20代後半で「うつ病」を患った瀬川博之さん(48)。体調が悪く起き上がることもままならない日々もあったが、いまは建設関連会社の事務職として、週5日、フルタイムで働く。病いを受け入れて、目の前の課題をゆっくりと乗り越えてきた瀬川さん。「居場所」と呼べる職場と出合い、充実した日々を送っている。

*今回はオンラインで取材を行いました
*掲載しているお写真は、ご本人より提供いただきました

激務で体重が20kgダウン。心も悲鳴を上げた

高校時代は陸上部の部長として部員をまとめ、大学時代はプラズマ物理学の研究に没頭。社会人になってからは、平日は仕事に集中し、週末はたくさんの友人とスポーツや釣りに興じていた。

そうしてアクティブに活動していた瀬川さんが、心身の不調に悩むようになったのは、食品工場で生産マネジメントを担当していた頃だ。

「とにかく激務でした」と瀬川さん。聞けば、出社は昼頃だったが、夕方から夜間にかけての管理業務を一人で任され、朝5、6時に帰宅するのがふつうだったという。工場にいる間は食事をとる余裕もなく、家に帰れば倒れ込むように布団へ。気づいたら体重は20kgも落ちていた。

さらにこの頃、追い打ちをかけるように過酷な出来事が重なり、瀬川さんは会社に行けなくなってしまった。

「体に力が入らず、会社からの電話に出ることもできない。お風呂に入るとか、歯を磨くとかのそれまで当たり前にやっていたことも、ものすごく億劫になってしまったんです」

やむなく退職。辛さに耐えかね切羽詰まって精神科の扉をたたいたところ、「うつ病」と診断された。

介護の仕事で社会復帰

通院しながら服薬治療を続けると、少しずつ体調が回復。「そろそろ社会復帰を」と選んだのは、それまでとはまったく畑が違う介護職だった。

「祖母が認知症になり、介護の知識があれば役に立つかもしれないと思いついたのがひとつのきっかけでした」

働きながら受講することで授業料が免除になる制度を利用し、介護ヘルパー2級(介護職員初任者研修)の資格を取得。病気については伏せたまま、認知症対応型のグループホームで働き始めた。

仲間のまとめ役を率先して引き受けたり、食品工場時代にもアルバイトの学生たちと親しく交流したりと、もともと人とふれあったり人のために動くことは嫌いではなかった。だから収入は充分とはいえなかったが、介護の仕事は性に合っていたそうだ。

「利用者さんのお世話をしながら話を聞くのが楽しかったですね。いろいろな人生があることを学び、自分の考え方も少し柔軟になったような気がします」

ところが、ある事情でしばらく服薬を休止せざるを得なくなり、めまい、頭痛、吐き気といった深刻な離脱症状で再び仕事を続けることが困難に。その際、自治体のケースワーカーに取得をすすめられたのが「精神障害者保健福祉手帳」だった。

「障害者手帳」を取得し、病気をオープンに

「精神障害者保健福祉手帳」とは、精神疾患のために長期にわたり日常生活または社会生活への制約がある人に対して交付されるもの。手帳があれば、企業の「障がい者雇用枠」へのエントリーが可能になる。

「話を聞いてはじめて、自分の状態が手帳の基準にあてはまることを知ったんです。もう病気を隠さずに堂々と働けるんだ、仕事も探しやすくなるかもしれないと、少しほっとしました」

ただ残念だったのは、「障害者手帳をもらった」と話したことで離れていく友人がいたこと。

「おそらく、病気のことも手帳のことも正しくは理解してもらえなかったのだと思います。『お前はそれでいいのか』と責められたりもしました。わかってもらえないのは淋しいですが、仕方ないですね」

他人ありきの自分から、自己完結の“らしさ”へ

手帳を手にした瀬川さんは「障がい者雇用枠」で採用された2つの職場を経て「アビリティスタッフィング*」の就業支援サポートへ。ここで事務系の業務の経験を積んだ後、縁あって入社したのがいま籍を置く会社だ。
*リクルートスタッフィングが運営する精神障がい者の方向けの人材紹介事業

「幸い、職場は病気に対する先入観や偏見がなく、おおらかに見守ってもらっている安心感があります」とにっこり。「ここで病気とうまく折り合いをつけながら、周りの人が仕事に集中できるように、僕なりに全力でバックアップしていきたいですね」と、「居場所」に出合えた喜びを語る。

「以前は迷ったり悩んだりしたとき、常に外側、つまり他者に答えを求めていたのですが、この頃はまず自分の内側に問いかけるようになりました。いままで自分らしさだと思っていたものは、他人ありきの自分だった。いまは自己完結しているイメージ。気持ちがとても楽になりました」

「考える時間だけはたっぷりありましたからね」と振り返る瀬川さん。ときに立ち止まりながらもその時できることに精一杯取り組んできた20年間は、本当の「らしさ」を探す道のりだったのかもしれない。

同好の士と海に出て楽しむ釣りは最高

うつ症状が最もひどい頃は、好きな釣りもスポーツもまったくやる気が起きなかった。比較的安定しているいまは、釣りに出かけたり家でスポーツ中継を見たりして休日を過ごしている。

家の近所に池があり、釣り歴は小学生の頃から。愛用している竿は20年、リールは10年と、いずれも年季もの。ていねいにメンテナンスをして使い続けている。職場や地域の釣り仲間と船を貸し切って、東京湾に出ることもあるそうだ。「たまたま、いまの職場関係には釣り好きが多いんです。会話も盛り上がります」

サッカー観戦も大好きな趣味のひとつ。スペインのクラブチーム「FCバルセロナ」のファンで、2005年からチームユニフォームを集め続けている。「年に2、3種類新しいものが出るので、かれこれ50枚くらい。タンスのなかが大変なことになっています(笑)」

ライター:高山 ゆみこ(たかやま ゆみこ)

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