弁護士を目指す池部美希さん(36)は法科大学院(ロースクール)を修了し、司法試験を受験するが、結果は5年連続で不合格だったという。一度は勉強のペースを落としたものの、2年後には再度受験を決意。現在は派遣スタッフとして働きながら、勉強を両立させている。取材ではいきいきとした姿が印象的だったが、20代は灰色の時代だったと振り返る。

ロースクールに入ったものの

「弁護士になろう」。きっかけは、池部さんが大学3年生のときに兄が事故に遭ったこと。幸い命には別状がなかったとはいえ、もっと法律を知っていれば理不尽な思いをしなくて済んだかもしれない、少しでも兄を救えたのではないか…と思うことが多かった。漠然と法学部に入学し勉強していたものの、このことがきっかけで将来の道が明確になったという。

大学卒業後はロースクールに入学。想像以上に勉強がハードだった。民法や憲法、刑法など、10科目以上の難解な教科書を読み込み、自分の頭で理解した上で論文を書く。弁護士には論理的な思考が求められるそうだが、思考法を身につけるのにかなりの訓練を要したという。

当時は朝9時から夜の9時まで授業。その後、自習室で深夜まで机に向かい、そこから帰宅する毎日。入学時に50人いた同級生は半年後には30人に減り、2年生に進級するころには20人まで減っていた。池部さんも懸命に勉強したが、1年留年して3年間通ったそうだ。

しかし、それだけの苦労を重ねながら、司法試験の結果は毎年不合格。ロースクール修了後、5年間で5回という受験制限の中で結果がでず、試験が終わったときには呆然としたと語る。

「あと5点足りなくて…。論文の書き方がいけなかったのかと悔やんだり、マークシートでミスしたのかなとか思ってみたり。今までの苦労はなんだったのかと、この世の終わりのような気持ちでしたね」

気づけば30歳になっていた。20代はほぼ勉強に取り組んでいたなか、周りの友人たちはキャリアを積む人や結婚をしていく人もいて、とても華やかに見える。それに比べ、どうして私は結果がでないのだろう…。常に孤独や焦燥感との戦いでもあったという。

モデルにインストラクター、学校の事務員も

5回目の司法試験が終わったとき、一旦受験勉強のペースを落とすことにした。アルバイトや派遣スタッフとして働きながら、外の世界に触れたくなったという。

「あえて一つの仕事にこだわらず、さまざまな仕事をしてみました。ここまで勉強しても受からないなら、そもそも自分は何が向いているのだろうって思ったんです。今まで自分を内省する時間すらなく、追われていましたから」

ホテルの配膳やイベントデモンストレーター、加圧トレーニングのモデルやインストラクターなど、人前に出る仕事は明るく元気な池部さんにとって、楽しみながら出来たという。ただ、華やかな仕事よりも学校の事務や入試の採点など、着実に一つひとつ進める仕事の方が、ロースクール時代の雰囲気とどこか似ており、結局一番馴染んだそうだ。

東京での出会いが司法試験にも影響

さらに、実家である広島から東京に出てきたのもこのころ。予備校で勉強するという名目で初めて上京したことが、池部さんにとってひとつの転機になる。

「東京にきて良かったことは、一緒に勉強する仲間や先生に出会えたことですね。それまでは、ずっと間違った勉強の仕方をしていました。たとえば、論理的に書くことを練習しなくてはいけないのに、ひたすら本ばかり読むとか。改善点がずれていることに気づけなかったんですよね。あのまま1人で勉強していたら、今でも同じことをしていたかも…」やはり目標に向かうには環境が大事なようだ。

そうして5回目の司法試験が終わって約2年経ったころ、再び司法試験を受けることに決めた。もう一度机に向かうことを選んだ理由は、ロースクールでの勉強を無駄にしたくない思いが何よりも強いからだそうだ。司法試験の受験資格が得られるパターンは2つある。ロースクールを修了すること、または、司法試験予備試験に合格すること。今は後者の受験資格を狙っている。

自己肯定感が上がる職場

現在は派遣スタッフとして週4日働きながら、司法試験の勉強を両立させている。

「週5日ではなく週4日で働けるのも派遣ならでは。今の就業先では企業法務の仕事をしていますが、元々弁護士の資格を取得したら進みたいと思っていた分野でもあり、とてもやりがいを感じます。契約書を見れば法律的な判断はすぐ出来ますね。行政書士の資格も持っているので、社員の方がすごく頼ってくださるのは嬉しいですし、自己肯定感も上がりますよ」

今後について不安がないか聞くと「ないですね。自分に合った勉強方法と環境があっているので、次は受かりそうな気がします。確かに司法試験は難関ですが、一緒に勉強していた友人が受かっている様子をみると、思うほど遠い世界だと今は思わないんです」と穏やかに、そして力強く語る。

勉強の合間にはベリーダンスや水泳、スポーツジムで気分転換をはかる。このメリハリも勉強するにはとても効果的だそうだ。仕事との両立はハードだが、趣味の時間に没頭できるからこそ、勉強に集中できているという。さまざまな仕事に触れて自分を知り、目標に向かう環境もまた整った。池部さんの横顔が自信に満ちあふれている理由が、わかった気がする。

勉強も息抜きもメリハリを大切に

仕事と勉強の気分転換になっているのはベリーダンス。「このヒップスカーフを巻くと気分が上がりますね。踊っているときはベリーダンスのみに集中できて楽しいです」と笑みがこぼれる。ジムにも通うため、シューズも持ち歩く。

さらに必ず持ち歩いているのが司法試験過去問の論証ノート。きっちりマーカーで色分けされていて、「緑は問題提起、ピンクは自分が論じられないといけないところ、黄色はポイントになる部分ですね。書かないと覚えられないし、忘れては書いての繰り返しです」

また、判例六法は改正法が施行される年には買い直しているそうだ。「2017年のものは使い込み過ぎてボロボロになりました(笑)今はまだ買ったばかりで綺麗ですが、2020年度の六法もじきにそうなると思います」

ライター:松永 怜(まつなが れい)
カメラマン:坂脇 卓也(さかわき たくや)

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