最近のバズワードにもなっている「メタバース」。Facebookが2021年に商号をMetaに変更し、一気に話題となりました。いろいろ調べてみるも「あれもこれもメタバース?」と、認識が広まるばかりで、実態がよくわからないのではないでしょうか?
そこで、『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』を著したバーチャル美少女ねむさん(通称:ねむさん)に、メタバースの世界を案内してもらいながら、何回かに分けてお話しいただくことにしました。今回は、メタバースの定義やプラットフォームの話題です。
最初の準備に戸惑いながらも、ねむさんとお会いできた!
ねむさんは、個人で活動するVTuberとしては世界最古。その後、VRの世界に入り、今はそこから動画配信などもしています。昼間は現実の世界でまったく別の仕事をしながら、夜は配信をしない時もVRの世界で生活し、別の人生を送っているのです。
今回、ねむさんにはVRの世界で取材させていただくことにしました。舞台となるのは『VRChat(VRチャット)』です。数日前から準備をし、当日はVRヘッドセットをしてVRChat内にログイン。VRChat内で最初に入るのは、自分の『ホームワールド』です。
あらかじめフレンド登録をしていたので、ねむさんを『Invite』すると、目の前にねむさんが登場しました! ねむさんはソファに座っているような状態で、思っていたより大きい気がします。取材のためにいくつか技術的な設定をしていただいたあと、VRChatの世界を案内していただきます。
まず、アバター変えてみますか? ここに鏡があるので、こっち来てください。こっちこっち
自分の姿が見えました。ねむさん、大きいんですね
いや、栃尾さん(ライター)がめちゃんこ小さいんです。私は160cmくらいで、VRの世界では標準くらいですよ。ミラーの右側のパネルからアバターが選べるので、変えてみましょうか
では、こちらで。おお、大きくなった!
背が小さいうちは、ねむさんが大きく見えたのですが、自分のアバターを大きくすると、ねむさんが小さく見えます。当たり前なのですが、子どもの世界や目線を体感したり、男女の違いを体感したりするのに有効ではないかと想像しました。アバターの大きさが変わることで世界が違って見えるのは新たな発見です。
ねむさんが考える「メタバースの定義」と主要プラットフォーム
いつの間にかVRの世界へ入り、スムーズにねむさんと話をしていましたが、今いる場所はいわゆるメタバースなのでしょうか? 話す人によって「メタバース」っていろいろと定義があるような……。
ねむさん
「メタバースって人によって指しているものが違うので、確かな定義はないっていうのが答えではあります。ただ、初めてメタバースという言葉が登場したのは『スノウ・クラッシュ』というSF小説で、その中では今の私たちのように、VRゴーグルを被ってアバターの姿になって入ってくる世界をそう呼んでいます。また、MetaのCEOであるマーク・ザッカーバーグもアバターを着てVRで入ってくる世界をメタバースと呼んでいるので、私はこういう世界をメタバースだと考えているんです」
ライター
「ゲームの世界もメタバースだ、という方もいるようですが、どう思われますか?」
ねむさん
「ここで生活している『メタバース原住民』としての実感では、『ここで人生が送れる』という部分がこれまでのゲームなどの仮想空間とメタバースとの違いなのかなと思っています。アバターの姿を通して体と体が触れ合って、現実世界と同じようなコミュニケーションができます。ものを作り、経済的なやりとりもできる。現実世界の楽しみであるゲームと異なり、こちらの世界が人生の主軸になりうるという意味で、私の考えではゲームとメタバースは違うのかなと思います。今後、ゲームがもっと高度になって、メタバースに近づいてくる、ということはありうると思います」
ねむさんが著書『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』で説明しているものに、『メタバースの7要件』があります。ねむさんは、この7つがそろっているものをメタ―バースと考えているとのこと。改めて説明していただきました。
1. 空間性
「今いる場所のような、三次元の空間があるということです」
2. 自己同一性
「自分の望む好きな姿になれるということです。ゲームではいまのところ、基本的にゲーム内で用意されたキャラクターにしかなれません」
3. 大規模同時接続性
「VRChatはひとつのワールドに40人くらいは入れますが、まだちょっと少ないですよね。『cluster』というプラットフォームなら、1000人くらいは入れます」
