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バーチャル美少女ねむさんと行くメタバース【第1回】VRの世界に潜入してみた

最近のバズワードにもなっている「メタバース」。Facebookが2021年に商号をMetaに変更し、一気に話題となりました。いろいろ調べてみるも「あれもこれもメタバース?」と、認識が広まるばかりで、実態がよくわからないのではないでしょうか?

そこで、『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』を著したバーチャル美少女ねむさん(通称:ねむさん)に、メタバースの世界を案内してもらいながら、何回かに分けてお話しいただくことにしました。今回は、メタバースの定義やプラットフォームの話題です。

バーチャル美少女ねむ さん
メタバース原住民にしてメタバース文化エバンジェリスト。「バーチャルでなりたい自分になる」をテーマに2017年から美少女アイドルとして活動している自称・世界最古の個人系VTuber。VTuberを始める方法をいち早く公開し、その後のブームに貢献した。歌手、作家など幅広く活動を展開。フランス日刊紙「リベラシオン」・朝日新聞・日本経済新聞など掲載歴多数。VRの未来を届けるHTC公式の初代「VIVEアンバサダー」にも任命されている。
Twitterアカウント
著書『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』(2022)技術評論社

 

最初の準備に戸惑いながらも、ねむさんとお会いできた!

ねむさんは、個人で活動するVTuberとしては世界最古。その後、VRの世界に入り、今はそこから動画配信などもしています。昼間は現実の世界でまったく別の仕事をしながら、夜は配信をしない時もVRの世界で生活し、別の人生を送っているのです。

今回、ねむさんにはVRの世界で取材させていただくことにしました。舞台となるのは『VRChat(VRチャット)』です。数日前から準備をし、当日はVRヘッドセットをしてVRChat内にログイン。VRChat内で最初に入るのは、自分の『ホームワールド』です。

あらかじめフレンド登録をしていたので、ねむさんを『Invite』すると、目の前にねむさんが登場しました! ねむさんはソファに座っているような状態で、思っていたより大きい気がします。取材のためにいくつか技術的な設定をしていただいたあと、VRChatの世界を案内していただきます。

バーチャル美少女ねむ
ねむさん
まず、アバター変えてみますか? ここに鏡があるので、こっち来てください。こっちこっち
ライター
自分の姿が見えました。ねむさん、大きいんですね
バーチャル美少女ねむ
ねむさん
いや、栃尾さん(ライター)がめちゃんこ小さいんです。私は160cmくらいで、VRの世界では標準くらいですよ。ミラーの右側のパネルからアバターが選べるので、変えてみましょうか
ライター
では、こちらで。おお、大きくなった!

▲あまりに小さかったアバターから大きなアバターへ変更。
ライターから見ると、視点が高くなった分、世界観が変化する

背が小さいうちは、ねむさんが大きく見えたのですが、自分のアバターを大きくすると、ねむさんが小さく見えます。当たり前なのですが、子どもの世界や目線を体感したり、男女の違いを体感したりするのに有効ではないかと想像しました。アバターの大きさが変わることで世界が違って見えるのは新たな発見です。

 

ねむさんが考える「メタバースの定義」と主要プラットフォーム

いつの間にかVRの世界へ入り、スムーズにねむさんと話をしていましたが、今いる場所はいわゆるメタバースなのでしょうか? 話す人によって「メタバース」っていろいろと定義があるような……。

ねむさん
「メタバースって人によって指しているものが違うので、確かな定義はないっていうのが答えではあります。ただ、初めてメタバースという言葉が登場したのは『スノウ・クラッシュ』というSF小説で、その中では今の私たちのように、VRゴーグルを被ってアバターの姿になって入ってくる世界をそう呼んでいます。また、MetaのCEOであるマーク・ザッカーバーグもアバターを着てVRで入ってくる世界をメタバースと呼んでいるので、私はこういう世界をメタバースだと考えているんです」

ライター
「ゲームの世界もメタバースだ、という方もいるようですが、どう思われますか?」

ねむさん
「ここで生活している『メタバース原住民』としての実感では、『ここで人生が送れる』という部分がこれまでのゲームなどの仮想空間とメタバースとの違いなのかなと思っています。アバターの姿を通して体と体が触れ合って、現実世界と同じようなコミュニケーションができます。ものを作り、経済的なやりとりもできる。現実世界の楽しみであるゲームと異なり、こちらの世界が人生の主軸になりうるという意味で、私の考えではゲームとメタバースは違うのかなと思います。今後、ゲームがもっと高度になって、メタバースに近づいてくる、ということはありうると思います」

メタバースとはなにか

▲メタバースの定義は10人の専門家がいれば10の定義があるという
出典:バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論(技術評論社)』

 

ねむさんが著書『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』で説明しているものに、『メタバースの7要件』があります。ねむさんは、この7つがそろっているものをメタ―バースと考えているとのこと。改めて説明していただきました。

1. 空間性

「今いる場所のような、三次元の空間があるということです」

2. 自己同一性

「自分の望む好きな姿になれるということです。ゲームではいまのところ、基本的にゲーム内で用意されたキャラクターにしかなれません」

3. 大規模同時接続性

「VRChatはひとつのワールドに40人くらいは入れますが、まだちょっと少ないですよね。『cluster』というプラットフォームなら、1000人くらいは入れます」

