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タスカジさんとしてごはん作りで誰かを支えながら、自分も支えられていく

フリーランスとして家事代行業、とりわけ食事作りを中心に活動する、ごはんさん(29)。利用者とサービス側をつなげる「タスカジ」というプラットフォームを利用して仕事に就き、伝えたい思いを、仕事を通じて実現しつつある。迷いつつも前に進んでいく彼女に、29歳のリアルな今の気持ちと「らしさ」をうかがった。

毎日のごはん作りの大変さをお手伝い

顧客を訪問し、その家にある食材で料理を作るのが、タスカジさんであるごはんさんの主な仕事。

この日訪れたのは、中学生、小学生のお子さんがいる松浦さんのお宅だ。松浦さんは、在宅で英語塾を運営している。多忙な中、苦手な料理を隔週で、ごはんさんに担当してもらっているという。慣れたお宅ということもあってか、てきぱきとキッチンで動くごはんさん。野菜たっぷりのミートソース、子どもたちの大好きなコンソメパンチ味のフライドポテト、ミートローフ、炊き込みご飯など、その日の食材や家族の要望にもよるが、3時間で15品前後の料理を仕上げる。

「ごはんちゃんの作る料理は『名前のない料理』が多いんです。定番料理でも、そこにいろいろな食材を加えてアレンジしていくのが得意」と松浦さん。特別な素材や調味料、道具を買ってほしいと言わずに、あるもので何とかするのもごはんさん流だ。具だくさんの炊き込みごはんやゆっくりと煮る野菜スープなど、家庭的で野菜中心のほっとする味が得意。子どもたちとのコミュニケーションもとれていて、信頼も厚い。

「ごはんちゃんの料理が1品でもあると、今日は何を作ろうかと一から考える苦しさから解放され、本当に楽になった。子どもが料理に興味を持つようになってからは、餃子などをごはんちゃんと一緒につくってくれることも。私も料理が楽しめるようになりました」と松浦さん。

料理の仕事に就くなんて思っていなかった

顧客から大絶賛のごはんさんだが、意外なことに、自分が料理の仕事に就くとは思っていなかったという。大学では国際協力を学んだが、就職活動の年にあの東日本大震災があり、就職活動がストップしてしまう。たまたま震災前に内定が決まっていた大手スーパーにそのまま就職した。

店舗で惣菜づくりなどを手伝いながら調理師の免許を取り、その後、ある企業でキッチンの有給インターンとして就職。自然食を使って社員に食事を出すのが仕事だ。ここで調理の面白さに目覚めたごはんさんは「身体によく、きちんとした食事をもっと多くの人に届けたい」という思いを持つようになる。

そこからは、小学校や保育園の給食調理、オーガニックカフェでの手伝い、フレンチレストランでの住み込みバイトなど、勉強ができそうな場所を求めて積極的に外へ出ていった。農業について知りたいと、SNSで繋がった各地の農家を訪ね、仕事を手伝ったりもした。コネはないが、電話してアポイントを取り、飛び込む。体当りの活動を続けているうちに「タスカジ」を利用し、フリーランスとして家庭の食事作り代行を仕事とするようになった。

家事を頼むうしろめたさ、感じないで!

「タスカジ」は、家事を頼みたい人と家事の手伝いをしたい人とをつなぐ、家事代行のマッチングプラットフォームだ。現在、関東、関西の大都市を中心に、4万4千人がサービスを利用。1,400名のタスカジさんと呼ばれるハウスキーパーが登録しているという。

自分でもできる家事にお金を払うなんて…と、うしろめたさを感じる主婦も多い。だが、責任をもって働く女性が増えている現代、家事の負担は思いのほか大きい。たとえ毎日でなくても、その重さを自分以外の誰かに少しだけ持ってもらうことでの、心理的な気楽さははかり知れない。

「お子さんはお母さんの作った料理を食べたいから、切り方をお母さんに似せたり、半分調理して最後の味付けはおうちの方にしてもらったりと、工夫をしています。結局、おかあさんの代わりはいないんですよね。私たちはほんのちょっと荷物を持つお手伝いをするだけ。だから考えすぎないで任せてください!」とごはんさん。

タスカジを利用したことで、二人目の出産に踏み切れる自信がついた、また仕事のキャリアをあきらめずにすんだ、という声もあるそうだ。

「やりたいことがわからなかった」日々を経て

タスカジさん登録者の中でも、カレンダーをオープンするとすぐに埋まってしまうほど人気が高く、かかえる顧客の数も多いごはんさん。現在スポットで月30件、定期的な依頼も月4件ある。

順調に迷いなく進んできたように見えるが、ずっと、何をやりたいかわからないままの日々が続き、不安だったという。「自分らしく働きたい、仕事をしなきゃと思いつつ、当時勤めた会社のビジョンには何も見いだせなかったんですね。だから、何がやりたいの?と聞かれるのが恐怖でした」

そんな気持ちを抱えてきたからこそ、今の仕事が楽しい。
「レンジ調理はなるべくしない、有機野菜の良さを伝える、新鮮な野菜をお客様がダイレクトに買えるよう知り合いの農家さんとつなげるなど、自分のメッセージを仕事の中でお伝えしています」伝えたいことをちゃんと人に言葉で伝えられるのは、ごはんさんの思う自分らしさだという。

「何より対価としてか『ありがとう』という言葉をもらえるのが嬉しいですね」。相手の暮らしを支え、同時に相手からの感謝の言葉によって自分自身の満足や向上心が支えられている。ごはんさんの明るい笑顔に、仕事の充実が感じられた。

ごはんさん
株式会社タスカジが運営するタスカジで、「タスカジさん」として、食事作りや作り置きなどの家事代行を請け負う。大手スーパーで勤務した後、キッチンインターン、給食の調理補助などを経て現職。シンプルで素材の味を活かしたメニューや彩のある料理が得意。全国の農家を訪ねて農業を手伝うなどしながら、つながりを日々広げている。ごはんさんのレシピがたくさん掲載されている『タスカジさんが実践! 快適! キッチンのスゴ技 収納・しくみづくり・掃除・料理: 時短!家事ラク! お役立ちアイデア集』(徳間書店)も絶賛発売中。

ライター:有賀 薫(ありが かおる)
カメラマン:上澤 友香(うえさわ ゆか)