「はい。この中から、好きか嫌いではなく、香りがしなかった、ピンとこなかったものをまずはじいてくださいね」精油リーディング中、ボトルを机に並べながら、落ち着いた声でそう促す福増恵さん(50)。福増さんは今、派遣スタッフとしての就業を経て、外資系投資銀行での週1日の勤務と並行し、aromatherapy専門店ふくますでアロマテラピーインストラクターとして、不定期でワークショップやレッスンを開いている。「アロマの仕事を始めたのは、なりゆきだったんですよね」とさらっと言うが、いやいやどうして。インタビューを通して見えてきたのは、その時々の状況を冷静に受け止めながら、決して流されるばかりではない、しなやかな生き方だった。

子どもの頃からの悩みがきっかけでアロマテラピーを知る

きめ細かく透明感のある肌が印象的な福増さん。思わず「肌がきれいですね」と声をかけると、「え、うれしい!そうでないと商売に差しさわりが(笑)」と爽やかな笑顔が返ってきた。

聞けば、ファンデーションは使っていないとか。子どもの頃から肌がひどく敏感で、市販の化粧品はほとんど合わないのだそうだ。

「最初はよくても3日もすると赤くなったりぶつぶつが出てきてしまうんです。社会人になりたての頃、会社の先輩に『安物使っているからよ』と言われてブランドものもいろいろ試してみたのですがやっぱりダメで、結構つらい思いをしました」と振り返る。

そんな福増さんを救ってくれたのが、アロマテラピーとの出会い。

「痒みがひどくて眠れないって悩んでいたら、友人がこういうのがあるよって、精油入りのオイルを誕生日にプレゼントしてくれたんです。半信半疑で試したら期待以上によい感触で『これはいい!』と。ただ安いものじゃないので使い続けるのがきびしくて…。ならばと自分で作り始めたのが、きっかけです」

「老後の楽しみでいい」と思っていたが……

独学を続けてきた福増さんが、スクールに通い、アロマテラピー検定1級、AEAJ認定アロマテラピーアドバイザー、同アロマテラピーインストラクターと続けざまに資格を取得したのは40歳手前、外資系企業でフルタイムの仕事をしていたときだった。「何か聞かれたときに間違ったことを教えたらまずい」といった軽い気持ちからのチャレンジだったが、資格取得のためには精油の専門知識に加え、健康学や解剖生理学、メンタルヘルスなど山のような勉強が必要で、半年間のスクール通いは「それはそれはきつかった」と苦笑する。

当初はアロマを仕事にするつもりはまったくなかったという福増さん。その心を動かしたのは、ある友人の言葉だった。

「会社とスクールとでてんてこ舞いだった頃、心配した彼女が『資格を取ってどうするの?』って何度も聞いてくれていたんです。私自身は、老後の楽しみでいいやくらいに思っていたのですが、ちょうど家の事情で会社を辞めることになり、その『どうするの?』がよみがえって……そうか、これを仕事にしようって」

講師経験ゼロ。自己流の企画書で手当たり次第に営業

目を見張るのは、そこからの福増さんの行動力だ。小ロットでも取引できる材料の仕入れ先を必死で探しながら、一方で、カルチャーセンターなどに手あたり次第に営業。

「企画書なんて書いたこともなかったんですが、私に何ができるかを考えて、1日コース、連続コースと、いろいろなレッスンプランを提案。材料費からレッスン料を計算し……でも、自己流ですけどね」

講師経験もなかったため、企画書を送ってもほとんどなしのつぶてだったが、それでも「会いましょう」と連絡してきたカルチャーセンターが2つ。面談で意気投合し、即採用が決まった。

「今振り返っても、我ながらよくやった(笑)。ふつう、最初は有名な先生のアシスタントについたりどこかのスクールに所属するものらしいのですが、私はそんなことにも疎くて。でもそのおかげで、資格を取ってすぐに仕事を始めることができたんです」

アロマで「きゃっきゃ、うふふ」と喜んでもらいたい

「私にとってのアロマテラピーは、からだや心をリラックスさせ、バランスを保つのを助けてくれるもの」と福増さん。本来人は、自分のなかに体調を整える力を備えている。たとえば、寒い場所に出たときにぶるっと震えて熱を発しようとするように。風邪のときに発熱してウイルスを退治しようとするように。

「植物の香りは恒常性を保つのに役立ちます。電気信号が神経を伝わり脳に信号が送られるなど、きちんとした理由に合点がいったんです」

アロマの仕事は、細々とでもずっと続けていくつもりだ。
「やる気さえあれば何歳になってもできるし、経験を積むほど説得力も増しますものね」
2~3年前から軽い更年期症状があり、今は生活も仕事も少しペースダウンしているが、そんな自分の状況も「アロマで実験中(笑)」とポジティブにとらえている。

じつは福増さん、このコラムへの登場が決まってから、「自分らしさ」について改めて考えてみたそうだ。いつも他の人のために働いているような先輩が身近にいて、尊敬し憧れもするが、自身は「人のためのアロマテラピー」というのがまだどこかピンとこない。「なんて小さな人間なんだと落ち込んだりもしました」と言う。

けれどいろいろ振り返っているうちに、精油を選んだり試したりするときの受講生のワクワクしている様子や楽しげな顔を見ることに喜びを感じる自分に気づいた。
「自分の好きなことで人にもハッピーになってもらいたい。そう思ったら、こんなアロマの人がいてもいいじゃない、って吹っ切れました」

インタビュー後のデモンストレーションは、まさに癒しの時間。精油についての熱のこもった説明を聞いているうちに、こちらも福増さんの「好き」にすっかり惹きこまれていた。

付録をアレンジしたポーチ。自作クリームと精油も必携

いつもバッグに入れているのは、クリーム色のバッグインバッグ。さらにその内側にセットしている黒いポーチは、もともと宝島社の雑誌『otona MUSE』の付録だったお財布ポシェットのストラップを取り外したものだ。

「ポケットがいっぱいだから、鍵や印鑑、化粧品など細々したものがきれいに収まるんです。バッグインバッグインバッグですね」

自家製のハンドクリームと自分でブレンドした精油も必携。
「オイルベースのクリームは浸透しやすいし伸びもよい。香りは、美容によいといわれるスペシャルバージョンです。精油は、どこでもリラックスできるように持ち歩いています」

ロンドンで買った地下鉄用のパスケースは、カードキー入れに。首から下げるタイプは外すときに髪に引っかかるのが気になっていたが、ふと、「これ使える」と思いついた。

ライター:高山 ゆみこ(たかやま ゆみこ)
カメラマン:福永 仲秋(ふくなが なかあき)
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