派遣で働くエンジニアのスキルアップを応援するサイト

PRODUCED BY RECRUIT

【イベントレポート】「データ整理」から脱却!データ分析と行動経済学を使って、より魅力的な提案方法を

株式会社リクルートスタッフィングが運営するITSTAFFINGでは、弊社に派遣登録いただいている皆さまのスキル向上を支援するイベントを、定期的に開催しています。

今回は、同じ講師による2つのイベントについて、要点をまとめてご紹介します。

6月15日に開催されたひとつ目のイベントは、データ分析のスキルアップを支援する『データ分析を仕事で活用するために本当に必要なこと ~ それは統計でも分析ツールでもビッグデータでもなかった!』。小手先のテクニックではなく、考え方やデータ分析の進め方などを学ぶ場となりました。

9月22日に開催されたふたつ目のイベントは、行動経済学を解説した書籍『人は勘定より感情で決める』に沿った内容を解説。「データではこうなるはずなのに、人は予想通り動かない?」という疑問を解決する手がかりになるでしょう。

■今回のイベントレポートのポイント

・傾向しかわからない「データ整理」から「データ分析」へ!必要な問いとスキルとは?
・2軸の視点を使って「複数のデータの関係性」に着目
・データ分析手法のひとつ「相関分析」で定量的に表す
・人を不合理に動かす「バイアス」を知る

データ分析や行動経済学の知識がなくても、難しいツールも、実は必要ないのです。データやバイアスの活用方法について、これを機に学んでみましょう。

【講 師】柏木吉基さん

▲【講 師】柏木吉基さん
データ&ストーリー LLC代表。多摩大学大学院ビジネススクール客員教授。横浜国立大学非常勤講師。日立製作所入社。2003年米国Emory UniversityにてMBAを取得後、日産自動車へ。海外マーケティング&セールス部門、組織開発部 ビジネス改革マネージャ等を歴任。組織の変革を行うChange agentとして、グローバル組織での経営課題の解決、社内変革プロジェクトのパイロットを数多く務める。2014年独立。「実務データ分析」「課題解決」「ロジカルシンキング」を軸とした、企業研修講師、コンサルタント、大学教員、著者として活動。

分析手法でもデータ整理でもない、「データ分析」に移るためには

ひとつ目のイベントでは、まず、「データ分析」ではない「データ整理」について説明されました。データ分析を使うと、何ができるようになるのでしょうか?実はここをわかっていない人が多いようです。

データ分析というと、できるだけたくさんのツールや分析手法をマスターする必要があると勘違いされがちです。しかし、マスターしただけでは、明日からのパフォーマンスは変わらないでしょう。

また、平均を取ったり、時系列で並べるだけで、データを分析した気になっている人もいます。それでは、そのデータの特徴や傾向など、“結果”しかわかりません。ただの「データ整理」です。でも本当はただの結果だけでなく、その結果に至った背景や要因、改善のポイントなどを知ることが必要なはずです。そのためには「データ整理」ではなく「データ分析」が必要なのです。

データ整理ではなく「データ分析」に移るためには、次のアクションを成功に導くための「問い」とそれに答えるための「スキル」が必要です。「問い」と「スキル」は、下記のように対応します。

何を見るのか → 目的(課題)定義と仮説
どう見るのか → 多面的にデータをとらえる
なぜそうなのか → 2軸の視点

上記の左側にある3つの問いについては、「データ分析をするために」必ず必要なものです。それに答えるためのスキルが、それぞれ右側に書かれていることです。今回のイベントレポートでは、「2軸の視点」について解説していきます。

イメージ

データ分析とは、データとデータの関係性から「ストーリー」を導き出すこと

「2軸の視点」とは、「複数のデータの関係性に着目する」という内容です。

顧客満足度アンケート調査のデータを例に解説をしていきます。例えば、顧客満足度アンケート調査で、複数の項目の満足度を取得するとします。ここでよくある間違いは、満足度の各要素を平均したグラフを出してしまうことです。そして、その平均点が低い項目を改善対象としてしまうことです。それでは、その項目が改善されても、その結果本当にビジネスのパフォーマンスが上がるのかは分かりません。このように、ただ平均を出しただけでは、まさに「データ整理」の枠を超えません。

まずは、データ分析を何に活用したいかを確認し、仮説を立てましょう。個別項目のうち、何を改善すれば最も改善したい最終ゴール目的である“総合満足度”がアップするのかを見極めるため、各個別項目と総合満足度を組み合わせたグラフを作成するのです。その結果、個別項目と総合満足度との相関関係が見え、どの項目を改善すると総合満足度も改善できるのか、具体的な改善ポイントを発見することができるでしょう。

