株式会社リクルートスタッフィングが運営するITSTAFFINGでは、弊社に派遣登録いただいている皆さまのスキル向上を支援するイベントを、定期的に開催しています。
8月4日に開催したイベントは、書籍『伝わる言葉に“文章力”はいらない』の著者である宮澤節夫さんをお迎えし、『「効く」文章を書くための方法論』のポイントをレクチャーしていただきました。
■今回のイベントのポイントは……
・伝えなくてはいけない情報を「表現要素」としてまとめる
・文章を書く目的は、相手の反応を得ることだと理解する
・Know/Love/Actの3つのうち、どの反応を期待するか決めてから文章を作る
今回のイベントで紹介する「型」を覚えることで、目的がぼんやりとしていた文章が、見違えるようにわかりやすく、伝わりやすくなります。
「何が言いたいかわからない文章」の問題点は?
「文章といっても、散文や随筆、小説などとは違う」と宮澤さん。「今回は、仕事で書かざるを得ない文章について説明します」と前置きがありました。仕事における文章の役割は、相手に正確に情報を伝えたり、説得したりすること。そのためには、相応の方法論を身につける必要があるのです。
「その典型が広告コピーです。さまざまな仕事がありますが、最初の条件はどれも同じで『いかに文章を読みたいと思ってもらうか』です」
スライドで紹介したのは、以下の文章です。
ある企業で、経営者層から社員向けにメールが届きました。朝、社員がデスクについて次のようなメールを開いたら、どのように感じるでしょうか?
わが社の売上は、昨年比20%のダウンです。
このままでは今年度の目標達成が困難な状況です。
全社的に売り上げ向上への一層の努力が必要です。
「この文章では、相手に何を求めているのかわかりません。売上がダウンしたと悩んでいるだろう社員に向かって『解決しよう』『バックアップしよう』という気持ちがみじんも感じられません。読む人の気持ちがまったく考えられていないのです」
むしろやる気を削いでしまうような文章だといえます。
「伝えなくてはならないこと」=「表現要素」を用意してから
先ほどの悪い例のような文章を書くことがないように、読みたくなる切り口、糸口を見つける必要があります。
「じょうご(ロート)のような形を思い浮かべてください。仕事で文章を書くには多様な情報があらかじめ耳に入ってきますが、この中には不要なものや同じようなものが混在しています。まず必ず文章で表現すべき事柄を引き出して整理しましょう。これらを、必ず文章に書き入れる『表現要素』と呼んでいます。例えば、ある商品を説明するなら、大きさ、重さなどのスペックや、特徴的な機能などになるでしょう。この時には順番を考える必要はありません」
表現要素をまとめ終えたら、じょうご(ロート)の先の細い口を考えます。これが文章を書きはじめるための糸口になります。それを宮澤さんは、「切り口」「入り口」「ヒント」「きっかけ」といったさまざまな言葉で言い換えていきます。
ここで「文章を書く目的とは何でしょう?」と宮澤さんから問いかけがありました。
「文章の目的は、読み手の反応を得ることです。これがなければコミュニケーションが成り立たず、文章の意味がありません。ただ、どんな反応でもいいわけではなく『期待する反応』を得ることが大切。文章はそのための道具に過ぎないのです」
文章の目的は「Know」「Love」「Act」のいずれか
では、期待する反応にはどのような種類があるでしょうか。それは次の3つです。
1.Know
知ってもらう・理解してもらう
例:「○月○日には重要な会議があるぞ」
2.Love
関心や興味を高めてもらう
例:「この会議は自分の将来を左右しそうだ」
3.Act
行動を起こしたいと思ってもらう
例:「会議に向けて自分の意見をまとめておこう」
目的によって、文章は変わります。同じ文章ですべてを網羅しようとしてもできないため、1~3のどれを目的とするか、最初に決めなくてはならないのです。また、文章を考える際には、読み手の反応を一度想定してみてから、その反応を考慮して呼びかけなくてはなりません。
