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【イベントレポート】5年後に市場を席巻する近未来のコア・テクノロジーの進化と相互作用を理解し、未来の展望を予測する

株式会社リクルートスタッフィングが運営するITSTAFFINGでは、弊社に派遣登録いただいている皆さまのスキル向上を支援するイベントを、定期的に開催しています。

2018年11月14日のイベントでは「5年後に市場を席巻する近未来のコア・テクノロジー 技術の進化と相互作用を理解し、未来の展望を予測する」と題して、書籍『近未来のコア・テクノロジー』の著者である三津村さんを講師にお迎えし、技術進歩の著しい昨今、エンジニアが押さえておくべき「コア・テクノロジー」について解説していただきました。

■今回のイベントのポイント

・進化の核となるテクノロジーを押さえるべき理由
・ブロックチェーン
・量子コンピュータ
・テクノロジーの相互作用と社会の変化

【講師プロフィール】
三津村 直貴さん
合同会社Noteip代表。フリーライター。米国の大学でコンピューターサイエンスを専攻し、卒業後は国内の一部上場企業でIT関連製品の企画・マーケティングなどに従事。退職後はライターとして書籍や記事の執筆、WEBコンテンツの制作に関わっている。人工知能の他に科学・IT・軍事・医療関連のトピックを扱っており、研究機関・大学における研究支援活動も行っている。
著書『近未来のコア・テクノロジー』(翔泳社)『図解これだけは知っておきたいAIビジネス入門』(成美堂)、執筆協力『マンガでわかる人工知能』(池田書店)など。

進化の核となるテクノロジーを押さえるべき理由

いまや、次なる新しい技術が登場するまでのスパンが短くなっていて、鍵となる技術を追いかけるのが難しくなっています。専門分野ではないから、自分に関わりがないからと、新しい技術が登場しても、詳しい内容を知ろうとしないことも多いはず。しかし、三津村さんは「重要な核となる技術については基本だけでも押さえておくことが大切だ」と訴えます。

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▲核となる技術を押さえておけば、そこから派生する数々の技術が新たに登場した際も理解が早く、世の中のニーズをつかみやすい

エンジニアとしてのキャリアを考える際にも、これは大きく役立ちそうです。
三津村さんが解説してくださった「情報社会を変える5つのテクノロジー」は次のもの。

・ニューラルネットワーク
・データマイニング
・ブロックチェーン
・ロボティクス
・量子コンピュータ

それぞれ詳しく紹介してくださったのですが、このレポートでは、ブロックチェーン、量子コンピュータの内容をご紹介します。

ブロックチェーン

最近何かと話題に上る仮想通貨。その仮想通貨を実現するためのコア・テクノロジーとして知られているのがブロックチェーンです。

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▲ブロックチェーンは、その名の通り、ブロック化されたデータが、チェーンでつながって、保存されるという仕組み。すべての記録が残るため、データの改ざんがすぐに分かってしまうので、データの信頼性が非常に高い

ブロックチェーンの考え方は、ソフトウェア開発のバージョン管理に利用されるGitなどにも通じているそうです。

私たちが普段使っているお札や硬貨などのリアル通貨は、国が信頼性を保証してくれます。一方で、仮想通貨は、ブロックチェーン技術が信頼性を保証してくれます。

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▲仮想通貨の信頼性はブロックチェーン技術が担保している

ブロックチェーンの信頼性の根拠は、すべてのユーザーによる情報共有と多数決による信任投票により、信頼すべきデータにブロックを追加していくところにあります。

新しくデータを追加するときには“多数決による信任投票“を行います。これは、“クイズ“を計算によって解き(これをマイニングと呼びます)、解けた人がブロックを追加できるというルール。そうして一番長くなったブロックが信頼できるデータということになります。

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▲投票する権利はマイニングした人のみ。誰でも最も長くブロックが付いているデータがどれかが分かるので信頼できる

