながら、日本舞踊の楽しさを伝えることが出来ているのかなと思っています。また、たとえば子どもが教室に来たときに、今日は元気が無さそうだなって思うような日でも、帰りには笑顔になって、“今日も楽しかった!”と帰っていく姿をみると嬉しいですね。また、私自身が踊ることが好きなので、踊っている瞬間は自分らしさを感じます」

“和”のこころを大切にしたいという山内さん。今後はSNSでの発信も積極的に行いながら、古典芸能の素晴らしさをどんどん伝えていきたいと目を輝かせた。

日本舞踊の必需品は、長年愛用するものばかり

手ぬぐいは師範名披露目で京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)という演目で踊った際に作ったもの。山内さんの芸名も入れてもらったオリジナルだ。

CDではなくあえてカセットレコーダーを愛用。CDだと稽古したいところがすぐに出ないことがあるが、このカセットレコーダーはカウント付き。今は生産していない、かなり貴重なもの。15、6年愛用している。

扇子は日本舞踊では必須アイテム。紫と緑の2色があるそう。師匠から頂いた扇子入れで持ち歩き、稽古のときはかならず使っている。

手先を綺麗に見せるためにハンドクリームも欠かさない。「特にこれからの季節は重宝します」

ライター:松永 怜(まつなが れい)
カメラマン:坂脇 卓也(さかわき たくや)

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