「今、最もエネルギーを注いでいるのは武道」という熊谷宏子さん(54)。体調不調をきっかけに出会い、体と心の状態がよくなった。さらに、生き方の学びにもつながっている。現在は武道のインストラクターを目指して勉強中という熊谷さんに、これまでの紆余曲折や、今後の生き方についてうかがった。

*今回はオンラインで取材を行いました
*掲載しているお写真は、ご本人より提供いただきました

「生活のために一緒にいるのは相手に失礼」と離婚を決意

もともとエンジニアとして働いていた熊谷さんは、数年働いたのち、忙しさやストレスなどから、体とメンタルに不調をきたしてしまった。

「結婚していたのですが、家庭もうまくいっていませんでした。体調を崩して仕事を辞めてから、断続的にアルバイトや短期の仕事をつづけながら治療をするも、なかなか良くなりません。そんな中、40歳になる直前に将来を考え直してみて、ひとりで生活できる収入がないからといって『生活のために夫と一緒にいる』という状況がよくないと感じて。自分も苦しいし相手にも失礼だと思い離婚を決意しました」

熊谷さんを決意させたのは「もし私が健康で、十分な収入があったら、この人と一緒にいるだろうか」という問いだったという。そこで「NO」を出した自分の気持ちに正直に行動した。

とはいえ、経済的な不安が大きくのしかかる。当時の夫と話し合ってしばらく別居という形態をとり、何とか生活できるだけの収入を得るまでは援助してもらっていた。

治療で出会った武道で心の状態も健全に

さまざまな治療の中で、ようやく自分に合う治療を見つけた。治療院に通ううち、院長が教えている武道「愛手(まなで)」にも興味がわき、習うことにしたのだそう。

「武道を習い始めて、体調がさらに良くなっていきました。武道を通して自分の心と体をコントロールして、これらの状態を整えていく。元気にする方法を教えてもらっています」

奥が深い武道を始めたことで、自らが大きく変わったと感じているという。

「一番の変化は、怒らなくなったことです。それまでは、人に何か言われるとカッとなるほうでした。武道をしていると、頭に来るのは怖いときだとわかります。攻撃されて怖くなり、カッとなってやり返してしまうんです。恐怖心を持たなければ、冷静に対応できます」

瞬間的にカッとなるため、コントロールは難しい。とっさに出る反応は自分が隠している部分でもあるため、鍛錬するのは一朝一夕ではいかないだろう。

また、相手の攻撃を見て「この人は自分をどうしたいのか」を考えて一度受け入れ、相手の力を利用して対処する経験は、日常のコミュニケーションにも共通点がある。

「怒らないようになってから、仕事もやりやすくなりました。それまでは『やることをやっていればいい』という考えがあり、気難しい人だと思われていたと思います。でも、よい成果を出すためには、よい人間関係が必要だと考えるようになりました。周囲とうまくやることが自分にとってもいいこと。周りの人に対して不満を感じることもなくなりました」

武道の稽古は道場の中だけではない。一緒に武道を習っている仲間と小笠原諸島での合宿をはじめ、スキーやスケートなど、非日常を体験することで、自分のより深い部分に潜む恐怖心を引き出し、コントロールできるように稽古している。

短期の仕事で早くなじむコツを徐々に覚えていった

武道に出会って体調がよくなる前にも、さまざまな仕事を経験。その中でも大きく成長したと感じているのが秘書業務だ。

「趣味で合唱を習っていたところ、その先生の個人事務所を手伝うようになりました。一人で没頭するエンジニアの仕事とは全く違い、相手に合わせて気持ちを汲み取っていくことを覚えました。自分の意見を通すのではなく、全体がうまくいくよう心がける、という考え方に変わっていったと思います」

そのあとも、派遣スタッフとして短期の仕事に多く携わった。

「短期の場合は、忙しい現場で即戦力になる人材を求めているケースが多い。もともとのんびりとした性格でしたが、一刻も早くその環境になじんで仕事を理解し、早くお役に立ちたいと意識するようになりました。具体的には、必要とされている資料だけでなく、その前後のやりとりを含めた資料探し、自分宛でないメールなども理解するよう努めます。周囲の方の会話から、わかってくることも多いですよ」

忙しい現場に入るときは、ただ待っているのではなく、自分で情報を取りに行く方法も身に着けた。

「死ぬまで仕事をしたいと思っています。武道のほかに茶道も長く取り組んでおり、どちらも人に伝えていきたい。人の役に立っているから、生きる価値があるのだと思います。直接収入に繋がっていないように見えても、人の役に立てていれば、いつかどこかで豊かさとなり、自分に返ってくるのではないでしょうか」

熊谷さんは「人の役に立つためにも、まず自分の心と体を整え、快適であることが大切」と考える。健康を害してそれらを取り戻したからこそ、より実感するのだろう。

集中力が高まる、武道と茶道

武道の稽古で使う「剣」は自宅に置いてあり、リモートワークの合間に振ることも(上から3枚目の写真)。集中力が高まって効率も上がるのだとか。

ずっと続けている茶道は、武道と共通点が多い。きまった秩序を外さなければ、自由な発想で楽しめるという。「クリスマスのときには、掛け軸にポップな絵を使ったり、明るいデザインの小鉢をお茶碗にしてみたりと、いろいろ工夫できます。絶対に必要なのは茶せんくらい」と熊谷さん。

ライター:栃尾 江美(とちお えみ)

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