
インタビューを受けるにあたり、「らしさがないのがあなたらしさだよね」と妹に言われたという鈴木陽子さん(36)。はたで聞くと辛辣なように思うものの、本人はなんだか納得をしたのだとか。それは鈴木さんが、自分より周囲を主体に行動してしまう性格だから。人の役に立ち、感謝されることが喜び。でも、そのことが働く上での足かせになることもあった。
サービス業でのハードワーク
大学卒業後にマレーシアへ留学した鈴木さんは、帰国後、出版社を経てホテルで契約社員として働いていた。ホテルのサービスはホスピタリティが大事と言われるが、それが過剰だったのだそう。
「職場全体に、無償でサービスをして当たり前、という空気がありました。ホテルとして、ノーを言わない雰囲気です。お客様に対してだけでなく、従業員の業務に対しても。仕事量が多くサービス残業をするのが当たり前で、拘束時間に対してお給料も十分と言えるものではありませんでした」
「見る目がないのか、つい“ハードワーク”なところを選んでしまうようで……」と鈴木さんは言うが、断れない性格が悪い方向に転じてしまったのかもしれない。
患者さんや医師から感謝される喜び
その後、契約社員として病院へ勤めるようになった。そこで、仕事のやりがいを改めて感じることになる。
「感謝されることがやりがいだと感じています。病院はその最たる場所。産婦人科病棟の事務を担当していましたが、患者さんが元気になって退院したり、赤ちゃんと一緒に帰ったりしていく様子を見るのはとても嬉しいもの。それ以外にも、入院している患者さんの案内や、ドクターや看護師の働きやすい環境を整えることは、とても楽しい仕事でした」
仕事を休んだ日には「昨日、鈴木さんがいなかったから大変だったよ」と言われたこともあるという。複雑な反面、頼りにされていると感じ、とても嬉しかった。
鈴木さん自身にも子どもができ、育休を経て別の病院で派遣スタッフとして働くことに。まだ働き始めて数か月だが、自宅に近い病院ということもあり、地域の情報に明るくない医師の助けができ、やりがいを感じる経験もあるという。
派遣スタッフとして働くようになって、それまで「ノー」と言えなかった鈴木さんでも、要望を伝えられるようになった。
「契約社員の時は『嫌なら辞めよう』と考えてしまいがちでしたが、派遣スタッフの場合は違う。派遣会社の担当の方に要望や不安を伝え、職場との間に入って改善してもらうことができます。今の職場では土曜日の出勤があって、普段より病院の常勤の方が少なく、不安なことがあったので改善してもらうようお願いしたところです」
子育ては、仲の良いママ友たちと手を取り合いながら
育休からの復職時に、まったく新しい職場で働くようになったが、育児と両立しながら新しい職場にも慣れなくてはいけない。どんな苦労があったのだろうか。
「やることが多くて最初はすごく大変でしたが、『手を抜く場所は抜く』ようにしました。例えば、食事はカット済みの料理キットのようなものを購入して、手間を省きます。洗濯も、除湿乾燥機を使って、夜のうちに干したものが乾くようにしています」
また、夫にやってほしい家事などもしっかりと伝えるようにした。最初はなかなか理解されなかった家事や育児の大変さを、最近はよくわかってくれているという。
育児や夫婦の役割分担に、強力な助け舟を出してくれているのが「ママ友のネットワーク」。地域の子育てサロンで出会った、子どもの月例が近いメンバーで、LINEグループでやり取りしている。子育ての悩みや愚痴を言い合い、励ましやアドバイスをしあっているという。
その中でも「人の役に立ちたい」性格を発揮し、集まりの幹事を担当している。区民館などの一室を借りて、そうめんやおでんを一緒に食べるといった会を企画しているそう。
「過去に児童養護施設の子どもと遊んだり、小児科で入院している子どもと遊ぶボランティアをしていました。今後は知り合いが開きたいと言っている子育てサロンも手伝いたい。これからのお母さんを応援する活動をしたいと思っています」
仕事でも、プライベートでも、誰かのために活動する。「自分らしさ」がないのではなく、人のために行動することこそが、鈴木さんらしさなのだ。
子どもから初めてもらったプレゼント
デスクにおいてあるのは、ブレンド茶の入ったボトルと、コーヒーやランチのスープなどを飲むためのマグカップ。カップは結婚祝いとしていただいた、ペアの片方なのだとか。
乾燥対策のリップクリームを入れているのは、手作りのリップケース。キノコの「カサ」が外れるようになっており、リップクリームを出し入れできる。バッグなどにつけて持ち歩く。子どもが生まれてから始めた編み物は、子どもをスリングに入れて歩き回り、寝かしつけをしながら編み進めたという。デザインは、Webの記事を参考にしたオリジナル。
ペン立ては、母の日に保育園で作ってくれたもの。初めての母の日のプレゼントがうれしくて、すぐに職場で使うようになった。職場の人と雑談のきっかけにもなるのだそう。
そのお子さんと一緒に行ったワークショップで作った、花粉症用のアロマミストもお気に入り。時期でなくても、リフレッシュしたいときにひと吹きする。
カメラマン:刑部 友康(おさかべ ともやす)