イメージ

2軸の関係の強さを定量的に表す「相関係数」

ここまで、グラフで視覚的に「両者に関係がありそうだ」を想定してきました。それを数字で定量的に表す分析手法を「相関分析」と言います。相関の強さを示す相関係数は-1~1の間で表され、0なら相関なし、-1に近づくほど負の相関が強くなり、1に近づくほど正の相関が強くなります。0.7以上なら相関あり、と見なす人もいれば、0.5以上を相関あり、と見なす人もいるようです。

相関関係は、Excelの関数から計算できるので、使うのは決して難しくありません。「CORREL」という関数で、変数1と変数2の範囲を指定すれば相関係数を計算することができます。

イメージ

ただし、相関係数を使うには注意が必要です。相関関係があっても、因果関係があるというわけではないからです。

一見正しくても、本当の関係性や要因は自分が見ているデータとは別のところにある場合は多々あります。分析結果を解釈する段階で、このポイントに気づくかどうかがデータ分析を行う上で必要なスキルと言えます。

行動経済学とは、「人は非合理的」だと説明する学問

ふたつ目のイベントは、「行動経済学」がテーマ。「データ分析結果を元に実際に人と組織を動かそうとするほど、人の判断は合理的でないとわかってくる」と柏木さんは言います。つまり、データとしては「得になる方が多く選ばれる」はずなのに、予想通りにいかないことが多い。いったい、どういうことなのでしょうか?それを説明するのが行動経済学なのです。

イメージ

もっとも大事なキーワードは「バイアス」で、「思い込み」のことを指します。どんな人も、バイアスによって合理的でない判断をしてしまうことがあるのです。

人にバイアスがかかってしまうのは、次のようなタイミングがあります。

インプット情報の生成時
新聞やテレビなどの情報が作られる際に、何かしらのバイアスがかかります。その結果、情報の内容そのものに偏りが生じます。

情報認知時
情報を受け取るときに、自分が見たくない情報を飛ばしてしまうなど、受け取る行為そのものにバイアスがかかります。

意思決定時
何かのものごとを決める際に、その人の考え方などにバイアスがかかります。

いろいろなバイアスを知ると、どう変わるのか

バイアスにはいろいろな種類があります。まずは、日常犯してしまいがちな事例と共に次のようなテーマでそのパターンを解説されました。それぞれを知ることにより、いかに自分に「思い込み」が多いかがわかるでしょう。

1.記憶はいつも正しいとは限らない
2.“みんなが言っている”は、怪しい
3.失うのが怖い
4.確率には鈍感です
5.無意識のシャットアウト
6.ゼロベース思考を奪う敵
7.見せ方に操られる
8.三日坊主にはワケがある

例えば「失うのが怖い」では、同じ金額でも、手に入れたときのポジティブな感情よりも失ったときのネガティブな感情の方が大きいことについて触れました。その非対称な傾向によって、人の感情や判断が合理的でなくなってしまうのです。

皆さんが「相手と話しが合わない」「どうしてもわかってもらえない」「自分の判断はいつも間違ってしまう」などの悩みを持っているとすれば、その真相はこれらの理論で簡単に説明がついてしまうかもしれません。

これらのバイアスを知ることで、日常生活やビジネスの現場にどう役に立つのでしょうか?

人とコミュニケーションをする際に「どうしてわかってくれないんだ」と感じることは誰にも経験があるはず。その際、自分や相手にかかっているかもしれないバイアスに気づくことができれば、情報を伝えたり受け取ったりする際に違うアプローチが取れるかもしれません。

イメージ

データ分析は「目的を整理」してから。相手に伝えるにはバイアスを踏まえて

だれでもプライベートや仕事で「正しい判断をしたい」と思っているはずです。そのために必要なことを知っておくことは重要です。

例えばデータ分析を仕事で生かすには、まず、具体的な分析の目的がわからないままに作業を開始しないこと。さらには、データと方法が揃えば正解が出せる、と考えないことです。分析者の裁量は非常に大きいため、正解を出すよりも「正解を創る」発想で挑むとよいでしょう。また、データですべてを語ろうとしないことも大切。

データ分析で見つけた方向性を取引先やユーザーに対して上手に伝え、それらに行動経済学によるさまざまなバイアスを踏まえれば、より相手に魅力的な方法で提案することができるでしょう。データ分析による合理性と、行動経済学の非合理性、これらの理解を両輪の武器として持っていれば、鬼に金棒です。