子どもの不登校をきっかけに心理カウンセリングと出合い、学びを深めてきた白根貴子さん(58)。同じように葛藤や悩みを抱える人に寄り添いたいと、いま、カウンセラーとしての独立開業をめざす。(カウンセラーネーム白根月子)

*今回はオンラインで取材を行いました
*掲載しているお写真は、ご本人より提供いただきました

次男の登校拒否で罪悪感に苦しみ……

10年前、中学生だった次男が「明日から学校に行かない」と言い出したとき、白根さんを苦しめたのは罪悪感だった。リーマンショックの余波を受け、夫の勤務先が経営悪化。当時は家計を支えるため、白根さんも夫も、フルタイムの本業と夕方からの副業というダブルワークで息つく暇もないほど多忙な日々を送っていたのだという。

「お金のこともそうですが精神的にもまったく余裕がありませんでした。子どものことにも気持ちが行き届いていなかった。そんな状況でしたから、“不登校”という現実を突きつけられ、すべての責任が自分にあるように感じてしまったのです」と振り返る。

わらにもすがる思いで白根さんが頼ったのがネットの情報。仕事の休憩時間も帰宅後も、スマホやパソコンで「不登校」「ひきこもり」「不登校の親」などのワードを検索し続けたという。

「考えてみたら私たちって親になるための勉強をしていませんよね。自分の経験と知識だけで子育てをしているから、子どもに何かあったら自分の生き方にも自信がなくなるわけです。私はこうやって生きてきたけれど、それはもしかしたら間違っていたのかもしれないと。だから何か手がかりがほしくて、検索を止められませんでした」

自分が変わったら、家の空気も変わってきた

解決の糸口を無我夢中で探していた頃、白根さんは、あるひきこもり当事者のブログに「救われた思いがした」という。そこには、「昼夜逆転し家族とも顔を合わせない。ずっとオンラインゲームばかり。食事もひとり。だけどそういう生活をしていても、僕は成長している」と書かれていた。

「つまり、ただ立ち止まっているわけではない。いろんなことを考えているんだということが伝わってきました。それを読み、息子と重ね合わせて少しほっとしたのを覚えています。人間にはもともと成長する力が備わっている。そこに希望が感じられたんです」

そうしていろいろ模索するなか出合ったのが、不登校児の親の会。同会の支援者が主催するカウンセリングや心理学の勉強会に通い、「交流分析」「人格適応論」といった理論を学ぶうち、白根さんは、自分が変われば周囲も変わり得るということを「頭で」理解するようになった。

たとえば何か人に頼まれた時、私たちは“やらされた感”が強いですよね。でも嫌なら、本当は断ることもできるはず。それでもやるのは自分の意思なんです。自分が選択したと考えると物事のとらえ方はずいぶん変わってきます」

基礎講座を受けてカウンセラーの資格を取得した白根さんは、その後も、仲間同士でロールプレイングをしたり自分自身もカウンセリングを受けたりしながら、約6年間にわたり知識とスキルを磨き続けた。

「最初は頭でしか理解できていなかったことが、だんだん腑に落ちてきたんです。私自身、昔から物事を辛いほうに辛いほうにとらえるクセがあり、『ここまでよく頑張ってきたな』と思うほどしんどい時期もありました。それが、いまは本当にラクになったし、不思議なことに、家の中の空気感や子どもたちの様子も変わってきた。なにか家が居心地のいい場所になってきました」

「I am OK, You are OK.」

学びを通して何より自分がラクになったと感じる白根さん。いつしか、自分と同じように不登校やひきこもりの子どもをもつ親へのサポートをしたいという気持ちが湧いてきたという。

「私たちの世代が育ったのは高度成長期からの競争社会。他者との比較で価値がはかられるような環境で苦しんできたこの世代こそ、支援の手が必要だと思うのです。子どもが変わろうとしてもお父さん、お母さんが変わらなければ、問題解決は長引いてしまいますから」

起業が容易なことではないともわかっているが、現在はある程度の余裕を持ちながら派遣スタッフの仕事を行えていることを機会に、「還暦すぎたら」と考えていた開業の前倒しを視野に入れている。公認心理師の資格試験に向け放送大学での勉強も始めたし、地元の起業家支援のコミュニティにも登録を済ませた。

「交流分析で学んだ“人生に対する基本的な態度”に『I am OK, You are OK.』というものがあります。私、この考え方がすごく好きなんです」と白根さん。

「一人ひとりが尊重され、お互いを認め合う。みんながそんな風に思えたら、世の中から戦争はなくなるんじゃないでしょうか。前は夢物語だと思っていましたが、最近は本当にそうかもしれないと信じられるようになりました」としみじみ話す。

「コミュニティ仲間のカメラマンに撮ってもらったんです」とうれしそうに見せてくれたポートレイトの白根さんは、あたたかく、それでいて凛としたたたずまい。その包み込むようなやわらかな笑顔こそ、いまの白根さんの心情そのものかもしれない。

お気に入りの色、フォルムに囲まれて

カウンセリングシートの記入に使っている「カランダッシュ」のボールペン。軸の鮮やかなオレンジ色が印象的だ。「昔からなぜかオレンジ色に惹かれるんです。それもぼんやりしていないパキッと主張のあるオレンジ。なかなか見つからなかったのですが、たまたまアマゾンを覗いていたとき目に入って、『これだ!』って」「オレンジ色がもつイメージのように、強さと明るさを併せもった人に憧れていたのかもしれない」と自己分析する。

「このフォルムが気持ちいいんです」と示すのは無印良品の電卓。「初期の頃のiPhoneの形にちょっと似ていませんか。シンプルなんだけど角が丸みを帯びていて。この微妙な感じが大好きです」

ハーブ研究家として起業した友人の手づくり石けんは、「良質のものをできるだけリーズナブルに提供したい」という理念に共感し、愛用。「彼女のぶれない姿勢に刺激を受けています。道は違うけれど、信念を曲げずにコツコツ頑張っている友人を見ると、私も励まされますね」

ライター:高山 ゆみこ(たかやま ゆみこ)

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