株式会社リクルートスタッフィングが運営するITSTAFFINGでは、弊社に派遣登録いただいている皆さまのスキル向上を支援するイベントを、定期的に開催しています。
6月30日に開催したイベントは、「次世代のITインフラを支えるエンジニアとは」というタイトルでグローバルナレッジネットワーク株式会社の神田直也さんをお迎えし、ITインフラエンジニアとしてこれから求められるスキルをつぶさに解説してもらいました。
■今回のイベントの見どころは
・スペシャリストと呼ばれる「I型人材」では足りない
・仮想化を実装するには「T型人材」が必要となる
・「クラウドファースト」の時代には「Π(パイ)型人材」が求められる
ネットワークを専門とするインフラエンジニアだった神田さん。自らの経験も踏まえて、これからのエンジニアは専門領域に特化するだけでは足りないと解説します。これからを支えるエンジニアになるために、進むべき方向はどこなのでしょうか。

▲【講 師】グローバルナレッジネットワーク株式会社 神田直也さん
現在、トレーナー/インストラクターとして、ITインフラの技術を中心とした研修を担当。前職は銀行向けのシステムを担当しており、ネットワーク技術の設計、構築を専門としていた。
大規模なシステムでは「I型人材」が求められた
まずは、旧来のITインフラ環境について解説がありました。スライドでは、インターネット接続環境から社内ネットワーク、クライアントやセキュリティまで、複雑なシステムが図解で示されました。

「システムは複雑化しており、1人のエンジニアで全部作れるわけではありません。さまざまな知識がないと、ひとつのインフラは成り立たないのです。このようなシステムの場合、インフラのエンジニアは役割分担して作業をしていました」(神田さん)
それらの担当領域は、例えば次のような種類があります。
・アプリケーションエンジニア
・データベースエンジニア
・セキュリティエンジニア
・サーバエンジニア
・ネットワークエンジニア
このうち、「データベースエンジニア」「セキュリティエンジニア」「サーバエンジニア」「ネットワークエンジニア」がまとめて「ITインフラエンジニア」と呼ばれる傾向にあります。
このような旧来型システムの場合には、担当領域が細分化されていたため、「I型人材」が求められました。特定分野のスキルに長けた専門家(スペシャリスト)と呼ばれる人材です。
「データベース関連で問題が起きたらあの人に相談しよう、サーバやWindows系ならあの人……と、それぞれの“用心棒”のような役割になります。経験が積み重ねやすく、企業としては育成の効率がよかったとも言えます。スペシャリストを育てる育成プログラムを組んでいる会社が多数ありました」

また、分野ごとの分類とは別に、開発フェーズごとのスペシャリストという考え方もあります。その場合、「企画」「設計」「構築」「運用」など、フェーズごとにスキルと経験を積むことが一般的でした。
ひとつの専門分野に加え、全体を俯瞰できる「T型人材」
仮想化というキーワードは数年前から日常的に聞かれるようになっており、すでに新しくはありません。ITインフラエンジニアには仮想化のスキルが必要になっています。

仮想化環境ではサーバとネットワークが統合されています。仮想スイッチと物理スイッチでVLAN(Virtual LAN)を揃えないと、ネットワークを接続できません。今では減っていますが少し前までは、サーバ管理者はVLANを知らず、ネットワーク管理者は仮想マシンを知らない、という状況だったのです。
「現在は、片方をまったく知らない、という人は減っています。もしわからないなら、ITインフラエンジニアとして取り残されていると言っていいでしょう」(神田さん)
仮想化という切り口で見たとき、ITインフラエンジニアの業務で次の4つが必須スキルになっていきます。
・ネットワーク
・サーバーオペレーティングシステム
・仮想化
・ストレージ

