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派遣は人生の道場!60歳のいまでも、特許翻訳家という夢に向かって修行!修行!修行!

現在、派遣スタッフとして、英文の特許明細書から日本語の要約文を作成するために、翻訳すべき記載部分を選定する作業をしている大和順一郎さん(60)。歴史好きで、少しでも時間ができると山梨県甲府市にある武田神社にどんな仕事であろうと「全力でやりました」と報告しに通っているという。そんな大和さんが現在目指しているのは特許翻訳家。還暦を迎えても頑張れる、その原動力は何なのだろうか――。

「聞き取れない」という衝撃

大学時代、物理学を専攻し素粒子の研究をしていた大和さん。あるとき、アメリカのシカゴ大学内にあるエンリコ・フェルミ研究所で行う共同研究のため、約8カ月間、同地へ留学した。そこで衝撃を受けたのは、読む英語と聞く英語がまったく違うということ。

「読み書きには自信があったんですけど、英語を話されても全然わからなかったのがすごくショックだったんです。で、帰国後就職してから、教材を使ってリスニングの勉強を始めました。聞けないなら聞けるようにしてやろうって」

どうせやるなら自己満足ではいけないだろうと、実用英語検定準1級を取得。加えて、TOEICでは855点を取得した。そうするうちに、段々と英語自体に興味を持つようになった。

そして数年後、転機が訪れた。当時勤務していたソフトウェアの会社が、数千億もの大赤字を出したのだ。そこで見えてきたのは会社の傲慢な体制。大和さんは嫌気がさし、思い切って辞職。

「周りの人には色々言われましたけど、ここを出るためなら何でもやってやるって気持ちだったので迷いはありませんでした」

次は、翻訳の仕事がしたい

どうせ仕事を辞めたのだから、次は興味を持っていた英語を使った仕事に就こうと思った大和さん。どうすればいいだろうと考えた。

英語で食べていくには、英語だけできればいいというわけではない。たとえば、英会話教室の先生なら、コミュニケーションスキルも必要だろう。自分の性格を鑑みたうえで英語の力を自然と活かせるのはどんな仕事だろうと考えた結果、“翻訳”という答えに至った。

「産業翻訳をしようと思ったとき、自分がいままで経験した物理学やITの知識と経験が活かせると思ったんです。ただ、それだけでは足りない。実際、翻訳会社に登録していくつか仕事を請け負いましたが、収入としては少なかった。なので、並行して派遣スタッフとして働いて、様々な経験と知識を得ながら翻訳の仕事をすることにしたんです」

派遣スタッフとしての仕事は「道場での修行」――。こうして大和さんの修行の日々が始まった。

派遣だから、生身の生き方ができる

道場修行の16年間、大和さんはいくつもの職場を渡り歩いてきた。中には、合わなくて数カ月で契約終了したところもあった。始めたばかりの2000年代初頭は、翻訳の仕事がしたいと思っても、なかなか希望の仕事に就くことが叶わなかった。

一方で、派遣スタッフになって5年目に就業した職場では、初めて本格的に翻訳の仕事を任され、頼りにされた。これが大きな飛躍になり、以降は翻訳という業務での就業先が増えていった。そうして働き続けるうちに、派遣という働き方が自分に合っていると思うようになった。

「派遣スタッフは、正社員と違って組織に縛られていないんですよね。だから、自分の身ひとつで人生に立ち向かわないといけない。非常に生身の生き方ができるわけです。正直キツイ仕事だってありますけど、自分のスキルを磨く道場での修行だと思えば頑張れるんですよ」

日々修行、それでいい

「いままで身につけたことで、無駄なことは何ひとつない」と強く言い切る大和さん。毎日、数十件の特許明細書を解析しているが、その中でも自分のいままでの経験が活きていることを実感しているそう。

「至る所で、案件が出てくるごとに実感します。たとえば、クラウドコンピューティングの知識がなかったら、その案件の内容を理解するのは難しいですよね。私は、クラウドコンピューティングのことを1から10まで知っているわけではありませんが、ある程度の経験と予備知識があります。だから、不明点があっても調べられる。経験と予備知識がなかったら、何から調べたらいいかわかりませんよね」

いずれは特許翻訳自体をしたいと考えている大和さん。こうして特許明細書の解析をしている日々も、特許翻訳家になれたときにきっと役立つはずだ。いまは、その日に向かって、派遣道場での修行に励むばかり。

「わたしは60歳ですけど、職場には70歳以上の方が多くいらっしゃいます。その姿を見ていると、自分もせめて70歳、できれば75歳までは頑張りたいです」

修行の終わりは、もしかしたらないのかもしれない。それでもいい、と大和さんは言う。大事なのは―――生き様なのだ。

武田神社でいただいたお札、御守り、おみくじ

数えで61歳の大和さんは今年が本厄。お札はお祓いしてもらったときにいただいたそう。普段はお札と一緒にいただいた御幣とともに、自宅の神棚に飾っている。

おみくじはいまの就業先が決まる少し前に引いたもので、珍しい大吉だったので持ち歩いている。

武田神社では、かの有名な武将・武田信玄を祀っている。武田神社に行くようになったのは、派遣スタッフとして働くようになる少し前から。「通って以来、幸い仕事が途切れることもないし、守ってくれているのかなって。ときには、いささか厳しいお導きですけどね(笑)」
だからこそ、神社には願い事をしに行く人も多いと思うが、大和さんは日々のことを報告するために通っている。

ライター:小山 典子(こやま のりこ)
カメラマン:上澤 友香(うえさわ ゆか)