現在、一人息子を育てながら、派遣スタッフとして日本オラクル株式会社に勤務している、大屋詞子さん。元CAという経歴をもつ彼女は、やわらかい物腰と高いホスピタリティで、周囲からも高評価を受けている。しかし彼女がこれまでにたどってきた道のりは、決して平坦なものではなかった。

子どもの頃に憧れた、“空の仕事”

「本当は私、小学校の頃からパイロットになりたかったんです。あの大きな飛行機を動かすことに憧れて。地元に空港があったから、“空の仕事”がすごく身近だったんですよね」

そうにこやかに話してくれた大屋さん。しかし1990年後半、当時の日本には女性パイロットがほとんどいなかった。それでも航空関係の仕事にひかれていた彼女は、CAを目指すように――。

「初フライトのことは、今でも忘れないですね。すごく、すごくうれしくて。やっとCAになれた。ここから、私の人生がはじまるんだ、と期待で胸がいっぱいでした」

もちろん、楽しいことばかりではなかった。あらゆることを勉強しなければいけない。美しい所作も身につける必要がある。体力もなければやっていけない。顧客にもいろいろな人がいる。さまざまなトラブルにも直面する。

それでも大屋さんは、CAの仕事を極めたい、と思っていた。

実は彼女、CAとして自分に足りないことを身に付けたい一心での選択から、わざわざ一度会社を辞め、大手マスコミで働いていた時期がある。誰に何を言われたわけでもない。再びCAに戻れる保障もない。

まだ20代前半の頃。彼女のプロ意識の高さを、よく表しているエピソードの一つである。

しかしそんな大屋さんを、あるとき、大きな試練が襲うことになる。

悲しみを乗り越えて、子どものために再び前を向く

結婚・出産してからもCAを続けるのは、現実的になかなか難しい。大屋さんも誇りをもって仕事に取り組んでいたものの、ずっと働き続けることは考えていなかったそう。

「結婚して子どもを産んだあとは、幸せで温かい家庭を築くんだ、と思っていました」

数年にわたり、全力でCAの仕事をやりきった大屋さん。しかし退職して次は結婚……というまさにそのとき、婚約者を突然亡くしてしまう。それは挙式のわずか10日前。第一子を妊娠している最中の出来事だった。

悲しみ、途方にくれる間もなく、過酷な現実が彼女に一気に押し寄せる。

「泣いている場合じゃない、自分でこの子を育てていかなきゃいけない。私の命をかけて守らなきゃいけないんだと。それからはとにかく、必死でしたね」

出産後、しばらくは九州の実家で暮らしていた。しかしお子さんが5歳のとき、大屋さんは再び上京することを決める。自分が働いて、親子で生きていく。そう決断した彼女が選択したのが、派遣スタッフとして働くことだった。

子育てしながら働ける環境の会社を、自ら徹底リサーチ

フルタイムでは働けない。子育て中の女性でも働きやすい会社はどこか――? 大屋さんは徹底的なリサーチの末、ホテル業界に飛び込んだ。外資系ホテルの立ち上げメンバーとして、採用や人材開発に関わる仕事だった。

「もうCA時代に接客の仕事はやりきった、と思っていて。だからこそ、次にいくための選択をしようと思ったんです」

持ち前のプロ意識と、CA時代に培ったハイレベルなホスピタリティ。女性として、一人の母親としての目線。大屋さんは、新たな舞台で自身の力をフルに発揮していく。

もちろん、仕事を終えて家に帰ったあとや休日は、子どもとの時間を大切にしていた

「休日は、手作りのちょっとしたお弁当をもって、よく近所の公園で遊んでいます。息子が『ママの作ったものが好き』と言ってくれて、それを楽しんでくれるから、今でもそうして過ごすことが多いですね」

自分自身を救ってくれた、コーチングを広めたい

その後、大屋さんは現在の職場である日本オラクルで働きはじめた。以前の会社と同様に、決め手になったのは、働き方に対する企業のスタンスだった。

「実際に子育て中の女性も多く、とても働きやすい環境に感謝しています。業界は大きく変わり、仕事内容も秘書的な役割になりましたが、これまで経験してきたことを、すべて活かせていると感じます」

大屋さんの息子は今年、9歳になった。すくすくと育つ彼を見守りながら、また自身の仕事にも真摯に向き合いながら、彼女は次のチャレンジに目を向けはじめている。

「実は1年前から、コミュニケーション技法であるコーチングの勉強をはじめたんです。今まで必死すぎて気づきませんでしたが、私がここまでやってこれたのは、何があってもこの子を育てていくという目的があったから。それはコーチングの考え方に通じるんですよね」

一つひとつのことを追求する姿勢は、ここでも変わらない。大屋さんは仕事のかたわら、自らコーチとしての活動を本格的に行うようになった。

コーチングは、日本ではまだそこまで普及しているとはいえない。しかし大屋さんは自身が救われた経験から、それをもっと広めたいと思っているのだそう。

「コーチングによって、あらゆるコミュニケーションが根本から変わるんですよ。自分との対話も、家族や周りの人との接し方もそう。それによって、きっと人生が好転していくはず。そういう人が増えていけば、社会ももっとよくなるんじゃないかと思うんです」

どんなときも視座を高く持ち、自分自身で人生を選択していく。そんなしなやかな強さを持った彼女なら、その目標を叶える未来も、そう遠くないはずだ。

ちょっとしたシーンでも「おもてなし」の心を忘れずに

かなりのメモ魔だという大屋さん。試行錯誤の結果、バインダーに挟んだA4サイズのメモ用紙を使い、順番にタスクをどんどん書き込んでいくスタイルに落ち着いた。

「終わったものから線で消していけば、その日の残り業務がいつでも一目でわかるのでオススメです。なんでも付箋に書いてペタペタ貼ると、デスク周りが雑然としちゃいますし。すべて完了したメモを捨てる前に見返して、『今日もよく働いたな』って実感できるのもいいんですよね」

仕事中の水分補給は、紅茶かお水。ミネラルウォーターは身体にいい成分が多いものを選び、長年愛飲している。

またCA時代からの習慣で持ち歩いているのが「懐紙」。会社でお菓子を配るときにはナプキンに、ちょっとした集金があるときなどはポチ袋代わりに。何にでも使えて万能なのだそう。ホスピタリティの高い大屋さんにピッタリのアイテムだ。

ライター:大島 悠(おおしま ゆう)
カメラマン:刑部 友康(おさかべ ともやす)
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