
テレビカメラマンとして活動していた超多忙な生活から一転、専業主夫になり子育ての道へと進んでいった和田憲明さん(48)。現在は、親子あそびの講師や子ども向けマジックなど「マジックパパ」として活動している。「組織で働くのは向いていない」という和田さんが、自分の道を見つけるまでの紆余曲折をうかがった。
*今回はオンラインで取材を行いました
*掲載しているお写真は、ご本人より提供いただきました

テレビの報道カメラマンだったが、娘の誕生から育児に専念
テレビ番組のカメラマンやビデオエンジニアをしていたという和田さん。子どもを授かったときには、報道や中継の仕事で出ずっぱりで、妊娠中の妻のそばにいられなかった。そのことから、産後も子どもと関わるイメージが持てなかったと言う。
「妻は看護師で、産後もこれまでと同じように働きたいという意思を持っていました。一方で僕の仕事は、体力的にきついのはもちろん、大きな事件の現場などは数百人の報道陣が集まり、自分が数百分の1のコマでしかない気がしていました。子どもとの時間も取れないし、体育会系の人間関係も含めて仕事に疑問を感じていたころでもあって、『子育てをしたいな』と思うようになりました。そこで妻に恐る恐る『仕事辞めて子育てしていい?』と聞いてみたんです」
一瞬驚いた妻も、少し考えると「ありかもしれない」との意見。妻が半年の育休を取得したあとに、和田さんは専業主夫となり、育児に専念することになる。
その半年後から、子どもを保育園に預けながらアルバイト。当時は、パパが保育園の送り迎えをしているのは珍しいためかママ友に声をかけてもらい、他の子どもと遊ぶ機会も多かった。
「『子どもが好きだな』と思うようになり、通信講座で保育士の資格を取りました。そのあとに自治体で運営している子育て支援に登録に行きました。その後、ファミリーサポートのコーディネーターに欠員があったときに声をかけていただき、少しの間、コーディネーターとしても働いていたんです」
ファザーリング・ジャパンで講演や講座を受け持つように
子どもに関わることが増えてきたころ、テレビで知ったのをきっかけにNPO法人ファザーリング・ジャパンの「子育てパパ力検定」を受験。成績上位5%に入れたことや、ファザーリング・ジャパンのミッションにも共感し、入会することに。
「その後、関西支部ができ、事務局の代表になりました。講演やセミナーなどを受け持つようになり、お父さん向けの子育て連続講座なども担当していました」
そんなころ、幼稚園での講師の声掛けがあった。英語教育を主とする幼稚園で、週に一度の日本語クラスの講師。ひらがなの読み書きや日本文化、折り紙なども教えた。
「そのあとに人づてでチャレンジの機会をいただいたのは、小規模保育園の園長でした。人間関係など大変なこともありましたが、1年2ヶ月ほど続け、その後また、別の園の副園長を務めました」
子どもたちはとてもかわいいものの、運営側と職員とのやり取りなどに苦労しつつ保育園現場は2年務めた。
子ども向けのマジックで起業を
その後の働き方を模索して、ファザーリング・ジャパンのメンバーにも相談。和田さんは、ファザーリング・ジャパンで「マジックパパ」というニックネームでマジックを得意としていたため、子ども向けにショーや遊びを教える仕事をしてはどうか、とアドバイスを受ける。
「マジックは小学生のころに興味を持ちました。高校生のときからカードマジックを本格的に練習し始めましたが、披露する場がないまま。長女が保育園の1歳児クラスになったときに行事の担当になり、マジックをやろうと思い至ります。ところが子ども向けのマジックは全く知らないので、そこから必死に勉強しました。でもそれが、今の役に立っています」
2人の娘が保育園を卒園するまで、和田さんのマジックは毎年の恒例となった。「今思えば、最初はすごく下手だった」と感じるほど、年々腕を磨いてきた。
起業のタイミングは、ちょうどファザーリング・ジャパンの事業転換の時期。そのため、ファザーリング・ジャパンで受けていた仕事と競合することなく、行政からの依頼を中心に、子ども向けのイベントに呼ばれることが多くなる。
「今はコロナでイベントが減っているので、他の仕事も並行してやっています。今後は、マジックパパの不思議遊びとして、ショーというかたちでのイベントを増やしていきたい。他のショーと違って、マジックは『魔法のような不思議』が目の前で起こります。子どもにとって特別な体験になると思っているんです」
マジックショーを幼稚園や保育園のイベントとして広めていきたい、という和田さん。「未就学児くらいの子どもとの触れ合いが得意」という特性を活かし、活動の場を広げていく。
いつも持ち歩いているマジックのグッズ
いつも持ち歩いているのは、小さなトランプとペットボトルのキャップ。キャップは、消したり出したりと、ちょっとしたマジックに便利なのだそう。小さな子どもなら、この2つがあればたいてい楽しませられるのだとか。
巨大サイズのトランプも持っていて、マジックショーでよく使う。子どもが小さいときにはこのトランプを部屋中に広げて「7ならべ」をしていたのだそう。
他に、機動戦士ガンダムの自作カバーを付けた電子書籍と、カバーをかけたノート、エクアドル土産にもらったラマのボールペンを持ち歩く。ノートにはさまざまなアイデアやメモを書きこみ、スマホなどにはメモしない。
ライター:栃尾 江美(とちお えみ)