
近年、生成AIの技術が急速に進展し、文章や画像、音楽などさまざまなコンテンツを自動で生成できるようになりました。これに伴い、「AIが生成したコンテンツに著作権があるのか」が注目されています。
生成AIがどのように作り出しているのか、そして著作権の考え方、生成AIの学習、生成AIによるアウトプットにおける著作権について解説します。
そもそも、生成AIのしくみ
生成AIは人工知能の一分野で、学習した膨大なデータを使って、新しいコンテンツを自動的に創り出す技術を指します。代表的な例として、文章生成や画像生成、音楽生成、動画生成などがあります。
これらは過去に蓄積された膨大なデータからパターンを学習し、それをもとに新たな作品を生成しています。たとえば、文章の生成であれば、大量の文章を学習し、それを使って自然な文章を生成できます。
このとき、生成AIは入力された言語の指示に対して、人間のように意識したり理解したりしているわけではなく、あくまでもデータの統計的な特徴にもとづいて確率が高いものを選択して出力しているだけだと考えられます。
このような生成AIを使うと、新たなコンテンツをいくらでも作成できます。このとき、既存のコンテンツに似たものができる可能性があります。
AIが作成したコンテンツは「人間の創作物」ではありませんし、AIが既存のデータを学習することや生成したものについて、その著作権をどう考えるのか、という問題があるのです。
著作権の基本の考え方
文章やイラスト、音楽、プログラムなど創作したとき、それを簡単にコピーされると創作者の利益が失われてしまいます。そこで、創作者に与えられる法律上の権利として著作権があります。
著作権法には、「思想又は感情を創作的に表現したもの」と書かれており、AIで作成されたコンテンツについては、原則として著作権は認められません。
著作権には「著作財産権」と「著作者人格権」があります。著作財産権として複製権や翻案権があり、著作者人格権として公表権や氏名表示権、同一性保持権などがあります。著作財産権は土地や建物のように権利を譲渡、相続、貸与できますが、著作者人格権は一般的に譲渡が認められていません。
アイデアやデータの類似については著作権侵害にならないものの、表現が著しく類似すると侵害になります。
学習データの著作権
生成AIは大量のデータを学習して生成していることを解説しましたが、その学習に使ったデータそのものが著作権で保護されているデータの可能性があります。つまり、著作権者の許可なく、そのデータを学習に使用しているという問題です。
■個人的な使用はOK
ただし、人間が新たなことを学ぶときも、他人の著作物を参考にすることがあります。初心者がイラストを描くときにプロの絵から学ぶことはありますし、音楽を作るときにヒット曲を聴いたり演奏したりすることはあるでしょう。このように、個人的に家庭内などで使う場合は問題ありません。
■データ分析・学習目的はOK
また、2018年の著作権法の改正では、第30条の4で「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」について定められています。これにより、「感情の享受を目的としない」「著作権者の利益を不当に害しないこと」を条件に認められています。
つまり、著作物の内容を楽しむためではなく、データ分析や学習のための利用であれば、AIの学習に使うことの多くは問題ないことになります。
もちろん、上記の条件に照らし合わせて、判断が難しい場合は権利者に確認することになります。
■著作者が自ら選べるように
逆に、著作者の立場としては、著作権を柔軟に利用できるように宣言することも考えられます。たとえば「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」では、自分の作品をどのように利用してほしいかを著作権者が示し、作品の共有と利用を促進するために使われています。
このライセンスを定めているクリエイティブ・コモンズが2025年6月に発表した新しい仕組みとして、「CC Signals」があります。これは、生成AIに関する著作物の利用と透明性を高めるための仕組みで、AIによる学習利用を許可する意思を著作物の権利者が表示し、その情報をAI開発者やサービス提供者が利用できるようにするものです。
このように、AIがどの著作物を学習に使っているかを明示し、著作権侵害リスクを低減しようという動きもあります。
AIが生成したコンテンツの著作権と著作権侵害の可能性
AIが著作物を学習に使うことは認められたとしても、AIが生成したコンテンツをそのまま使うことに問題を感じることが多いでしょう。AIが学習したデータに似たコンテンツがAIによって生成される可能性があるためです。
この点については、まったく同じ内容ではなくても、似たような雰囲気のイラストなどが生成されると、既存の著作物の著作権を侵害していることになります。
■AI生成作品に著作権が認められるケース
冒頭でも述べたように、AIが自動的に生成した作品に対しては、著作権は認められません。ただし、「自動的に」というところがポイントで、AIが生成する過程で人間が創作的な工夫や表現について細かく指定していると少し状況は変わってきます。
これまでもイラストを作るときに人間が画像処理ソフトを使っているのと同じように、AIを使っても創作の過程に人間が積極的に関与しているのであれば、その指示を出した人に著作権が認められる可能性があります。つまり、AIをツールの1つだと考えると、人間の創作性が認められる可能性があります。
一方で、AIに対して「○○風に作成して」という指示をしているのであれば、その指示によって意図的に類似したコンテンツを生成していることになります。このように生成されたコンテンツは、他者の権利を侵害している可能性があることには注意が必要です。
生成AIとの付き合い方は2つ
1つは、生成AIによる出力を個人的な利用にとどめるという考え方です。個人利用であれば、似ているコンテンツを作成しても問題ないため、他人に公開することなく使えば問題はありません。
もう1つが、著作権侵害を避けて利用するという考え方です。
著作権侵害が認められるのは、他の著作物に「類似して」おり、その著作物を認識して「依拠して」いる場合です。AIが生成した作品を積極的に活用したい場合は、著作権侵害をしていないかどうかに意識的に注意を向ける必要があります。
しかし、AIが自律的に作成し、利用者がもとの内容を知らなかったのであれば、著作権侵害とは言えないでしょうが、実務的には判断が難しいグレーゾーンが生じてしまうでしょう。このように、著作権問題に気をつけたとしても、まだまだ活用には難しさがあるのが現状です。
まとめ
生成AIは創作の可能性を大きく広げる一方で、著作権制度にはまだまだ課題があります。グレーゾーンも多く、生成AIの利用者が出力内容を見て、判断しなければならないこともあるでしょう。
今後も法整備や社会的な議論が進むことが想定され、人間の創作性を尊重しつつ、AIの利活用を促進することが求められます。創作活動の未来を左右する重要なテーマであり、引き続き注目が必要です。
参考)文化庁が2024年に公開した「AIと著作権に関する考え方について」https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/pdf/94037901_01.pdf
増井技術士事務所代表。技術士(情報工学部門)。情報処理技術者試験にも多数合格。ビジネス数学検定1級。「ビジネス」×「数学」×「IT」を組み合わせ、コンピュータを「正しく」「効率よく」使うためのスキルアップ支援や、各種ソフトウェアの開発、データ分析などを行う。著書に『Pythonではじめるアルゴリズム入門』『図解まるわかり プログラミングのしくみ』『「技術書」の読書術 達人が教える選び方・読み方・情報発信&共有のコツとテクニック』、最新刊の『実務で役立つ バックアップの教科書』(翔泳社)がある。
※本記事に記載されている会社名、製品名はそれぞれ各社の商標および登録商標です。
※本稿に記載されている情報は2025年7月時点のものです。