全部について「スペシャリスト」というほどのスキルを持つ必要はありませんが、全体を俯瞰してとらえ、どのように連携しているのか知っておかなくてはなりません。インフラエンジニアが全体を見るようにしなければ、あいまいな境目が抜け落ち、システムが作れない状態になってしまいます。
そこで求められるのは、少し前までの「I型人材」から「T型人材」に変わります。ひとつの専門分野と、幅広い知識を持っている人材のことで、いわゆるゼネラリストと呼ばれます。知識を持つだけでなく、それらがどう融合しているかを理解し、あるべき姿を描けることが重要です。
これからは「クラウドファースト」の時代
さらに必要なのは「クラウド」のスキルです。1年ほど前から「クラウドファースト」という言葉が使われるようになっており、システムを作る際にはクラウドの利用がすでに前提条件になりつつあります。
自社のデータセンターにサーバを立てて自前のシステムを持つことを「オンプレミス」と呼びます。オンプレミスとクラウドは、コストのかかりかたが異なります。オンプレミスは初期コストがかかり、さらに運用コストが継続してかかっていきます。対するクラウドは、初期コストはゼロあるいは安価で、使った分だけの使用コストがかかります。短期的に使うならクラウドが有利、長期的であればオンプレミスの方がコストを抑えられる可能性があります。

ケーススタディとして、次のようなシナリオを考えてみました。
・新商品販売キャンペーンのためのサイトをインターネットに公開したい。
・新商品を期待する見込み客は数千人。テレビ・ラジオなどを通じたPRも同時に行い、瞬間的にアクセス数が増加するかもしれない。
・本サイトは、新商品の基本情報を提供するとともに、キャンペーン情報や、新商品に関する追加情報を提供するブログ形式にしたい。
・サイトのコンテンツやデザインは、Webデザインの企業に発注する。サイトと、ブログサービスのインストールをしてもらいたい。
また、必要なサーバや負荷分散、監視システムなどの条件も提示されました。
ケーススタディを実際に見積もると雲泥の差に

「自社のリソースで実装すると仮定した場合、私ならネットワークのスペシャリスト、監視のスペシャリスト、データベースサーバのスペシャリストをそれぞれ1人ずつ設定します。規模はさほど大きくないので、実装は1~2週間。その後テストもあるので、3人で2週間程度といったところでしょう。工数を考えると3人で最低でも150万円。サーバ3台の100万~200万円と合わせて、ざっくり300万円程度と想定します」(神田さん)
さらには、サーバを購入するなら発注してから納品までに数週間。サーバの納期と実装を合わせて、1カ月以上はかかる計算です。
一方、クラウドの場合はどうなるのでしょうか。
「クラウドなら、データベースや仮想マシンだけでなく、ブログサービスのアプリケーションが組み込まれたものもあります。工数を見積もると、設計・構成・テストにそれぞれ1日ずつでなんと3人日。さらに運用・保守は自動化されます。クラウドの利用費用が1カ月におそらく数万~数十万円程度かかります。このように、『早く』『安く』『簡単に』最新のサービスを利用できるのがクラウドの強みです。また、使用しなくなったらすぐに捨てられるのもメリットなのです」(神田さん)

これからは「プログラミング」スキルも必要
クラウド環境は仮想化されているので、システム連携は人の手で細かい作業をするのではなく、スクリプト、つまりプログラミングで自動化するのが一般的。今後は、インフラエンジニアにもプログラミングスキルが必要とされるのです。
クラウドまでを見据えると、複数の専門分野と幅広い知識を持つ「Π(パイ)型人材」が求められます。ネットワークとプログラミングのスキルがあり、その他も幅広く知っているという「スーパーエンジニア」と言えるでしょう。
プログラミングを始めるときには、多種多様な言語から選択をしなくてはなりません。Java、C#、Python、Ruby、JavaScript、Go、Swiftなどが代表的ですが、大切なのはプログラミングの考え方を習得することです。どれかひとつを習得すれば、他の言語の習得も比較的容易にできるでしょう。さらに挑戦するなら、Π型人材にあとひとつ、ビジネス視点をもつことが期待されます。

旧来からの「I型人材」、現在求められている「T型人材」、これからのシステムを担う「Π型人材」――。求められるスキルは時代と共に移り変わりますが、この先必要となるスキルを知っておけば、学習する方向性を定められます。変化にまどわされず、自分のスキルを形作っていきたいものです。