自分の意思を明確に持ち、まっすぐに相手の目を見て話す。それが翻訳を生業とする満 山紅(まん さんこう)さん(48)だ。「ずっと自立していたいから生涯働き続けていたい。自分のものは自分が稼いだお金で買いたいんです」と、はっきりとした物言いから感じられる自信は、満さんの仕事の仕方にヒントがありそうだ。

社会人として大切なことは、1社目で学んだ

東京の西側、日野市に本社をかまえる日野自動車株式会社で、派遣スタッフとして翻訳の仕事をする満さん。進学を機に中国から来日したというが、最初に就いた職は、建設会社の技術設計者だった。大学院で学んだことを生かしながら、競技場の設計などを現場から経験した。そして4年目には日中共同プロジェクトに抜擢され、語学力を活かしてコーディネーター・通訳・翻訳などあらゆる業務に奔走。その経験が、いまの翻訳業に繋がっているそうだ。

「本当にいい会社で、私のことを“社会人”にしてくれました。人にも環境にも恵まれ、人間的にすごく成長できたんです。実は今でも繋がりがあって、たまにお手伝いをしているんですよ」

仕事をする上で、すべての鍵となるのはコミュニケーション。技術や能力よりも、どういう姿勢でコミュニケーションを取るかのほうが、よっぽど大事だと学んだという。

仕事は非常にやりがいがあった。年に何度もある出張も「スーツケースを引きながら成田空港を歩くときの、緊張感が好き。自分に自信が出るんです」と楽しんでいた満さんだが、妊娠を機に退職。社会復帰の際も声をかけてもらったものの、子育てをしながらの柔軟な働き方は、難しいと思ったそう。

プロでも努力を怠らない。毎日の積み重ね

仕事復帰後に選んだのは、翻訳の派遣スタッフという働き方だった。子どもの送迎のため、定時に上がりたい。そう思ったら、派遣という選択肢が浮かんできた。

前職で翻訳の仕事をしていたこともあり、スキルアップにと、妊娠中に通訳学校に半年間通った満さん。「時間があったから」と軽やかにいうが、実際は相当努力したことだろう。たくさんの刺激を受けたというが、1番の衝撃は、世界的な会議などで同時通訳をするプロである講師たちが、新聞を欠かさず読むなど、日々勉強をしている姿だったそう。

「学問に頂点がないんだと知りました。語学の勉強って本当に積み重ねなんです。留学したら、最初の1年は誰もが猛勉強します。それは生活のため、生きるため。けど、そこからさらに頑張れるか、レベルを上げられるかは意識して勉強するかどうかなんです。たったそれだけのことが、その後を大きく左右するんですよ」

それから満さんは、翻訳者として10年以上のキャリアを積んでいるいまも、毎日出勤中にYouTubeなどを聞いて勉強している。今日より明日、今年より来年。より優れた翻訳者になるためにコツコツと積み重ねているのだ。

プラスアルファの気遣いが自分の価値になる

仕事をする上で、満さんは「プラスアルファで納品すること」を心がけているという。

翻訳というのは、ただ言語変換すればいいのではない。特に曖昧な表現が多い日本語からの翻訳においては、「この文章は本当にこの解釈でいいのか」という確認が必要になる場合も。なかには確認をせずに、自分の解釈で納品する人もいる。いわれた仕事をそのままやるのではなく、一度立ち止まり、必ず先方に確認するのが満さんの仕事の仕方だ。

「その結果正しい翻訳ができた方がいいし、間違っていなければそれでいい。場合によっては元の日本語文の改善にも繋がります。そしたら、先方にとっても、日本語版を読む人にとっても、他言語版を読む人にとってもハッピーでしょう。これが私という翻訳者の“価値”になると思うんです」

この気遣いこそが、翻訳者としての満さんの自信に繋がっている。

自分にしかできない仕事をするために

自分を強く持ち、自信を持って仕事に取り組む満さん。その原点には「自分にしかできない仕事がしたい」という想いがあるというが、意外にも、そう考えるようになったのはここ数年だという。

「最初の建設会社も2社目の翻訳者として初めて勤めた会社もすごくいい会社で、ある意味環境に甘やかされて天狗になっていたんです。けれど、2社目が事業縮小で解散になって、いざ転職活動をしてみたら面接で見事に落とされて。そこで自分の傲慢さに気づいたんです。すごく恥ずかしかったし、猛烈に反省しました」

翻訳者として、魅力的な自分とはなにか。見つめ直した先に見えたのは、自分にしかできない仕事をすることだった。

仕事で褒められたら嬉しいし、自信が持てるようになる。そうすれば許容範囲が広くなって、たとえきついジョークを投げられても笑って流せる。周りも自分もハッピー!

ただ目の前の仕事に向き合うだけでなく、翻訳を通して仕事全体を見通すようになった。それが、満さん流の、プラスアルファの仕事の仕方にも繋がる。

インタビューの最後に、愛用品があるか、たずねてみた。

「ものに執着がないから、ないんです」。その潔さも、満さんらしい。

ライター:小山 典子(こやま のりこ)
カメラマン:坂脇 卓也(さかわき たくや)

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