また、すべての履歴を保存しているため、データが改ざんされた場合も、他のユーザーがそれを簡単に知ることができるというのが、信頼につながっています。

仮想通貨が興味深いのは、このブロックチェーンの特性により、信頼性を保つためのインセンティブ設計が施されているところ。つまり、データを改ざんすると、仮想通貨の価値が下がってしまうため、改ざんしてまで入手する意味が無くなってしまいます。それなら、マイニングをしていたほうが良いと考えるので、信頼性が保たれています。

ブロックチェーン技術の普及により、さまざまなことが予測されています。
たとえば、ブロックチェーン技術を使って帳簿を作ると、決算や会計処理などで、数字を勝手に書き換えるといった不正ができなくなるそうです。

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▲データセンターが減るという予測は気になりますね

量子コンピュータ

量子コンピュータといっても、実は決まった定義があるわけではなく、量子特有の現象を演算に応用したものを一般にこう呼びますが、演算に利用可能な量子現象も一つではないそうです。

量子の状態は確定せず、常にゆらいでいます。粒子のようなふるまいと波のようなふるまいをするという性質を合わせ持っているのも、その一つです。重ね合わせの状態で表現された情報の最小単位を1量子ビットと呼びます。

ただし、1量子ビットあたりの情報量は、方式によって変わるため、処理できる量子ビットの数が、そのまま性能にはつながりません。

三津村さんによれば量子コンピュータは「まだ研究・開発途上にあり、特定分野で実用化されているものの、万能型の量子コンピュータは、まだ無い」とのことです。

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▲現在、研究されているものとしてゲート方式とイジング方式という2つのタイプがある。それぞれ特定の分野には適しているが、汎用的ではない

量子ゲート方式は、私たちが使っているコンピュータと考え方は似ていて、量子版の論理ゲートを利用して重ね合わせの状態を、行列で計算するというものだそうです。

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▲論理ゲートには量子用のアルゴリズムを使う必要があること、量子はコピーできないため、エラーチェックが難しいなどの課題もあるとのことです。

一方の量子イジング方式は、イジング模型と呼ばれるモデルを量子によって再現するもので、このモデルで表現可能な組み合わせ構造化問題を解決できるといいます。

ゲート方式はまだ実用化されておらず、普及しているのはイジング方式のほうだそうです。

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▲組み合わせ爆発を最小化できることで、さまざまな問題解決に利用できるものと期待されている

イジング方式では、組み合わせ爆発を最小化することができるという特長があります。たとえばコンピュータのアルゴリズムでも目にする数学問題である「巡回セールスマン問題」は、巡回する場所を1つ増やすだけで巡回パターンが指数関数的に増えてしまいます。同種の問題は世の中にも数えきれないほどあるため、イジング方式の量子コンピュータには大きな期待がかかっています。

そのほかにも、量子コンピュータの実現により期待されている分野がいくつもあります。

たとえば、情報分野での強固な暗号化、物流分野の配送ルートの最適化、材料化学分野では組み合わせによる新素材の開発、薬品分野ではタンパク質の組み合わせによる新薬の創薬、クラウド量子コンピュータの登場など、いずれも私たちの暮らしの安心や便利につながるものとなるでしょう。

テクノロジーの相互作用と社会の変化

三津村さんによれば、今回紹介してくださった5つのテクノロジーは「それぞれが単体でビジネスに使われることは、まずない」とのこと。

たとえば、ニューラルネットワークの学習データはデータマイニングによって収集されます。そして、そのデータで学習を済ませたニューラルネットワークはデータマイニングの性能向上に役立てることが可能となります。
また、IoT機器はセキュリティが弱い面がありますが、ロボティクスとブロックチェーンを組み合わせ、IoT機器のデータをブロックチェーン化することでデータの改ざんを防ぐことができます。

このように、いくつかのコア・テクノロジーが組み合わさることで価値のある技術へと進化していきます。
今回のイベントでは、これまでに何度か目や耳にしたテクノロジーもあれば、今まで聞いたこともないテクノロジーもありました。特に、量子コンピュータというものが一部とはいえ、実現しているということに驚いた、という声が多かったです。これからの技術の発展に、注目です。