4. 創造性
「この世界の中で自由にいろいろものを作れるんです。自分で作ったオブジェクトを持ち込んだり、音楽ライブをやったり、アート作品をバーチャル空間の中で作れたり」
5. 経済性
「ユーザー同士でお金を交換して、お互いに稼いで生きていけるイメージです。例えば、現実世界で言う美容室のように、私のアバターの髪型を変えてもらって、やってくれた人にお金を払う、みたいな」
6. アクセス性
「VRChatは、VRゴーグルがなくてもパソコンで入れます。目的に応じて最適なアクセス手段を選べることがアクセス性です」
7. 没入性
「いま私たちがやっているみたいに、VRゴーグルなどを使って全身で没入してこの空間に入れるということですね」
主要なプラットフォームは「VRChat」「cluster」「バーチャルキャスト」「Neos VR」など
ライター
「今いるのはVRChatですが、他の主要なプラットフォームにはどんなものがあるのでしょうか?」
ねむさん
「人口では、世界的にもVRChatが群を抜いています。おそらく、メタバース人口の9割以上が使っています。オリジナルアバターのアップロードなど技術的なことをしようとすると難易度が高い部分もあるのですが、コミュニケーションに特化していて、アクセス権限などが細かく設定できます。いまいるこのワールドも、私が呼んだ人しか入れないようにしているんですよ」
ライター
「だからふたりきりで話ができるんですね」
ねむさん
「他には、国産でclusterや『バーチャルキャスト』があります。clusterはライブイベントに向いたサービスです。何千人も集められます。
バーチャルキャストは私のようなVTuberの動画配信に特化したサービスです。いまこのVRChatは定点カメラですが、カメラを動かしてかっこいい映像にしたり、テレビ番組に使っているようなカメラや、クイズ番組のようなボタンもそろえたりできます。
海外で2番目くらいに人気のある『Neos VR』は、創造性と経済性に特化していて、仮想空間の中で共同でモデリングやプログラミングもできます。また、仮想通貨によりお金の交換もできるんです」
ライター
「いろいろあるんですね! 初めての人は、ひとまずVRChatでウロウロしてみるのがよさそうですね」
ねむさん
「ウロウロするといっても、適当なワールドに入っちゃうと、外国人しかいないような場所に行ってしまったり、治安が悪いところに入ったりしちゃうこともあります。おすすめは、ツイッターなどで『VRChat 初心者』で調べて、初心者案内のワールド(「[JP] Tutorial World」などが有名)に行くのがいいと思います。ボランティアの人が使い方を教えてくれたりしますよ」
ライター
「なんと……優しい世界ですね!」
ねむさん
「ちょっと行ってみますか? パブリックなので他の方もたくさんいると思います」
その後、一般の方もたくさんいる日本語のワールドを訪れ、壁にガイドが貼ってある場所へ行きました。ねむさんは有名人らしく「ねむさんだ」と声をかけられ「こんにちはー」と手を振る姿も。
手元のコントローラーで他の方のプロファイルを見て、フレンドになる手順も教えてもらい、メタバースの入り口くらいは楽しめたのでは……! という感触でした。
VRヘッドセットは慣れないと重い!
やはりVRの世界で見ると「画面でしか見ていなかったねむさんに会えた!」という感覚になるのが不思議です。また、アバターも精密に動かしてみたい気持ちになり、多くの人がフルトラッキングにする気持ちが分かるような気がしました。
私が使っていたのは『Meta Quest 2』で、比較的軽いヘッドセットですが、頭に固定するバンドにより、圧迫感がありました。長く続けていると疲れてきます。ただし、これもいずれ慣れていくようで、ねむさんは毎日何時間もメタバースの世界に居続けられるそうです。
また、明るい画面を見ていると感じるような、目の疲れもありました。
手に持つ『Touchコントローラー』は、ゲームの操作のように、慣れれば慣れるほど快適なのだろうと思います。ただ、まだ慣れていないので不自由さは感じます。無意識でもコントロールできるようになると、現実の世界とより近くなっていくのではないでしょうか。そういう意味で、ゲームの操作に慣れている方は、メタバースの世界にも慣れるのかもしれません。
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次回は「データから紐解くメタバース」。ねむさんが行った「ソーシャルVR国勢調査2021」から見えてくるメタバースの意外な実態に迫ります。お楽しみに!