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【イベントレポート】トップエンジニアが実践する思考整理法 テクニカルライティングを用いた課題解決の基本

株式会社リクルートスタッフィングが運営するITSTAFFINGでは、弊社に派遣登録いただいている皆さまのスキル向上を支援するイベントを、定期的に開催しています。

2019年4月24日のイベントでは「トップエンジニアが実践する思考整理法 テクニカルライティングを用いた課題解決の基本」と題し、エンジニアのみならず、今やあらゆる立場の人に必要とされると言っても過言ではない、テクニカルライティングの実践手法について、技術経営コンサルタントであり弁理士でもある藤田肇さんが、分かりやすく教えてくださいました。

■今回のイベントのポイント
・エンジニアが養うべき言語化能力とは何か?~テクニカルライティングの重要性
・誰もが実践できるテクニカルライティングのフレームワークを用いた思考整理法

【講師プロフィール】
藤田 肇さん
技術経営コンサルタント・弁理士。株式会社リジー 代表取締役。「人工知能 冬の時代」に機械学習・人工知能を専攻し、研究者・データサイエンティストとして活躍後、弁理士資格を取得。大手特許事務所でテクニカルライティングを習得し、AI関連企業で技術戦略・知財戦略の立案・推進に携わる。その後、技術・事業・知的財産の融合領域における専門知識を生かして独立。テクノロジー企業を中心に、技術経営・知財戦略に関するコンサルティングを提供する。朝日新聞社主催「AI FORUM 2018」、ソフトバンクC&S主催研修会、日本弁理士会主催継続研修など各種イベント・研修会の講師を多数務めるほか、「人工知能が支える先進医療」(野村ヘルスケアノート)など多数執筆。

エンジニアが養うべき言語化能力とは何か?~テクニカルライティングの重要性

藤田さんは、今でこそテクニカルライティングに関する書籍まで執筆されていますが、大学時代は、指導教官から「お前の書いた文書を読んでも何も分からない」と言われていたそうです。ところが「先生が赤を入れてくれれば、分かりやすくなるので、元の文章はそれほど悪くない」と思い込み、その後、エンジニアになってからも「自分は技術文書を書くのが上手い」と勘違いしていたそうです。

そしてエンジニアを辞め、弁理士になり特許事務所に勤務するようになってから「自分はまともな技術文書が書けていなかった」と気づいたといいます。

藤田さんは、仕事柄いろいろな特許技術者に会い、出願前に必ず説明資料をもらいます。そのうちの8割の人から受け取る資料は読んでも分からない。しかし、2割の人からは読むだけで「スゴイな」と感じる資料が出されてくるそうです。当初、藤田さんは「優れた発明ほど、資料が分かりやすい」と考えました。しかし実はそうではなく「日常的に正しくテクニカルライティングをしているから、優れた成果を出せる」ということだったのです。

そのきっかけは、年に3~4件、優れた発明を出してくるクライアントに藤田さんが「なぜ、そんなに発明を生み出せるのか?」と尋ねたところ、研究時のノートを見せてくれたことでした。そのノートには、自分は今、どんな課題に直面しているか、その課題にどうアプローチするかが、整然と書かれていて「これはスゴい」と思ったそうです。

こうした経験から藤田さんが導き出した提言が「思考を整理して課題解決するために、適切なテクニカルライティングを実践しよう」というもの。

「適切な」というのは、「オリジナリティ」と「インパクト」をきちんと浮彫にさせること。より具体的には「先行技術との差分」がオリジナリティであり、「差分の大きさ」がインパクトに相当します。

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▲オリジナリティとインパクトをきちんと浮彫にさせる

これを、ラジオを搭載した自転車の発明という例で説明してくれました。

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▲ラジオを搭載した自転車のオリジナリティとインパクトを明確化する

「でも、自分は発明をしないし……」という人は、インフラエンジニアあるいはソフトウェアエンジニアという立場で同様のケースをイメージしてみます。障害発生時の対応を上司に報告したり、新たに開発したサービスを営業部門の人たちに説明したりするシーンに置き換えて考えてみる必要があります。

誰もが実践できるテクニカルライティングのフレームワークを用いた思考整理法

ここで、藤田さんの冒頭の経験に立ち返ります。適切なテクニカルライティングについて、ほとんどの人ができていない。できていないことにも気づいてない。そこで何らかのソリューションが必要だと考えたそうです。

それが藤田さんの考案した「黄金フォーマット」です。

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▲テクニカルライティングを磨くための黄金フォーマット

このフォーマットは、2×2の4つのボックスに「背景・前提」「課題」「手段・アプローチ」「効果・結論」というテーマが付けられており、それぞれのボックスの中身を埋めていくことで、思考が整理され、適切なテクニカルライティングができるといいます。

その秘密は、それぞれのボックス間の関係にあります。藤田さんは「ボックスの内容よりも、ボックス同士の関係が大切」だと言います。先ほどのラジオ搭載自転車ならば次のようになります。

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▲ラジオ搭載自転車を黄金フォーマットに当てはめるとこうなる

ところで「なぜテクニカルライティング=思考整理」になるのでしょうか。藤田さんによれば、それは言語の構造化を強制されるからだそうです。たとえば象という生き物を知らない人に象について伝えるなら、象の紹介動画を見てもらうのが一番早い。文章は、映像に比べて情報量が少ないのです。それでも他人に理解してもらいたい。となれば、思考の本質を浮彫にするしかありません。

思考を整理するためには、記述の際に、次の点に留意しておくと良いそうです。

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▲思考を整理する際に留意しておくべき項目

ちなみに、よくあるダメなテクニカルライティングをこのフォーマットに当てはめると、次のようになるそうです。

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▲ダメなパターンを黄金フォーマットに当てはめるとこうなる

「ダメ資料は単なるエッセイに過ぎない」というのが藤田さんの考えです。しかし、なぜこうした書き方になってしまうのか。その原因は小学校時代の「読書感想文の罠」に陥っているからだと分析します。知らず知らずのうちに「思ったままに書く」「自由な書式で書く」ということに慣らされてしまっているのではないか、ということです。

そして読書感想文の罠に陥った人がやってしまいそうなことも、紹介してくださいました。

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▲読書感想文の罠に陥った人がやってしまうダメなこと

テクニカルライティングを上達させるには、繰り返し現状を把握し、ノートに書いて「見える化」することが大切だそうです。いくら思考の整理といっても、頭の中で考えているだけではダメで、整理した思考を文章化する習慣をしっかりと身につける必要があるそうです。日常の報告書作成などにも、実際にこの黄金フォーマットを試してみてはいかがでしょうか。