生まれつき敏感で、周囲からの刺激や他人の感情を過度に受け取ってしまう人を「ハイリー・センシティブ・パーソン(HSP)」という。病気ではないが、一般にはまだあまり知られていない概念で、人知れず悩みを抱えている人も少なくない。派遣スタッフとして働いてきた野村由良さん(36)もHSPの一人。繊細すぎる気質をときに持て余しながらも、自分らしい生き方を模索し、歩み始めている。

人混みや電話が苦手。気疲れで、帰宅するとぐったり

子どもの頃、他人の何気ない言葉を気に病んで、「そんな小さなことにこだわっていたら世の中渡っていけないよ」と家族からあきれられたことが何度かあったという野村さん。生きづらさやコミュニケーションのとりづらさを明確に意識するようになったのは、20歳で上京し、仕事をするようになってからだという。

「大きく環境が変わったから、もともとの気質が出やすくなったのかもしれません」

ほかの人が叱責されていると、自分が非難されているようないたたまれない気持ちになる。急に仕事を振られたとき、「断ったらこの人困るだろうな」と思うと、どんなに忙しくてもつい引き受けてしまう。電話のやりとりでは、慎重に言葉を選びすぎてしどろもどろになる。
「何かやるたびに相手の立場や状況をいろいろ考えすぎるから、とにかく気疲れするんです。家に帰ると、もうぐったりしてしまって……」

一時期を除き、ずっと「派遣スタッフ」を続けてきたのは、職場や働き方を自分で選びやすいという理由から。「合わなければ次の仕事へ」という自由度が、心を少し安定させてくれたという。

「HSP」を知り、気持ちが楽になった

「HSP」という言葉を知ったのは、2018年の春のこと。たまたま聞いていたラジオで、HSPについて書かれた『鈍感な世界に生きる敏感な人たち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)という本が紹介されたのだ。

「タイトルにピンときて早速買ってみたのですが、『相手の表情、音、においなどに過敏に反応してしまう』『人が多い場所だと落ち着かない』などと帯に書かれていて、それを見た瞬間、『あ、私のことだ』と思いました」

それまで、なんとなく自分が周囲の人と違うのじゃないかという感覚があったが、それが何なのかわからず、モヤモヤした思いを抱えていた。本に「およそ5人に1人が該当する」とあって驚いたが、同時に、悩んでいるのが自分一人ではないとわかって、ほっとしたという。

「それまで自分の性格をネガティブにしかとらえられなかったのですが、細かいところによく気がつくとか人の気持ちに配慮できるとか、HSPは悪いことばかりじゃない。苦手な場面での対処法なども紹介されていて、ずいぶん救われましたね」

最終出社日、就業先で贈られた100名分の寄せ書き

「ホスピタリティが高く、誰かをサポートするのが好き」と自らを分析する野村さん。電話対応や急に何かを頼まれたりするのは今でも苦手だが、「ありがとう」とか「助かった」と言われると力が湧いてくるから、アシスタント業務や事務職は自分に向いているという。

昨年12月まで3年間、派遣スタッフとして就業していた職場では、最終出社日に、なんと100名分もの寄せ書きが贈られたのだとか。「私の売上げの半分は野村さんのおかげと言っても過言ではないです」「野村さんのおかげで営業現場がどれだけ助かったか」「野村さんの優しさに、本当に助けられました」……寄せ書きにつづられた言葉一つひとつから、野村さんのていねいな仕事ぶりや誠実な人柄へのあつい信頼が伝わってくる。

「3年の間には辛いこともあって、辞めてしまおうかと思ったこともありました。最後にそんな風に感謝の言葉をいただけるなんて思ってもいなくて、すごくうれしかったですね。翌日改めて見直しながら、一人ひとりの顔を思い出しているうちに、感動のあまり寝込んでしまいました(笑)」

当事者の自分だから、できることがある

野村さんには、いま一つの目標がある。自分と同じように生きづらさを抱えて悩む人をサポートする活動をしていくことだ。そのために、「心臓をバクバクさせながら」社会起業のセミナーに足を運び、オリジナルの名刺も作った。名前の上に書かれているのは、「HSP(敏感、繊細、過敏気質)の人たちと障がいのある人たちへ 楽しくなる情報を届けたい」の文言。裏には、野村さんが出会い、応援している人物が紹介されている。
 
「HSPは長くつきあっていくもの。この特質をポジティブにとらえて頑張っている人もいるし、辛くなりそうなときには緩和する方法もある。HSPと気づかずに悩んでいる人や、逆にHSPと知ってショックを受けてしまった人の気持ちなど、当事者の私だから気づけることもあると思うんです」

「私が行動することで『はじめてHSPのことを知った』とおっしゃる方も多いです」と話す野村さん。照れ臭そうなその表情は、ライフワークと呼べそうなテーマに巡り合えたときめきで、輝いて見える。

「私の根底にあるのは、やっぱり困っている人を助けたい、人の役に立ちたいという気持ち。関わる相手がハッピーならうれしいし、私が応援したことがそのきっかけになったのなら、2倍うれしい。うれしすぎると、また疲れちゃうのが困るんですけどね(笑)」

CDにも穴あけパンチにも、思い入れが凝縮

CDは、以前の就業先の同僚がボーカルをつとめるバンドのもの。
「お昼休みに何となく話をしていたら、『僕、バンドやっているんです』って。まだ20代前半で、働きながら、趣味のレベルを超えてバンド活動もしているなんてすごいって応援したくて、名刺の裏でも紹介しているんです」

優れものの“マイ”穴あけパンチは、じつは2台目。1台目は、最初の就業先を離れるとき、お世話になった同僚に「思い出にちょうだい」と言われてあげてしまった。「『野村さんだと思って大事にする』って(笑)。元気に活躍していることを祈ります」

濃パープル系のネイルは、就業先を離れるときに贈られたもの。「『ロックっぽいイメージだから』と、私のために選んでくれた気持ちがありがたかった。今日は久しぶりにつけて、テンション上がっています」

ブルーライトカットのめがね、イヤホン、バームは、どれも居心地よくいるために必携のアイテム。めがねやイヤホンは、物理的に情報をさえぎるのにも役立つ。
「スパセイロン」のコンフォートバームは、目が覚めるようなスパイシーな香り。デスクワークで眠くなったときに重宝する。

ライター:高山 ゆみこ(たかやま ゆみこ)
カメラマン:福永 仲秋(ふくなが なかあき)
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