KDDI株式会社の派遣スタッフ・小林英里子さん(39)は、3歳と5歳の男の子をもつワーキングママ。フルタイムの仕事と子育てとを両立させながら、「経理の知識を深めたい」と、目下、簿記2級取得にも挑戦中だ。「今日は、義母に保育園のお迎えをお願いしているんです」とにっこりし、歯切れのよい口調でインタビューに答える小林さんだが、じつは少し前まで、自分を「ダメ人間」と否定し、髪が抜けるほどのストレスを抱えていた時期があったという。

「結婚・出産したらキャリアは終わり」と思っていた

小林さんは、2002年、新卒で金融系の会社に就職。投資信託の営業や証券業務などに約10年間携わった後、結婚を機に退職した。「働くのが大好き」という小林さん。“寿退社”というのは少し意外な気がするが、「とにかく激務でしたから」と振り返って苦笑する。

毎朝7時半の日本経済新聞の読み合わせで業務が始まり、職場を後にするのは夜の9時、10時になることも。

「人間関係もよかったし仕事も面白かったのですが、家庭をもちながらできる仕事ではないと思っていました」

「ワークライフバランス」という言葉はすでに認知されていたし、働き方のバリエーションも増え始めてはいたが、現実には、キャリアか子育てか、二者択一に悩んだという。

「私自身もこういうハードな働き方しか知りませんでしたから。結婚・出産したらキャリアはおしまい、週3日のバイトくらいがちょうどいい、と考えていました」

30代後半に出合った「経理」という新たな夢

ただ、いったん仕事から離れたものの、小林さんはじっとしていなかった。

「退職後に通ったハローワークの職業訓練で、『どんな部署にいても、会社のお金の流れを理解できる知識は大事』と学んだんです。それまでまったく経験のなかった経理の仕事に、がぜん興味が湧きました」

第1子、第2子の出産を挟み、週3日でパート勤務をしながら、簿記3級を取得。資格を得たことで、一度はあきらめた社会人としてのキャリアを、「経理」の分野で再び積み上げたいという夢がふくらんだ。

当時小林さんは30代後半。「雇ってくれる会社なんてなかなかないだろうと覚悟していたのですが、偶然、自宅近くの会社が『未経験も可』という求人広告を出していたのです。『これは頑張れってことだ』と勝手に解釈し、即座に飛びつきました」

ストレスフルな職場で、髪が薄くなって

通勤に好都合の職場で念願の「経理」の仕事。キャリア再スタートは順風満帆に思えた。ところがそこで待っていたのは、想定外の辛い現実だった。

「部署内の一部の先輩達に、最初から私のやることなすことすべて否定されました。わからないことを聞いても、『時間がもったいないから質問をしないで』『資格があるんだからなんとかなるでしょ』と答えてもらえない。休憩時間に簿記2級のテキストを読んでいると、『仕事もできないのに余裕がある人はいいわね』と嫌味を言われる……憤るとか悔しいとかではなくて、ああ、私ってダメ人間なんだって、どんどん自己否定に陥っていきました」

せっかく就いた職だからと、努めて明るくふるまい、前向きな気持ちをキープしようとしたが、1年半たった頃、頭髪が薄くなっていることに気づいて驚いた。

「そこまでストレスをためているという自覚はなかったんです。でも、体は正直ですね。次のあてはなかったのですが、さすがに辞めようと思いました」

いまできることを、精いっぱい

19年10月にいまの職場に就業。同じ場所でできるだけ長く働き続けたいという考えもあったが、今回は「派遣スタッフ」という働き方を選択肢に加えてみた。すると、希望する経理の職種でも間口がずいぶん広がったという。

「正社員にこだわっていたら、まだ求職中だったかもしれません。不安が消えたわけではありませんが、とりあえずいまは、1日1日、精いっぱい仕事をしたい。しっかり経験と勉強を積んでいけば、また次の目標が見えてくるような気がするんです」

いまでは、疑問に思ったことは当たり前のように質問できるし、ポジティブな姿勢や意欲も評価し、応援してもらえる。

「ああ、私の感覚ってそんなに間違っていなかったんだって、ここにきて、自分を肯定できるようになりました」と小林さん。「おかげさまで髪も元に戻りました。ありがたくて涙が出そうです」と、瞳を少しうるませる。

簿記2級にチャレンジしようという気持ちも、自然に湧いてきた。「派遣スタッフの先輩から、『業務にとても役に立った』というアドバイスをいただいて、私もまた資格取得に向けて頑張ってみようと思いました。子どもを寝かしつけた後、洗い物をしながらとかお風呂の中でとか、すきま時間をフルに使って勉強しています」。

辛い試練を乗り越えたからこそ、新しい夢に向かって全力投球できるいまの状況を、心からありがたく思う。インタビューの間中、小林さんが、周囲への感謝を何度も繰り返し口にしていたのが印象的だった。

辛い時代を知っている夫から贈られたスマホケース

2台収納できるスマホケースは、いまの就業先で業務用iPhoneを支給されたのを知った夫からのプレゼント。「前職で苦労していたのを間近で見ていたので、『今度はよい職場に恵まれて、本当によかったね』とすごく喜んでくれました」

「自動車リサイクル博士」のイラストが付いたランチバッグは、子どもが何かのイベントでもらってきたもの。「息子が、これ、ママにあげるって」。ランチタイムのお伴として愛用している。

ウェットティッシュは、子連れ出勤の必需品。保育園に送り迎えするとき、子どもたちの口のまわりや手足を拭くのに使う。「下の子が保育園で私と離れたがらないときも、『トーマスできれいにしようね』って言うと機嫌がよくなるんです」

スヌーピーが好きなので、キャンパスノートでスヌーピー柄が出るとまとめて購入。仕事のメモ用に使っている。

ライター:高山 ゆみこ(たかやま ゆみこ)
カメラマン:刑部 友康(おさかべ ともやす)

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