例えば、ケーキ屋さんでアンケートを実施していると考えましょう。Love(関心や興味を高めてもらう)の目的として、「実施しているアンケートを肯定的に理解し注目してもらう」を掲げた場合、「どうせ自分の意見など真剣に採り上げてもらえないだろう」と考える読み手の反応が想像できます。その場合には「どんなご意見も、必ずサービス向上に役立てます」と、読み手の反応を先回りしてフォローできる文章を書きましょう。
「事実」「メリット」「ホンネ」の情報ポケットで刺激を探し出す
カシミアやウールといった天然素材のセーターを例として先ほどの3種類とは別の軸で、どういう情報によって読み手を刺激するか考えてみましょう。
1.事実で刺激
もっとも重要な事実を知らせる。発見、驚きに繋がる。
例:100%ナチュラルです
2.メリットで刺激
事実から生まれる「読み手にとって有利な点」を知らせる。
親近感、お得感に繋がる。
例:優しい肌触りを楽しめます
3.ホンネを刺激
読み手のホンネに訴えかける。共感、参加意識に繋がる。
(事前に読み手のホンネの発掘が必要)
例:ふたりで寄り添うときにぴったりです
最初に揃えた表現要素に強い事実(インパクト)があれば、「1.事実で刺激」を選びましょう。例えば、日本で初めて携帯電話が売り出されたときのコピーは「電話が携帯できます」という主旨のものでした。そこに発見や驚きがあるなら、事実だけを述べればいいのです。
事実にさほどの強さがない場合には、メリットで考えるとよいでしょう。うまくいけば、親近感を湧かせられます。
しかし、メリットが相手から見た魅力にならない場合には、ホンネ(インサイト)を探ることになります。インサイトには、次の2種類があるため、どちらを刺激するか考えなくてはなりません。
・カテゴリー・インサイト
表現要素に直接関わって、強く意識していること
例:ナチュラルなものが安心/サイズや色が気になる/肌触りのよいものがいい
・ビジネススタイル・インサイト/ライフスタイル・インサイト
日常生活やビジネスの中で、いつも強く気にかけていること
例:検討時間がいつも足りない/頼りになる部下がいない/予算のやりくりで手一杯だ/ センスがいいと思われたい/スタイリッシュに見せたい/さりげなく目立ちたい
ビジネススタイル・インサイトや、ライフスタイル・インサイトは、商品のカテゴリーには関係のないホンネであることがわかります。
例えば、ある製造機器メーカーの訴求をする際、以下のようなコピーが考えられるでしょう。
・事実で刺激
例:インターネット・セキュリティ専門のグローバル・サービスです
・メリットで刺激
例:インターネット・セキュリティに関して最適な環境が得られます
・ホンネを刺激
例:あなたに代わって確実にインターネット・セキュリティを実現します
(インサイトは「他の仕事に忙しくてPCセキュリティ管理に手が回らない」「コスト削減でアタマが痛い」「誰か頼れる部下に任せたい」など)
ここで、受講生が参加するワークの時間を取りました。インサイトを想像してから、ホンネを刺激するコピーを考えます。2名に発表してもらいましたが、メリットに寄った文章になってしまいがちだったようです。例えば、「難しい」というインサイトに対して「簡単」と言うなどインサイトをひとつずつ解決するような文章ではなく、「全体を通して不安や心配がなくなるよ」と言ってあげることがポイントだそうです。
最初に紹介したKnow/Love/Actの3種類と、刺激する情報ポケットの3種類(事実/メリット/ホンネ)を合わせてみると、2軸のマトリックスができます。
それぞれの組み合わせには相性があります。基本的には○のところ、場合によっては△でもかまいません。例えば「Know(知ってもらう)が目的なら事実で刺激をする」と覚えておきましょう。空欄の部分はほとんど該当することはありません。
目的の3種類(Know/Love/Act)と、刺激の3種類(事実で刺激/メリットで刺激/ホンネを刺激)をしっかりとマスターし、マトリックスに従って効果的なコピー(読みたいと思ってもらう文章)を書けるようにしたいもの。メールのタイトルなど、読む「糸口」になるものに、今回の「効く」文章を書くための方法論を使ってみてください。
ちなみに、宮澤さんが「糸口」のほかに「きっかけ」「ヒント」「入り口」「切り口」などと言葉を言い換えていたのは、訓練のため。普段から心がけると、ボキャブラリーが増えていくのだそうです。