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【連載】第4回 田中淳子の「人と話すのが苦手だ」と思ったら読むコラム

第4回 「相手視線」で説明すること

今回は、人材教育コンサルタント/産業カウンセラー/キャリアコンサルタント田中淳子さんの「対人力養成講座」第4回です。「今すぐできるけど、一生役立つ力」がつくための講義をお届けしますのでどうぞお見逃しなく。

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【講 師】
人材教育コンサルタント/産業カウンセラー/国家資格キャリアコンサルタント 田中淳子

コンピュータメーカー勤務を経て、1996年よりグローバルナレッジネットワークで、ITエンジニア向けヒューマンスキル研修プログラムを開発、実施。著書に『ITエンジニアとして生き残るための「対人力」の高め方』『現場で実践!若手を育てる47のテクニック』など多数。

顧客から「業務の一部をIT化したい」という相談を受け、開発を請け負う予定のIT企業が顧客先を訪問し、打ち合わせが行われた。顧客企業側からは情報システム部門のエンジニアに加え、該当業務を行う部門のメンバーも参加した。

初回は、全員で意識合わせをすることを目的としていた。「どんな業務をどのように効率化したいか。どういった部分をIT化するか」という全体像を話す予定だった。

しかし、いざ会議となると、社内情報システムのエンジニアが「●●をするなら、××技術を使えばいいのではないか」「××技術でできることはここまでだから、追加で□□も検討したほうがいいかも」ともっぱら技術論になってしまった。開発を請け負う企業のITエンジニアが会議を仕切るはずだったのだが、このやり取りを上手にまとめることができず、会議がたいそう混乱したそうだ。

この話を業務の担当者から聴いたとき、その情景が手に取るようにわかった。

会議の問題点は何だったのか

業務を行う人は、技術ではなく、自分の業務そのものからものごとを考える。自分の業務が現在どうなっていて、今後どうなると便利か、どういう状態になれば仕事しやすいのか、といったことに関心があるのだ。現場の人にとって、業務を改善する過程でどんな技術を使うかについてはさほど重要ではない。一方で、エンジニアは「業務」ではなく、「技術」や「ソリューション」から話をしてしまうということがよくある。

「技術者視点」、つまり「自分視点」なのだ。

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相手が思わず質問してしまう説明の秘策は「相手視点」

別の例だ。あるエンジニアは、20XX年度の部門の重点目標として、自社のパッケージソフトの導入件数を増やすというミッションを持っていた。彼が顧客向けにプレゼンするのを聴いて欲しいと依頼され、リハーサルに立ち会った。最初から最後までエンジニア視点で話すため、このままでは折角よい提案をしても、ユーザの心に刺さらないと思った。

彼のプレゼンは「弊社の●●というパッケージソフトには、こういう機能があって、あんなことやこんなことができます。凄いでしょう?」というストーリー展開なのだ。あくまでもそのソフトが「できること」を一生懸命訴えている。

そこで、「相手視点」つまりは「お客様視点」で話してみてはどうでしょう?とアドバイスし、プレゼンを練り直してもらった。

「お客様が現在困っているのは、情報が一元管理されていないことが原因で、一つのことをするのに何ステップも必要になる点と、そして、ベテランになればなるほど効率よく作業ができるが、新しい人は作業を覚えるのにとても時間がかかってしまうという点ですよね。ご希望は、情報は一元化し、操作も簡便になり、誰でもすぐ業務を覚えられ、仕事を属人化させたくないという理解で合っていますか?となると、弊社の●●というパッケージソフトがお客様の要望にちょうど合っていると思うのです」

いかがだろうか。こんな風に、聴き手(相手)視点で話せば、聴き手に受け入れられやすい。「そのソフト、どういうものですか?もっと詳しく教えてください」と聴き手から質問が来るだろう。

自分の持っているものを自分視点で話すのではなく、相手が欲しているものを整理してから、そのことに対して私たちはお手伝いができますよ、と説明するのである。

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相手が何を知りたくて質問しているのかを考えてみる

この流れはシステム導入後でも同じだ。

ユーザから「このエラーメッセージがよく画面に出てくるんだけど、これ、なんでしょう?」と質問され、「あ、気にしなくて大丈夫です。エラーじゃないですから」と答えたことで、ユーザから大目玉をくらったエンジニアがいた。

ユーザは、画面に出てくるメッセージが「エラーかどうか」を知りたいわけではなく、たびたび画面に表示されるメッセージが気になっているのだ。

だから、ここは、「気にしなくていいです」ではなく、そのメッセージの意味を説明すべき場面である。「これはバックグラウンドで作業が完了しました、ということを通知しているもので、エラーではないですよ」「バックグラウンドというのは、どういうことかというと…」と相手が気になっていることに対して、できるだけ平易な言葉で説明する。

専門用語を使わずに説明できればそれに越したことはないが、どうしても専門用語を使わざるを得ない場合は、言葉の定義、用語の解説をすることも必要だ。人は、説明の中に自分が理解できない用語が出てきただけで、説明全体が理解できなくなる。場合によっては、イラっとしてしまうこともある。相手にわかる言葉遣いを常に心がけるに越したことはない。

なお、上記のような場面で、エンジニアから「仕様ですから」と答えられ、ユーザががっかりしたという話も時々聴く。「仕様です」というのはあくまでも技術者視点での説明だ。

ユーザは、「仕様だからなんなのか」ということが知りたい。「仕様だとしても、どういう理由でそういう仕様になっているのか。その仕様は変更することはできるのか」といったことに関心がある。そういう相手の思いを汲み取って、相手視点で説明することが大事だ。

今回は、「説明すること」について解説した。自分が言いたいことをそのまま話すだけでは、「説明」にならない。相手の前提知識や状況に応じて、相手が望むことを把握し、それに合わせた説明をすることがポイントである。

(編集後記)
仕事のみならず、コミュニケーションを取る場面では、無意識に自分の知識の中から言葉を探して説明してしまい、相手がその言葉を理解できないという場面がよく起こります。説明の度に「相手視点」になることは、普段から意識しなければなかなか難しいことですので、早速練習してみましょう。次回は再び聴き手に焦点をあてていきます。どうぞ、お楽しみに。