この記事を読むと、多くの人が持つ「派遣」のイメージが大きく変わるかもしれない。大手企業で定年まで勤め、セカンドキャリアのために派遣会社を利用しつつ、自ら仕事を探したという小川研之さん(64)は、長年の海外赴任で出会ったプロフェッショナルたちから仕事の本質を教わったという。日本人的なやり方とは違う、転職のプロセスや仕事に対する考え方をうかがった。

派遣登録やSNSを利用し、定年前から情報収集

小川さんは、今年64歳だ。長年、日本を代表する大手電機メーカーでコンピューターソフトウェア関連の開発に携わってきた。60歳で退職後、長年の海外での経験やスキルを武器に自ら仕事を探し、米国企業のアドバイザーや、新興国進出支援のコンサルタントなど、複数の仕事を掛け持つフリーランス的な働き方を模索。3年間で仕事先を絞り、現在は派遣から直接雇用となった公益財団法人中谷医工計測技術振興財団に週4日勤務している。

小川さんは定年を迎える少し前から、次のキャリアを考え、行動を起こしはじめた。

「会社には残れるポジションがあまりなく、人事に相談しても、身につけたスキルを活かせる仕事はなかった。自分で外に目を向けないとダメだと、改めて感じました」

転職エージェントという感覚で、派遣会社10社ほどに登録。また、ビジネスSNSであるLinkedInにアカウントを作り、仕事に結びつく人との出会いを求めた。米国企業でのアドバイザーの仕事は、そのつながりから生まれたものだ。

やりがいのある仕事をしたいのは誰もが同じだが、派遣会社やSNSの使いこなしなど、小川さんの積極性は、この年代のサラリーマンの感覚とは少し違うように感じる。そこには、長い海外赴任で身につけたプロ意識と、キャリアアップへの感覚があった。

アメリカでの10年。派遣コンサルタントのプロ意識の高さに驚く

「1991年から約10年、アメリカのプリンストンに赴任し、ソフトウェアの開発に携わりました。マネージャー的な仕事で、エンジニアの人事などにも関わります。そこで出会った派遣のコンサルタントたちの、プロ意識に触れたのは大きかったですね」

コンサルタントの存在は、日本の「派遣」のイメージとはかけ離れていた。時給は設定されているが、彼らは時間ではなく仕事単位で考えていて、仕事を遂行するための努力もまた、欠かさない。6ヶ月働き、次の3ヶ月は新しい技術を身につけるために勉強の期間をとり、また次の仕事へと移っていく。こうしてきちんと責任を果たしながら自分の市場価値を上げ、ステップアップする彼らのスタイルに小川さんは圧倒された。

「ちょうどコンピューターがスピード感を持って進化した時代、アメリカには、本物のプロフェッショナルたちが喜々としてモノづくりに励むワクワク感、高揚感があった。一方、アメリカでの赴任を終えて帰ってみると、日本の社員は雇われ感覚で危機感が薄く、社内の関係ばかり見ている。正社員って何なのかと思いました」

こうして、小川さんは日本の企業人とは異なったメンタリティを持つようになる。

米国と日本の学生の違いは?

退職してからの3年間は、さまざまなガジェットを駆使しながらメールやスケジュール管理をし、夜明け前から海外とのやりとりをした後、別の勤務地へと出勤するような多忙な生活を送っていたが、今は現財団の仕事一本に絞った。

業務内容は医工計測技術の分野での育成や研究サポート。小川さんは留学生への助成の仕事を担当しており、日本と米国の交換留学生のサポート、アテンドが主な仕事だ。

年に2~3回は、日本の学生と一緒にアメリカに行き、現地の大学の研究室などを訪問。科学だけでなく、現地の社会や歴史、キャリアに対する考え方を学ぶためにサポートを行う。同様に、海外からの留学生に対しては、勉強面のサポートはもちろん、日本文化にも触れられるよう、京都に同行したり相撲観戦に連れて行ったりもするという。

「若い人にチャンスを与えられる仕事であり、世の中のためになり、知的欲求も満たされる」点が気に入り、この仕事に落ち着いた。

アメリカと日本の学生の違いは?と尋ねると「海外の留学生たちからは好きな勉強ができるという素直な喜びがありますが、日本の学生には、サイエンスが楽しいという気持ちがやや欠如しているように感じられます」と、こちらもちょっぴり辛口。

そんな日本人学生も海外に出ることで視点は広がる。自分の可能性に気づき、博士号をとってプロフェッサーになりたい!という夢を持った女子留学生もいた。小川さんにとって、嬉しく印象に残った留学生だという。海外に渡り、仕事への自由な発想を得た若き日の自分と重なるのかもしれない。

オープンマインドで、年齢に関係なく常に興味を持ち続けながら働く小川さんの姿は、将来のある若い学生たちにとって、きっとよい刺激になっているはずだ。

若い人たちとの交流を楽しみながら応援

小川さんのデスクで目立つのは書籍、それもかなり雑多な内容。『相撲の歴史』『ぷちマンガでわかる量子力学』――脈絡のない本が多いが、これは、学生たちとの会話のために雑学として知識を仕入れているから。

「もともとそんなに読書するタイプではなかったのですが、情報収集のために読んでおいた方がいいかなと思って。たとえば海外の留学生を連れて相撲を見に行っても、歴史や文化など背景を質問してくるので、そこに対応できるように」

また、留学生たちの研究の発表を聞くにあたり、これまで全く知らなかった分野でも、基本的な知識を持つことで理解ができるようにしたいと、自分とは畑違いの入門書も読むようにしている。

留学生からもらうThanks Letterやお土産の数々。カードや書かれているメッセージの内容もさまざまだ。伊勢志摩のお土産のカメの人形や、ストラップなど、ささやかだが学生たちの気持ちが伝わる品々は、少しずつたまっていく。

ライター:有賀 薫(ありが かおる)
カメラマン:刑部 友康(おさかべ ともやす)
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