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【イベントレポート】ビジネス数学を意思決定の根拠や予測に役立てよう

株式会社リクルートスタッフィングが運営するITSTAFFINGでは、弊社に派遣登録いただいている皆さまのスキル向上を支援するイベントを定期的に開催しています。

2019年1月25日のイベントでは「データのトリセツ~ビジネス数学の基本的な考え方~」を開催。

数学には苦手意識がある、今さら数学なんて、と思われる方もいるかもしれませんが、データ分析の現場ではもちろん、論理的に考える上で「ビジネス数学」は欠かせません。今回はビジネス数学が使われる場面や考え方を、増井さんに解説いただきました。

■今回のイベントのポイント
・ビジネス数学は意思決定の際の「根拠」に使える
・時系列データから未来を予測する
・データをもとに予測したら、行動を選択できる
 
【講師】増井 敏克さん
【講師】増井 敏克さん
増井技術士事務所代表。技術士(情報工学部門)。情報処理技術者試験にも多数合格。ビジネス数学検定1級。「ビジネス」×「数学」×「IT」を組み合わせ、コンピュータを「正しく」「効率よく」使うためのスキルアップ支援や、各種ソフトウェアの開発、データ分析などを行う。著書に『おうちで学べるセキュリティのきほん』『プログラマ脳を鍛える数学パズル』『エンジニアが生き残るためのテクノロジーの授業』『もっとプログラマ脳を鍛える数学パズル』『図解まるわかりセキュリティのしくみ』(以上、翔泳社)、『シゴトに役立つデータ分析・統計のトリセツ』『プログラミング言語図鑑』『プログラマのためのディープラーニングのしくみがわかる数学入門』(以上、ソシム)がある。

なぜデータを使うのか

ビッグデータやデータサイエンティストといった言葉が多く使われるようになりましたが、多くの人は「自分には関係ない」と感じているかもしれません。その背景には、以下のような状況があり、「データ分析」という言葉に抵抗感があることが挙げられます。

・分析しても何が得られるかわからない
・データ分析のために専任の担当者を雇う余裕がない
・そもそも大量のデータなんて持っていない

ただ、今回取り上げるのは、このような大量のデータを扱って人間が気づかないことを発見する「データマイニング」のような内容ではなく、ビジネスにおいて意思決定をするときに求められる「根拠」として使う程度です。このような分析を行うときには、高度な数学や統計、プログラミングに関する知識は不要で、厳密に答えを求めるのではなく、ざっくりとでも実務に使える分析をすることが大切です。

データを扱うとき、公益財団法人日本数学検定協会が実施しているビジネス数学検定
https://www.su-gaku.biz )では、以下のような5つのステップに分けています。このコラムでは、主に「予測」と「選択」の部分について紹介します。

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時系列データから未来を予測する

データを使う目的として、過去の傾向を元に未来のことを予測したい場合があります。このとき、これまでの経験から「予想」ではなく、データを用いて「予測」することが大切です。

予測によく使われるのは時系列のデータでしょう。一定の期間に渡って、定期的に取得したデータとして、売上や気温の変化、光熱費の使用量の推移などがあります。このようなデータを元に予測する方法として、「移動平均」がよく使われます。

移動平均は株価や為替などをグラフで表現する場合によく使われる方法で、次の図のような「13週移動平均」や「26週移動平均」などを見たことがある人は多いでしょう。移動平均の期間を長く取ることで、そのグラフは滑らかになり、長期的な傾向を見ることができます。

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図)Yahoo!ファイナンスより引用

株価や為替は予測できませんが、私たちの身近な仕事であれば、ある程度予測できることもあります。ITに関する部分であれば、Webサイトへのアクセス数、プログラムの処理時間などの推移を見ると、過去のデータからある程度正確に予測できます。

移動平均はExcelなどを使うと、次の図のような計算式で簡単に求められます。

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ざっくりとした値を推定する

時系列データ以外では、「フェルミ推定」を使う方法もあります。知っている知識を元に値を推測する方法で、実際に調査が難しい値でも論理的に概算できます。例えば、会議の中で「電子黒板」の需要を考えるような場面を考えてみましょう。