4. 創造性

「この世界の中で自由にいろいろものを作れるんです。自分で作ったオブジェクトを持ち込んだり、音楽ライブをやったり、アート作品をバーチャル空間の中で作れたり」

5. 経済性

「ユーザー同士でお金を交換して、お互いに稼いで生きていけるイメージです。例えば、現実世界で言う美容室のように、私のアバターの髪型を変えてもらって、やってくれた人にお金を払う、みたいな」

6. アクセス性

「VRChatは、VRゴーグルがなくてもパソコンで入れます。目的に応じて最適なアクセス手段を選べることがアクセス性です」

7. 没入性

「いま私たちがやっているみたいに、VRゴーグルなどを使って全身で没入してこの空間に入れるということですね」

▲ライターのアバターに比べ、あまりに表現力豊かなねむさんのアバター。腰と足首にもトラッカーを付ける「フルトラッキング」により、没入感を楽しんでいる。

 

主要なプラットフォームは「VRChat」「cluster」「バーチャルキャスト」「Neos VR」など

ライター
「今いるのはVRChatですが、他の主要なプラットフォームにはどんなものがあるのでしょうか?」

ねむさん
「人口では、世界的にもVRChatが群を抜いています。おそらく、メタバース人口の9割以上が使っています。オリジナルアバターのアップロードなど技術的なことをしようとすると難易度が高い部分もあるのですが、コミュニケーションに特化していて、アクセス権限などが細かく設定できます。いまいるこのワールドも、私が呼んだ人しか入れないようにしているんですよ」

ライター
「だからふたりきりで話ができるんですね」

ねむさん
「他には、国産でclusterや『バーチャルキャスト』があります。clusterはライブイベントに向いたサービスです。何千人も集められます。
バーチャルキャストは私のようなVTuberの動画配信に特化したサービスです。いまこのVRChatは定点カメラですが、カメラを動かしてかっこいい映像にしたり、テレビ番組に使っているようなカメラや、クイズ番組のようなボタンもそろえたりできます。
海外で2番目くらいに人気のある『Neos VR』は、創造性と経済性に特化していて、仮想空間の中で共同でモデリングやプログラミングもできます。また、仮想通貨によりお金の交換もできるんです」

主要なメタバースプラットフォームとメタバース7要件比較

▲主要なプラットフォームと「メタバース7要件」比較
出典:バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論(技術評論社)』

 

ライター
「いろいろあるんですね! 初めての人は、ひとまずVRChatでウロウロしてみるのがよさそうですね」

ねむさん
「ウロウロするといっても、適当なワールドに入っちゃうと、外国人しかいないような場所に行ってしまったり、治安が悪いところに入ったりしちゃうこともあります。おすすめは、ツイッターなどで『VRChat 初心者』で調べて、初心者案内のワールド(「[JP] Tutorial World」などが有名)に行くのがいいと思います。ボランティアの人が使い方を教えてくれたりしますよ」

ライター
「なんと……優しい世界ですね!」

ねむさん
「ちょっと行ってみますか? パブリックなので他の方もたくさんいると思います」

その後、一般の方もたくさんいる日本語のワールドを訪れ、壁にガイドが貼ってある場所へ行きました。ねむさんは有名人らしく「ねむさんだ」と声をかけられ「こんにちはー」と手を振る姿も。

バーチャル美少女ねむ

▲「[JP]TUTORIAL WORLD」内をねむさんに案内していただいた。操作方法のチュートリアルのほか、壁にはイベント一覧なども。

手元のコントローラーで他の方のプロファイルを見て、フレンドになる手順も教えてもらい、メタバースの入り口くらいは楽しめたのでは……! という感触でした。

 

VRヘッドセットは慣れないと重い!

やはりVRの世界で見ると「画面でしか見ていなかったねむさんに会えた!」という感覚になるのが不思議です。また、アバターも精密に動かしてみたい気持ちになり、多くの人がフルトラッキングにする気持ちが分かるような気がしました。

私が使っていたのは『Meta Quest 2』で、比較的軽いヘッドセットですが、頭に固定するバンドにより、圧迫感がありました。長く続けていると疲れてきます。ただし、これもいずれ慣れていくようで、ねむさんは毎日何時間もメタバースの世界に居続けられるそうです。

MetaQuest2

MetaQuest2 着用 女性

また、明るい画面を見ていると感じるような、目の疲れもありました。

MetaQuest2 コントローラー 手元

手に持つ『Touchコントローラー』は、ゲームの操作のように、慣れれば慣れるほど快適なのだろうと思います。ただ、まだ慣れていないので不自由さは感じます。無意識でもコントロールできるようになると、現実の世界とより近くなっていくのではないでしょうか。そういう意味で、ゲームの操作に慣れている方は、メタバースの世界にも慣れるのかもしれません。

・・・

次回は「データから紐解くメタバース」。ねむさんが行った「ソーシャルVR国勢調査2021」から見えてくるメタバースの意外な実態に迫ります。お楽しみに!

聞き手・ライター:栃尾 江美(とちお えみ)