TOEIC980点の英語力を活かし、現在ゲームソフトの翻訳や外国人スタッフのコーディネート業務に携わるラデルウト万亀子さん(50)。「通勤していたときより長く働いているかも」という在宅勤務の一方で励んでいるのが、中小企業診断士、司法予備試験などさまざまな資格取得のための勉強だ。「私の経験や知識が、社会のなかで立ち止まったり悩んだりしている女性の役に立てればうれしい」と夢を語るラデルウトさん。その言葉の奥にある思いをきく。
*今回はオンラインで取材を行いました
*掲載しているお写真は、ご本人より提供いただきました
大阪人は、語学習得が早い!?
「学生時代、英語はまったく話せなかったし、むしろ大っ嫌いな科目だった」というラデルウトさん。一度社会人になってから旅行で何度か海外を訪ねるうちに、「現地でもっとコミュニケーションをとりたい」と思うようになり、24歳で語学学校に通い始めた。
入学したときは一番下のクラスだったが、外国人教師や一緒に学ぶ仲間たちとのやりとりが楽しくて、ラウンジに毎日通い詰めるうち、1年たった頃には日常の意思疎通に困らないレベルにまで上達していたという。
「書き勉強なんかしたこともなかったんですけどね。私大阪人なんで、すごい“しゃべり”なんです。しゃべりたいのに英語では何もしゃべれない。『しゃべりたい』『しゃべらなあかん』って一心で、うまくなったような気がします。大阪人は、語学習得が早いらしいですよ(笑)」
底抜けの楽天家。浮いても「気にしない」
25歳でカナダに留学。学校に通う傍ら、日本人観光客向けのバスガイドとしても働いた。
「周りから『変わっている人』って言われなかったのは生まれて初めてでした。向こうの友人に『日本では変わっているって言われんねん』と言ったら『どこが?』って返されました」とおかしそうに笑うラデルウトさん。
実は、海外に「飛び出した」理由のひとつには、「周りと合わせないといけない」「普通でないといけない」というような日本社会に根強く残る空気感への抵抗があったのだという。
「私、ちっちゃい頃からはみ出していたんです。いわゆる問題児。姉が、私のことで先生と話をしに何度も学校へ行ったと言っていました。学校では、みんな同じじゃなきゃだめ。何かあったら連帯責任。私はちょっとそのあたりズレていて、人と違っていても気にしなかった。小学校3、4年生くらいから男の子とばかり遊んでいたら女子に嫌われて、中学に入っても女子からは無視されていました」
さぞきつかったのではと言葉に詰まっていると、「でも私ね、底抜けの楽天家なんです。だから全然落ち込まなかったですよ」とさらっと言う。
「いつも母親からは、『あなたらしく生きなさい』『自分の責任のとれることなら何でもやってみなさい』って言われていたんです。ちっちゃい子どもに責任てなんだろって感じですが(笑)。周りから浮いちゃっても、自分が悪いなんて自己否定の方向に気持ちが動かなかったのは、その言葉のおかげかもしれません。母は私が20歳の頃に亡くなったのですが、もっと話をしたかったなと思います」
夫のリタイアを待たず、単身帰国
3年後にいったん帰国したものの、カナダ人男性と結婚し、30代から40代にかけてカナダで専業主婦として過ごしたラデルウトさん。日本に戻ってきたのは44歳のときだった。
「7歳上の夫は日本好きで、いずれは日本で暮したいと言っていました。それで帰国してからもスムーズに働けるようにと、向こうで中小企業診断士の資格取得を目指すことにしたのですが……」
いざ勉強を始め、日本で働くことをリアルにイメージし始めると、夫のリタイア後に日本に帰って、果たして受け入れてくれる職場があるのだろうかとだんだん不安になってしまったという。
「高卒、40代、10年以上のブランク。自分のプロフィールを考えたら、いますぐ戻って仕事を探したほうがいいんじゃないかと。日本に帰りたいという気持ちが募っていた頃、ちょうどいろいろありまして、一人で帰ることを決意しました」
帰国後は、「唯一の武器」という英語力を活かした業務に携わりながら、カナダ時代に始めた中小企業診断士の勉強を再開。さらに情報処理や法律の分野にも興味が湧き、仕事と並行してそれらの資格取得にもチャレンジしてきた。
経験や知識を活かし、女性の「らしさ」を応援したい
50歳になったラデルウトさんが、いま漠然と描いている夢は、女性が「自分らしく」生きることをサポートするビジネス。日本とカナダ、2つの社会を経験し、まだまだ日本の社会には、女性がのびのびと生きることを妨げる壁があると感じるからだ。
「何かあると『悪いのは自分』って思ってしまう方が多い。自尊心を保ちづらく仕向けられてしまっているように感じます。それは違う、そんなことないんだよって伝えたいんです」と言葉に力を込めるラデルウトさん。
これまでの経験や資格取得の勉強のなかで蓄えてきた多くの知識、もちろん英語力も含め、自分の能力やスキルを総動員して、何かかたちにしたいと考えているという。
「ちょっと立ち止まっている方や悩んでいる方の気持ちを少しでも楽にできるような、くすっと笑ってもらえるようなお手伝いがしたい。本を書くでもいいし、セミナーを開くでもいい。町の相談所みたいなのを開いてもいいと思っています」
照れ隠しか、「思っているだけなら誰でもできるって」とひとりノリツッコミしながらも、その表情には揺るぎがない。
母の言葉を生きる軸に据え、いつでも自分の気持ちに正直に向き合ってきたラデルウトさん。「言い訳したくなるときもあるけれど、それは嫌。いくつになっても、自分の責任において、好きなことに没頭できる生き方を貫きたいですね」と、晴れやかな笑顔をみせた。
勉強は「趣味」。「可愛い」文房具に囲まれて
徹底したインドア派で、休日も家で本を読んでいるか資格試験に向けての勉強をしているというラデルウトさん。勉強に関しては、平日も就業前に2~3時間、終業後に1時間半、ときには昼休みもテキストを開いているというから驚く。
「在宅勤務は勉強がはかどって好都合なんです。もはや趣味ですね。何かのきっかけで好奇心が芽生えたら、勉強することでそれが解明されていくことが楽しい。何千円かの本を買ってきたらいいんだから、すごくお得ですよね。その代わり、深みにどんどんはまっていって大変なんですけど」
愛用品は、勉強に欠かせない文房具。それも、可愛いもの、綺麗なものが大好きだ。とくに「和」系のデザインには目がない。「可愛いものを使っていると、気持ちもハッピーになるし勉強もはかどるんです」
新しいノートには、いま頭のなかにあるアイディアや夢を書き出す予定。「もやもやと思っていることは目に見えるかたちにしたほうがいいって聞いて、やってみようかと思っています」
ライター:高山 ゆみこ(たかやま ゆみこ)