電子黒板を日本にある小学校に導入すると考えると、その数を推定することが必要です。この程度であれば、インターネットで調べれば簡単に数を調べられますが、自分の知っているデータを組み合わせて推定することがポイントです。

方法はいくつか考えられますが、ざっくりとした値は以下のような感じで求められます。

・日本の人口は…だいたい1億2000万人
・日本人の平均寿命は…だいたい80歳
→ 1歳あたりの人口は1億2000万人÷80歳=150万人

・日本の小学校はだいたい30〜40人学級
・1学年のクラス数は2クラスくらい
→1つの小学校で1学年の人数は75人

つまり、150万人÷75人=2万校。

実際、文部科学省の調査
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm )でも2万校くらいとなっています。上記は本当にざっくりした値の推定方法ではありますが、大幅にずれないことが大切です。

これが1000校や10万校、というように桁が違ってしまうようだと問題ですが、こういった推定ができると、知っている知識を組み合わせるだけである程度精度の高い推定ができます。

予測結果から行動を選択する

データを元に予測するだけでなく、複数の選択肢の中から1つを選ばないといけない場面もあります。このような場合には「重み付け評価」がよく使われます。例えば、携帯電話の機種を選ぶ場合、デザインや性能、価格やブランドなどを考えて選びます。

選択の基準が1つであれば簡単なのですが、複数の指標があると、すべてを満たすものはなかなか見つかりません。そこで、複数の指標に優先順位をつけて、順に重みを設定します。設定した重みと評価値から計算して重み付け評価を行うことで、複数の指標から1つの値に変換できます。

例えば、以下のように評価項目を点数化し、重みをつけると評価の高い機種を選択できます。

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   機種A:5×3 + 2×4 + 4×5 + 3×4 = 55
   機種B:2×3 + 4×4 + 3×5 + 5×4 = 57
   機種C:4×3 + 3×4 + 3×5 + 4×4 = 55
   機種D:3×3 + 4×4 + 5×5 + 4×4 = 66 → 機種Dの評価が一番高い

このように、複数の指標がある例として、仕事で複数社から見積を取って比べる場合、プライベートで住宅を探す場合、など身近な場面も多くあります。この重み付け評価を行うには「優先順位を決める」ことが重要になってきます。

優先順位を論理的に決める

仕事で優先順位を決める場合、重要度や緊急度に応じて判断することが多いと思います。緊急度は期日などがあるとわかりやすいものですが、顧客からの要望などの場合、その重要度はなかなか決められないものです。

そこで、IT系でもよく使われる方法に「狩野分析法」があります。これは「あったとき」と「なかったとき」の両方の視点で考える方法です。例えば、「その機能があればどう思うのか」「その機能がなければどう思うのか」という質問について、「うれしい」「普通」「困る」のような選択肢を考えます(実際には5段階が使われるが、ここでは3段階とします)。

すると、優先順位は、以下の表のような順番で設定できます。つまり、一番優先順位が高いのは「あるのが普通だがないと困る」ものです。

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この表を使って、優先順位の設定を考えてみましょう。例えば、スマートフォンを選ぶときに、「カメラ」「電子マネー」「ワンセグ」「音楽再生」といった機能のどれを優先するかを考えてみます。

私の場合は、次のような回答になります。

・カメラ:あるのが普通だが、ないと困る
・電子マネー:あるとうれしいし、ないと困る
・ワンセグ:あると嬉しいが、なくても普通
・音楽再生:あるのが普通だが、なくても普通

つまり、私の場合では「カメラ > 電子マネー > ワンセグ > 音楽再生」の順になります。これは人によって順番が異なると思いますが、さまざまな場面で応用が利く方法だと思います。

実際のビジネスにおいては、学校で学ぶ数学のように正解は1つではありません。正解がないかもしれません。しかし、なんとなく選ぶのではなく、根拠を持って説明できるようにするために、「ビジネス数学」はいまから身に着けておきたいものです。