約10年前、営業職を経て、「テレコミュニケーター」という仕事に出合った深山美佳さん(57)。現在派遣スタッフとして週3日、商品申込受付のオペレーターを務める。「見えないお客様相手なので無意識のうちに緊張しているのかもしれません。家に帰ると『ああ、疲れたー』と思わず声に出ちゃうんです」と苦笑い。その一方で、「1日でも長くこの仕事を続けていきたい。この仕事が大好きなんです」と瞳を輝かせる。深山さんに、心の内を聞いた。

自己最高記録は、1日218本の受電

24時間放送するテレビショッピングのオペレーターとして、1日約160~180本の受注電話に対応しているという深山さん。

通話時間の目標値は1本あたり118秒。2分弱の間に、相手の住所や電話番号、注文内容、支払方法などを聞き取り、パソコンにデータを入力しなければならない計算だ。洋服の注文ともなると、サイズや色など迷いながら電話してくる人もいて、スムーズに会話が進まないことも。目標タイムをオーバーしたからといってペナルティはないが、長引くとSV(スーパーバイザー)のチェックが入ることもあるという。

「私はもともと相手の話を聞いてしまうタイプで、どうしても電話が長くなってしまって……。厳しい女性のSVさんに、『あなたの場合、そこがいいところでもあるのだけれど、それだと目標を切るのは難しいわね』とガツンと言われたこともあります」

SVから提案されたのは、モニターに表示される通話時間を毎回記録しておくこと。指摘された直後は落ち込んだが、アドバイスに従って時間を意識するようにしたところ、目標をクリアできるようになってきた。つい先日は、自己最高記録を達成。1日で218本の電話を受けたというから驚きだ。

「あなた、すごいわねって、SVさんに褒められました。大人になって褒められることって、そうそうないじゃないですか。うれしかったですよ。厳しいけれど教育がしっかりしていて、できなかったことができるようになっていると自分でも感じられるので、やりがいがあります」

電話の向こうの相手に寄り添う

指に光るモダンなデザインのリング。「素敵ですね」と言うと、「ありがとうございます!これも就業先の商品です」と弾んだ声が返ってきた。

「私自身、買い物が大好きなんです。就業先の商品の一番のファンかもしれません。社員さんが商品について、『教えて』と聞きに来るくらい(笑)」

注文した商品が届くまでのワクワク感や、パッケージを開けた瞬間の喜びが、人一倍理解できる。だからこそ、電話越しでも、できるだけ相手に楽しい気分を味わってもらいたいと思う。

「とくに、ご高齢で外出がままならないような方にとっては、大切なお買い物時間だと思うので、タイムは気にしつつも、明るい対応で、しっかり耳を傾けるようにしています」

たまったストレスは、トイレで「流れてしまえー!」

私用で他社のコールセンターに問い合わせるときも、相手の対応が素晴らしいと、仕事の参考にと、つい気になってしまうとか。「とにかく仕事が楽しい。いまは、1日でも、1週間でも、『来るな』と言われるまで、長く続けていきたいと思っています」という深山さん。

理不尽なクレームにひたすら謝り続けねばならないようなときは気分が鬱々するが、「そんな電話の後は、『ちょっと流してきまーす』って、トイレに立つんです」とにっこり。

「トイレに流せるようになったのは、結構最近。もともとは負の感情を引きずるタイプだったのですが、10年間この仕事を続けてきて、少し性格が変わってきましたね。まあ、年とって慣れたというか、ずうずうしくなってきたんでしょうか」

タフになったと同時に、自分が発する言葉にも気を遣うようになったそうだ。

「対面であれば表情やしぐさとかでカバーできますが、電話では言葉がすべて。自分が言われて傷つくような言葉は、ほかの人に対しても使わないようになりました」

ゴスペルとの出合いで、人生が豊かに

仕事に打ち込むかたわら、深山さんは、3年前、「これがないと生きていけない」と言うほどのめり込める世界を見つけた。それが、ゴスペルだ。

「当時、老人性うつを患っていた母から、しょっちゅう『すぐに来てちょうだい』と電話がかかってきていたんです。私のほうがおかしくなりそうでした。自分も用事をつくれば断る理由になる。いろいろ探してたどりついたのが、カルチャーセンターのゴスペル教室でした」

高層ビルの最上階というロケーションも素晴らしかったが、何より仲間にも恵まれ、ストレスから解放されるような気がした。

「ステージに立ったり、CDの収録に参加したりと、普通ではできないような体験も。ネットワークがどんどん広がって外国の方と交流する機会も多く、ゴスペルに人生を豊かにしてもらっているような感じですね」

一時は、母の言葉一つひとつにいらだっていた深山さんだったが、ゴスペルを歌うようになって気持ちにも余裕が生まれ、落ち着いて接することができるように。いまも少なくとも週1回は実家に顔を出し、通院の付き添いなど何かと頼りにされているという。

「幸い、母も相性のよいデイサービスに通うようになって調子がいいんです。『娘がいてよかったわ』なんて、のんきに言っていますよ」

週3日の大好きなテレコミュニケーターの仕事、老親の介護、そしてゴスペル。3つをバランスよくコーディネイトし、仲間や家族との関係を上手に紡ぎながら、深山さんは成長する自分を楽しんでいる。

仕事も趣味も「のど」頼みだから、ケアアイテムが必携

仕事でもゴスペルでも、のどを酷使するから、のど飴が欠かせない。友人にすすめられた甜茶(てんちゃ)飴をネットで箱買いし、常に持ち歩いている。

「いいものを教えてもらったと感謝です。たて続けに電話をとっていると、声がかすれて出にくくなったりするのですが、この飴でなんとかなっている。両頬にリスのように飴を2個入れ、そのまま話したりもします」

マイボトルも必需品。保温、保冷のどちらの機能も優秀な「サーモスの水筒」を、15、6年愛用している。暖かい日は冷たいお茶を入れて。冬場はコーヒーが多い。もう1本大きいサイズも持っていて、夏場は2本使いしている。

移動時間のBGMは、やっぱりゴスペル。レッスンの音源やゴスペル界のカリスマ、カーク・フランクリンの曲などを常に聴いている。

ライター:高山 ゆみこ(たかやま ゆみこ)
カメラマン:刑部 友康(おさかべ ともやす)

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