
うまくいかなかったことは、誰しもあまり言いたくないもの。でもそれが強さになるなら、敢えて表に出していく――。そんな潔さを持つ布井あやみさん。スピーディで理路整然とした話し方と、ダンスで磨いた女性らしさを兼ね備える。オフィスワークと、ダンスの講師の両立、その他フリーでコンサルタントとしても活躍する働き方を伺った。
仕事に没頭したあと、ダンスへの想いが再燃
布井さんは、2005年に大学を卒業したのち、人材業界へ入社。1社目は業界3本の指に入る大手グループ、その後、業界トップ企業に入社する。
「エージェントの仕事が好きでした。そんな中で、やはりトップを目指したいという思いが強くて。収入面も、お付き合いするクライアントも、上がっていく実感がありました」
布井さんの話しぶりには、自分の成長に積極的な姿勢が感じられる。理由を尋ねると「負けず嫌いもある」と前置きした上で、次のように明かしてくれた。
「私の母はシングルマザー。だからなのか、子どもの頃から母が『境遇に負けないで欲しい』と思っているのを強く感じていました。自分の志向は、母からもらったものだと思っています」
ところが、2009年のリーマンショックで所属していた事業部がなくなることに。同時期に結婚することになり、ハードワークから離れようと、退職する。
どん底だった自分に、生きる意欲を思い出させてくれたダンス
パートでゆったり働いていたころ、タヒチアンダンスに出逢う。フラダンスに似ているが、よりダイナミックで、スピード感のある動き。もともと、3歳から新体操を始め、大学までずっとさまざまなダンスを続けていたため、上達は早かった。数年で講師として独立する。
パートとダンスを続けながらも子どもが欲しいと考えた布井さんは、まだ20代から不妊治療をスタート。2年間でできる限りの手は尽くしたものの、子どもが授かることはなかった。不妊治療の精神的辛さは、よく語られることではある。布井さんの心も、例に漏れることはなかった。
「生きる自信をなくして、まさにどん底でした。でも、そんなとき『憧れのダンサーをステージでもう一度見たい、それまでは生きよう』って思えたんです。さらに『これ以下に落ちることはもうない。だから怖いものはない』と考えられ、ダンスを仕事にするという覚悟が決まりました」
ダンス講師として、本気で取り組むと腹を据えた。
ダンスとビジネスを両立したい
ただ、ダンスが上手に踊れるだけでは、差別化が難しいと考える。状況に甘んじることなく上を目指すのは、布井さんらしいところ。
「ビジネスのキャリアを活かしてそれを磨いていくことで、ダンサーと両立しているという差別化ができると考えました。能動的にキャリア構築をしていこうと、時短勤務ができる派遣という働き方を選んだんです」
客観的に自分のバリューを考える姿は、キャリアカウンセラーだった頃の知見が生きている。
まずは、新卒の人材紹介の会社でキャリアカウンセラーとして勤め、その後2017年の1月より、JapanTaxiの人事 採用担当として勤めることになる。
「前の会社は学生が相手でしたが、今の会社は中途採用がメイン。私にとっては、中途採用の方が、それぞれの多様性や深さがあって魅力的です。会社はスマートフォンアプリを開発していて、ベンチャー気質もありチャレンジできる環境です」
やりたい仕事があれば、自ら手を上げる布井さん。今の会社で、派遣スタッフではなく直接雇用の社員になることを望んでいるのだとか。
2つの道を両立する難しさ
ただ、少し頑張りすぎていると感じたこともあった。そんなときには、週5日勤務を隔週で週4にしてもらうなど、ブレーキを踏むことを忘れない。
「複数のキャリアを両立することを『パラレルキャリア』と言いますが、その時にすべてに10の力を出していてはすり切れてしまいます。7対7くらいにとどめることがポイントです」
これからは、パラレルキャリアのモデルケースとして働きたいと語る。フリーランスとしてセミナーを開催するなど、キャリアコンサルタントとしても活動しており、持っている名刺はなんと3種類。今後は2つの道ではなく、3つ、4つの道を同時に進みながら、布井さんにしか出せない価値を提供していくのだろう。
お菓子はコミュニケーションツール!
精一杯働くだけでなく、日常のリラックスも大切にしている布井さん。友だちと食事に行くといった時間を作るようにも心がけている。オフィスでも、仲間とのリラックスタイムは欠かせない。そこでコミュニケーションツールとなるのが小さなお菓子類。
「缶の中に必ずお菓子を入れておいて、欠かさないようにしています。交換し合うのが毎日の楽しみです」
また、仕事でちょっとリフレッシュしたい時などには、アロマを活用。お気に入りは「Energy」と書かれた小瓶のフレグランスオイル。サンフラワーやローズマリーなどのオイルがブレンドされている。ロールオンタイプだが、フタを開けて嗅ぐだけで気持ちがスッキリするという。
ライター:栃尾 江美(とちお えみ)
カメラマン:刑部 友康(おさかべ ともやす)